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ハロウィンを、学食で

第38話 魔王学校の学食で臨時講師

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 オンスロートの手引で、魔王城で出すカレー作りの指導をすることになった。

 まさか、ハロウィンで学食の講習を担当することになるとは。
 研修なので、時間短縮するわけにもいかない。

 レシピを提供し、野菜の切り方やルーの選び方などを教える。

「いいか、カレーには市販の業務用ルーを使うんだ。一からスパイスの調合なんて、しなくていい」

 多種多様のスパイスが、厨房には並んでいた。

 オレはそれを、すべてどける。

「凝ったものを作ると、単価が高くなってしまう。学生が、食費を払えなくなるぞ」

「ういむっしゅー」

 オレのアドバイスを聞きながら、魔物シェフたちがメモを取った。

 学食はある程度、チープなものが好まれる。おいしくて、手に取りやすい値段設定がいいのだ。理想は、ファーストフード以上のファミレス以下である。本格的な贅沢品を作りたければ、街のレストランで出せばいい。

「玉ねぎはアメ色になるまで炒めて、鍋にブチ込むんだ」

「アメ色?」と、魔物シェフたちが首を傾げた。

 そこからかよ。

 フライパンで玉ねぎを炒め続けると、糖質がカラメルとメラノイジンという成分に変化する。それで茶褐色になり、芳ばしい香りや風味が増す。これを「メイラード反応」という。

 と説明してみたが、ダメっぽい。

「ウッドゴーレム色だよー」

「ういうい、むっしゅー」

 プリティカが、助け舟を出してくれた。

 案外、めんどくさいな。 

「イクタおじー。魔物さんたちがわからない単語は、こっちで翻訳するからー」

「わかった。よろしく頼む」

 頻繁にこっちに来ているそうだから、プリティカには魔物たちの言語感覚がよくわかるんだろうな。

「野菜は、こんな感じかな。まだ肉とルーを入れずアレンジすれば、他の料理にも使える。鶏肉を入れて、シチューにしてもいい。ベーコンや魚介を入れたら、クラムチャウダーにもなる。いくらでも応用が効くぞ」

「ういむっしゅー」

 いよいよ、肉を焼く工程に入った。

 リックワード女学園では、ポークカレーを出す。肉は、ブタの細切れを使う。安くてウマい。

「宗教の理由で食えないとか、プライドが高い生徒などがいて、もっといい肉を使えって生徒はいるか?」

「いないです、むっしゅー。そういう人は、デリを頼むのでー」

 出前なんて取るのかよ、学生が。

「まあいいか。とにかくポークカレーで問題がないなら、それていく」

 ルーを投下して、鍋を煮込む。

「よくカレーには、隠し味が必要だとかいう。だが市販のルーを使うなら、必要ない。あれで十分、おいしく作られている。隠し味なんて使ったら、かえって味のバランスが崩れてしまうぞ。アレンジしようとするな」

 下手なアレンジを加えると、味がクドくなってしまう。クセの強い味は特定の客にはウケるが、大衆向けではない。

「う、ういむっしゅー」

 なんでデボラたちまで、メモってるんだよ……。

「できたぞ。ポークカレーだ」

 ブタのコマを使ったポークカレーが、完成する。昔ながらの、ゴロゴロ野菜カレーだ。

「いただこう」

 最初の一杯目は、魔王が口にする。器用に猫の手でスプーンを扱った。

「うまいっ。なんかこう、懐かしいのである」

 魔王の語彙力を喪失させるほど、ウマいようである。

 オレも味見してみたが、実にウマい。ウマいしか勝たん。

「気に入ってもらえたら、ありがたい」

「いやあ、これは本当にうまい。おかわりを頼む」

「何杯でもあるから、食ってくれ」

 結局魔王は、オレの作った鍋いっぱい食べきってしまった。

「おじー、おなかすいたー」

 プリティカたちが、お腹をおさえている。

「そういえば、晩飯がまだだったな」

 研修生が作ったものは、魔王が食べている。

「わかったよ。作ってやる」

 オレが用意したほうが、いいよな。

 今度は魔法を使って、時短で料理をする。

「おいしいですわ、イクタ。野菜や肉質はリックワードと全然違いますが、味は近いですわ」

「そうだろ? うまくできて、なによりだ」

 デボラだけでなく、プリティカも納得している様子だ。

「これがウワサの、イクタさん特製カレーですかー。いつもはお弁当なのでー、食べたことないんですよねー」

 オレの作ったポークカレーを、シスター・ダグマが味わう。

「……イクタさん」

 神妙な面持ちで、ダグマがスプーンを置いた。

「な、なんです?」

 カレーって、自分の馴染みな味ではないと受け付けないって人がいるけど。

「お嫁さんになってくださーい」

「誰が嫁なんだ!? それに、あんた既婚者でしょうが!?」

 この人、新婚なんだよな。魔王城で人妻をメシで手籠めにしたとあっては、バチが当たるっつーの。 

「できれば、イクタ殿をこちらの学食に招きたいものだ」

「よせよ。だからこその研修でしょうが」

「そうだったのである。しかしまあ、これだけの手練に囲まれては、イクタ殿を我が城へかっさらうことはできぬのである。カッカッカ」

 魔王がカラカラと笑う。

 そういえば、魔王がオレをここに招くって言った瞬間、ウチの女子たちが殺気立ったんだよなあ。

 研修生のカレーも堪能して、魔王による試食会は終わった。
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