引っ越しのマカイ ―家出令嬢、臆病パンダ娘と引越し業者でスローライフを送ります―

椎名 富比路

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第三章 過去との決別

第13話 依頼主は、母親

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 引っ越しのマカイのもとに、私の母親が来た。

「アンパロ!」

 母が、私を抱きしめる。

 弟と妹が、私の足にしがみつく。

「どうしたの、連れ戻しに来たの?」

 自分でも怖いくらいに、冷たい声が出た。

「違うわ。お父さんとは、別れました」
「そうなの?」

 できるだけ冷静を保ちつつ、話を聞く。

 なんでも、父は逮捕されたらしい。

 例の盗品事件だが、父も盗品とわかった品を売りさばこうとして摘発されたという。

「自業自得よね。それで愛想が尽きました。もとより、私はあなたを追い出した夫には愛情を失っていたし」

 母は父より、私の味方だ。血は繋がっていないが、私は母が好きである。

「それより、引っ越しを頼みたいんだけど」
「うん。どういう場所にしたの?」
「南よ。海水浴もできるのよ」
「いいね。じゃあ、荷物をお預かりしますね」
「そんな他人行儀な。やっぱり、嫌な思い出のある場所だから、帰るのはイヤかしら?」
「とんでもない。エバにも会えるし、いいことづくめだよ」

 口には出さないが、私は父さえいなかったら、どこでもいいのである。

 船で半日過ごし、私は古巣に帰ってきた。今度は、ジュディ社長とムーファンと一緒に。

「ここが、アンパロの産まれたおうちなんだね」

 ムーファンが、私の商店を見上げながらため息をつく。

「アンパロは、ヴィジェガス商会のお孫さんやからな」
「ヴィジェガスって、あの有名な冒険家の?」
「せやで」

 ジュディ社長が、私の出生を解説した。

「そんなすごい人の、お孫さんだったんだ? おじいさんが冒険家だってのは、知っていたけど」
「女クセが悪すぎて、そっち方面で有名になりすぎたけど」

 とはいえ、もう母はヴィジェガスの人間にはならない。南の大陸で、のんびり暮らすのだ。

「あなたがムーファンさんね。アンパロのお友だちになってくださってありがとう」
「いえ。アンパロには助けてもらってばかりで」

 母が、引っ越し作業を手伝うムーファンに礼を言う。

「アンパロ! 帰ってきたんだね!」
「エバ! 久しぶり!」

 旧友のエバが、私の家を尋ねてきた。

「え、エバ? そのお腹」

 エバのお腹が大きくなっている。

「そう。デートがうまくいってさ。一緒に暮らしてるんだ」
「よかった! おめでとう!」
「ありがとう! アンパロがアドバイスしてくれたおかげだよ!」

 母の話でも、旦那とエバはうまくやっているという。

 新しい命を宿したエバを見て、改めて時の流れを感じた。

 私は、前に進めているのだろうか? 

 実父でもある祖父が望んだように、冒険者になったほうがよかった?

 それとも、父を追いやって自分が経営者になればよかったのか?
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