引っ越しのマカイ ―家出令嬢、臆病パンダ娘と引越し業者でスローライフを送ります―

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
14 / 15
第三章 過去との決別

第14話 母と娘と、これから母になる友と

しおりを挟む
「アンパロ、どうしたの?」

 エバから呼びかけられて、私は我に返る。

「い、いや、なんでもないよ。それよりおめでとう」
「ありがとう。アンパロに祝ってもらうのが、一番うれしい」
「なにかパーティでも」
「いいよ。お仕事が忙しそうだし」

 もし話し込むと、私を引き止めてしまいそうになるそうだ。

「でも、離れちゃうんだね」
「そうなんだ。もう会えないかも」
「なにもできなくて、ごめんね。アンパロ」
「そんな! エバがいてくれるだけで、私は幸せだよ!」
「ありがとうアンパロ。わたし、アンパロになんでももらってばかりだよぉ」

 私はエバと抱き合い、別れを惜しむ。

 せめて最後の夜くらいはと、家族だけで一緒に過ごす。

 荷物は、先に引越し先へ運んでもらった。

 久しぶりに食べた母の手料理は、相変わらずおいしい。
 実母が料理のできない人だったので、私もその血を受け継いでしまった。

 家族との他愛のない会話なんて、何年ぶりだろう。

 父の目があって、母とここまで親子のような関係になった記憶がない。

「私は、あなたの実のお母さんのように振る舞えたかしら?」
「もちろん」

 実の母は、祖父が亡くなったときに出ていった。祖父との不貞が、父にバレたからだ。

 現在の母は、当時勤め人だった父の同僚だった人である。私の出生も、ある意味では実母を追い出す口実だったのかもしれない。

 なりふり構わない父の態度に、兄と姉は出ていったのだ。
 たまに手紙をくれるが、向こうで家族を作って幸せに暮らしているという。あの二人が父に似ないで、本当によかった。

 今の母は彼女なりに、私に接してくれていたのを覚えている。実の母と同じように。

「本当のお母さんのもとに、行きたい?」

 私は、首を振った。

「母さんも、私の母さんだよ」
「そう。ありがとう」

 なぜか、母は悲しげな顔をする。

「実は、あなたを呼んだのは他にも理由があるの」

 母はそう言って、私に一通の手紙を渡す。実母の住所からだった。

 文面を見て、私は感情がこみ上げてくる。

 つい最近、私を産んだ母が亡くなったらしい。

 家を出た段階で、病巣が広がっていた。家族の負担にならないよう、夫に黙って出ていったそうだ。

 父は何も知らず、ずっと前妻を恨んでいたが。

 母は、幸せだっただろうか。最後に祖父との間に私を残して、あの人は逝った。

 涙を堪えれる私を、母はそっと抱き寄せてくれる。

 ひとしきり泣いて、私は落ち着いた。

 珍しく、母がお酒を開ける。めったに飲まない人なのに。
 やはり、辛い話の後だったからだろうか。

「その……図々しい要望なんだけど、一緒に暮らさない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...