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本名プレイ問題

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「ねえユキノリ、あんたってさ、ゲームの主人公を自分の名前にしないよね?」
 
 モモコが、俺の部屋に遊びに来た。
 小学校の頃から高校に上がるまで、毎回である。

「プレイヤーは、自分じゃん。なのに、どうしてかなーって」

 幼少期から、モモコはずっとそれが疑問だったという。

 たしかに、モモコはキャラクター名に必ず本名を入れる。

「なんで? 別にオンラインじゃないから、身バレもしないっしょ?」
「うーん。なんか違うんだよな。自分のようでいて、自分ではないっていうか」

 RPGの主人公は、たいていがとんでもない目に遭う。
 俺はそういう辛い体験はゴメンなので、なるべく違う名前にする。

「でもさ、自分が世界を救ってるってカンジしない?」
「しない」
「即答だね?」
「だって、俺じゃないじゃん。プレイしていくたびに、実物の俺から遠ざかるんだよ」
「それが醍醐味じゃない? 違う自分になれるっていうか」

 どこまでいっても、議論は平行線だ。

「作家だったらわかるよ? 友だちにネット小説書いてる子がいてさ、その子は『自作のキャラを投影』させるんだって」

 作品世界に自作主人公を送り込むと、「自分が主人公を召喚した女神」のような気分になれるんだそうだ。
 
「わかる。その感覚に近いんだよな」

 主人公はあくまでも、俺じゃない。作中のコイツなのだ。
 俺というフィルターがあるだけで、作品世界を穢しているように感じてしまう。

「だからあんたは、ストーリー重視だったり、元々主人公を配置している系の作品ばっか遊ぶんだね?」

  そのとおりだ。
 たいてい、そういうキャラにはデフォで名前がついている。
  
「デフォルトで名無しだと、シナリオでの扱いも雑なんだよな。ストーリーに絡みづらくて、サブキャラばかり目立つし」

 ドラマに絡めないので、作品内での疎外感がエゲツないのだ。
 現実でさえぼっちなのに、ゲーム内でもぼっちが極まってしまう。
 
「うーん。あんたのいいたいことは、悔しいけどわかる」
 
 本名プレイ推奨派あるあるのようだ。

「だったらさ、ヒロインなんてどうよ? 話に絡んでこないなりに、名前は好きに選べたりするじゃん」

 うわあ、トラウマ製造機がきた。

「実は、やったことあるんだよ、ヒロイン実名プレイを」
「どうなったの?」
「俺を裏切った挙げ句死んだ」
「あっちゃー」
 
 
 モモコがズッコケた。
 

「だから本名プレイをやらないんだね。よくわかった」
「俺はゲームに、必要以上の感情を持ち込まない主義なんだ」

 それはそうと、

「どうして、お前はゲームをプレイするとき、名字なんだ?」

 モモコは、ゲームをする時はいつも「おうまえ」である。

「だって今使っておかないと、使えなくなるから」

 今日も、勇者「おうまえ」は進む。
 
「ユキノリのお嫁さんになったら」
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