引っ越しのマカイ ―家出令嬢、臆病パンダ娘と引越し業者でスローライフを送ります―

椎名 富比路

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第一章 家出少女と、客を寄せ付けないパンダ

第1話 骨董屋の娘、家を追い出される

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「金、金、金! 父さんは、商家として恥ずかしくないのかな!?」

 私は、父に反論した。

 友だちと遊びに行きたいだけなのに。仕事の手伝いばかりやらされて、私は客に当たってしまったのだ。

「アンパロ! お前は、自分が何をしたのかわかってるのか!」
「うるさいなあ! もうこんな家、出ていってやる!」

 荷物をまとめて、私は出ていった。もうこんな金の亡者共はウンザリだ。

 約束していた友だちの家へ向かう。

「ごめんね、アンパロ。無理を言ってしまって」
「いいの。それより急ごう」

 私は、友だちが男子とデートに行くための服を見てあげる。

「ありがとう」
「デート楽しんでね。あと、もしよかったらなんだけど」

 家出の理由を話して、私は友だちの家に泊めてもらった。

「自由時間なんてないんだよ。つまんない」

 ベッドの中で、友人にグチを聞いてもらう。

 お金より大事なものが、あってもいいはずだ。そう力説してみたが、父には聞き入れてもらえない。

「あーあ。私、メイドさんの方がよかった」

 家の連中は嫌いだが、メイドさんは大好きだ。私は、メイドさんからいろいろなことを学んでいる。片付けの方法やら、荷物の置き方など。そのメイドさんも、出ていってしまった。

「私ね、もっと人に感謝される仕事に就きたい」

 店のお客は、あいさつすらしてくれない。

「ウチさ、骨董品を扱ってるんだよね」

 ほとんどのお客は、ツボや絵画の歴史なんか興味がなかった。どれだけ価値があるかってしか考えていない人ばかり。

「今日の客だって、お水の交換のいらない不思議な魔力花瓶を紹介したのにさ、『売ったらいくらの価値になるのか』ってことしか聞かないの! 三〇〇年前に開発された、珍しーい錬金術式の花瓶なのにさぁ!」

 失礼なお客だけではない。
 客を金としか見ていない父にも、私は不快感を持っていた。

 兄と姉が家を出たっきり帰ってこないのも、よくわかる。

「それは、つまんないね」

 友人も、同情してくれた。

「話を聞く限り、学者になったほうがまだマシって感じだわ」
「お客を選り好みしている私だって、悪いのはわかってる。でも、ああいった質の客ばかり集めている父もどうかと思うんだよね」

 頭の中では、全面的に自分が悪いとわかっている。しかし、納得ができなかった。

「わたしも、憧れる人はいるよ。引越屋さんなんだけど、すっごい仕事が丁寧なの。ワニーナ語の訛りがきつすぎて、魔族だってわかっちゃった。全然聞き取れないの。アンパロなら、わかるんじゃないかな?」

 ワニーナ語は、古代魔族が使用していた言語だという。

「その人も、すぐに出ていっちゃった」

 いい人は、みんなこの街を出ていくらしい。拝金主義に染まるのを嫌うのだろうな。

「やっぱり明日、帰るね」
「アンパロがやりたいように、やればいいと思うわ」

 友人の言葉に励まされ、眠りにつこうとしたときだった。

 私は、友人のおばさんに叩き起こされる。



 ウチが、火事に遭ったそうだ。



 飛び起きて、急いで現場へ向かう。心配だからと、友人もついてきてくれた。

 家が燃えている。並んでいる家々に火が燃え移らないように、我が家だけ壊されていた。

「か、家族は!?」
「アンパロ、あそこ!」

 両親も弟妹も、無事のようである。

「父さ――」

 駆け寄った途端、私は父から裏拳を食らった。

「お前が火をつけたんだろ!」

 母に羽交い締めにされながらも、なお父は私に掴みかかろうとしてくる。

「ウチに文句があるなら、卑怯な手を使わずに直接やればいいんだ! どうしてこんな危険なマネを」

 父は本当に、私を犯人だと思いこんでいるようだった。

「裏手の倉庫から火が出た。あそこの場所を知っているのは、家族だけだ! 身内の犯行なんだ!」

 今まで蓄積されていた怒りが、爆発する。

「ひどい……父さんなんて大っ嫌い!」



 私は、その場を飛び出した。


 父が「捕まえろ!」と叫んでいるのが聞こえる。だが、誰も追ってくる気配はない。父の言葉を信じていないのだろう。

 私のことを、父だけが疑っている。それが、許せない……。

「あれ?」

 通り過ぎた馬車の窓に、ローブをまとった見知った女性を見かけた。港へ向かっている。

 貨物船乗り場まで、私はたどり着く。

 女性も、それに乗り込んだ。

「アンパロ!」

 友人だけが、私を追いかけてきた。

「ごめん。私、街を出るね」

 それだけ言って、私はこっそり船に乗る。チケットも持たず。

「すごい。これ全部、貴重なマジックアイテムだ……」

 ポーションを利用した洗剤、家具類などが、びっしりと貨物船内に並んでいた。

「引っ越しの品なんだ、これ全部……っ!」

 このマークは!?

 荷物の中に、私は見知ったマークを発見する。

 あまりに唐突だったので、うっかり物音を立てた。

「ダレだお前は! 許可証は?」

 監視役の船員に捕まってしまった。

「あ、あの」

 私がたじろいでいると、一人の女性が。

「すまん。そいつはウチの社員なんや。放したってくれ」
「はあ。あなたは?」
「ウチはジュディ。船の依頼人や。『引っ越しのマカイ』の社長や」


 この人、引っ越し屋さんなんだ。
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