37 / 48
ハロウィンを、学食で
第37話 学食のおじさん、魔王城へ
しおりを挟む
「おおお。見たままの不良校だぞー」
エドラが正直な感想を述べる。
「いえ、エドラ先輩。これは、魔王城ですわ!」
「そうよ。油断してはダメよ! 魅了魔法なんてかけられたら、それこそ魔王オンスロートと望まない結婚をさせられてしまうわ!」
デボラとイルマが、最大級の警戒を始めた。
「でも、イイやつだったら結婚してもいいかもなー」
「ダメダメ! もうエドラったら。男はちゃんと、吟味しなくてはいけないわ!」
エドラ自身は、相手に特別なこだわりはないっぽい。
「とにかく行こう。そもそも魔王に会わせてくれるのかも、わかんねえんだ」
「そうですわね、イクタの言うとおりですわ」
覚悟を決めて、城の中へ。
スケルトンの女学生についていく。
寒い。足がひんやりする。中庭の廊下だからって、だけじゃないな。空間レベルで冷える。
「おじ、怖い?」
プリティカが、聞いてきた。
「まあ、怖いかな。自慢じゃないが、オレは戦闘職じゃないからよ」
「おじの愛嬌だったら、どんな状況でも立ち回れるよー」
「冗談。立ち回ること自体、ナンセンスだ」
できれば、荒事には関わりたくない。トラブルは回避が最適解だよ。
「着きました」
スケルトン女子が、巨大な扉の前で立ち止まる。
こんなデカい扉を使うんだ。相当巨大なサイズの魔物なんだろうな。
「魔王様、扉を開けてくださいませ」
「うむ」
ゴゴオ、と雷鳴のような音を立てながら、扉が開く。
「ようこそ。我こそが、魔王オンスロートである。このオルコートマ学院の学長でもある」
毛むくじゃらのネコを抱いた巨大なヨロイが、こちらを見もしないで自己紹介をする。
「これ、ニンゲンよ。魔王はこちらであるぞ。こっちは玉座でしかない」
なんと、ネコのほうがこちらに視線を向けていた。ニューっと伸びをしたあと、スタッと赤いカーペットの上に降り立つ。成人女性サイズのネコが、オレたちの前にちょこんと座った。
「ネコちゃんが、魔王なの?」
「いかにも。我がこの地を支配する、魔王オンスロートである。魔王と言っても、ニンゲンの階級でいえば【ジェントリ】なり。いわゆる、ジェントルマンという身分である」
魔王オンスロートは、貴族ではなく、紳士だという。
「あの、『レディース&ジェントルマン』のジェントルマン?」
「左様」
ジェントリ層とは下級の地主層であり、事業で成功した人を指す言葉だ。正式には貴族に含まれない。
「つまり、魔王とは『実業家』ってわけか」
「そうであるな。ビジネスで成功し、人間界の土地を買ったのである」
それで、人間界における貴族の肩書を手に入れたと。貴族になれれば、人間ともムダに対立しなくて済むからだとか。
「我には魔王という肩書がある。魔王的要素を全面に押し出すと、ニンゲンに恐れられてしまうのだ。なんて呼ぼうかってなったときに、『ジェントリ層でいいんじゃね?』となったのだ」
えらく軽い動機なんだな。
「それで、オレたちはアンタに呼ばれてきた。いったい、なんの用件が?」
まさか、JKをどうにかしようってんじゃ? ほんとに、嫁候補を探すためとか?
「頼みというのは、他でもない。我が運営する学校の学食を、立て直してもらいたいのだ」
「オレが?」
「左様である」
魔王城の学食は、「申し訳程度にメシが食える」レベルだという。もっとリーズナブルで、おいしく、腹が満たされるメニューを考案してもらいたいらしい。
無理難題だな。
「聞けばお主、リックワード女子でも腕利きの学食シェフというではないか」
なんでも魔王オンスロートは、オレのウワサを聞きつけて、オレを招いたという。
「オレじゃなくても、『金曜日の恋人』なんかのほうが、アンタら魔族の口に合うと思うが?」
「さる筋から、聞き及んだ話である。『かれーらいす』なる極上の料理が、たいそう最高の味わいだとか」
どこの筋だよ? オレは情報漏洩した覚えはないぜ?
「アンタは、ネコじゃないか。玉ねぎやスパイス系は大丈夫なのか?」
ネコって雑食に見えて、案外デリケートと聞く。
試食するにしても、ネコと同じ体質なら、カレーなんて食べさせられない。
「その点は心配いらぬ」
あくまでもネコの身体に見えているだけで、実物はもっとグロいという。人間が正体を見ると、気が触れてしまうレベルだとか。
オレたちを気遣って、この姿を取っているという。
「リックワードの文化祭で食べられる、『ふらんくふると』が楽しみで仕方ないのだ。あれはウマい。」
「ああ、『月曜日』のフランクフルトか!」
「そうである。話しているだけでも、ヨダレが出そうなのである」
月曜日のモーニングを出す店は、『学食のヌシ』と呼ばれている。
あのじいさんが作るフランクフルトはたしかに、最高だ。シンプルなのに、塩加減が絶妙なのである。
「粒マスタードをたっぷりをつけて、ムシャムシャと口にするのだ。つけすぎて頭がガンガンするのだが、それがまたいい」
あれをマスタード付きで食えるんだったら、問題ない。
「だったら、月曜の爺様に頼めばいいじゃねえか。肉を焼くだけだ」
「呼んだのである。しかし、シンプルすぎて難しいのである。いくら教わっても、マネができなかったのである」
……たしかに。
肉を焼くだけなのに、あの味が出ない。あれはもはや、長年の職人技である。
「よし。作ってやるから、待っててくれ」
エドラが正直な感想を述べる。
「いえ、エドラ先輩。これは、魔王城ですわ!」
「そうよ。油断してはダメよ! 魅了魔法なんてかけられたら、それこそ魔王オンスロートと望まない結婚をさせられてしまうわ!」
デボラとイルマが、最大級の警戒を始めた。
「でも、イイやつだったら結婚してもいいかもなー」
「ダメダメ! もうエドラったら。男はちゃんと、吟味しなくてはいけないわ!」
エドラ自身は、相手に特別なこだわりはないっぽい。
「とにかく行こう。そもそも魔王に会わせてくれるのかも、わかんねえんだ」
「そうですわね、イクタの言うとおりですわ」
覚悟を決めて、城の中へ。
スケルトンの女学生についていく。
寒い。足がひんやりする。中庭の廊下だからって、だけじゃないな。空間レベルで冷える。
「おじ、怖い?」
プリティカが、聞いてきた。
「まあ、怖いかな。自慢じゃないが、オレは戦闘職じゃないからよ」
「おじの愛嬌だったら、どんな状況でも立ち回れるよー」
「冗談。立ち回ること自体、ナンセンスだ」
できれば、荒事には関わりたくない。トラブルは回避が最適解だよ。
「着きました」
スケルトン女子が、巨大な扉の前で立ち止まる。
こんなデカい扉を使うんだ。相当巨大なサイズの魔物なんだろうな。
「魔王様、扉を開けてくださいませ」
「うむ」
ゴゴオ、と雷鳴のような音を立てながら、扉が開く。
「ようこそ。我こそが、魔王オンスロートである。このオルコートマ学院の学長でもある」
毛むくじゃらのネコを抱いた巨大なヨロイが、こちらを見もしないで自己紹介をする。
「これ、ニンゲンよ。魔王はこちらであるぞ。こっちは玉座でしかない」
なんと、ネコのほうがこちらに視線を向けていた。ニューっと伸びをしたあと、スタッと赤いカーペットの上に降り立つ。成人女性サイズのネコが、オレたちの前にちょこんと座った。
「ネコちゃんが、魔王なの?」
「いかにも。我がこの地を支配する、魔王オンスロートである。魔王と言っても、ニンゲンの階級でいえば【ジェントリ】なり。いわゆる、ジェントルマンという身分である」
魔王オンスロートは、貴族ではなく、紳士だという。
「あの、『レディース&ジェントルマン』のジェントルマン?」
「左様」
ジェントリ層とは下級の地主層であり、事業で成功した人を指す言葉だ。正式には貴族に含まれない。
「つまり、魔王とは『実業家』ってわけか」
「そうであるな。ビジネスで成功し、人間界の土地を買ったのである」
それで、人間界における貴族の肩書を手に入れたと。貴族になれれば、人間ともムダに対立しなくて済むからだとか。
「我には魔王という肩書がある。魔王的要素を全面に押し出すと、ニンゲンに恐れられてしまうのだ。なんて呼ぼうかってなったときに、『ジェントリ層でいいんじゃね?』となったのだ」
えらく軽い動機なんだな。
「それで、オレたちはアンタに呼ばれてきた。いったい、なんの用件が?」
まさか、JKをどうにかしようってんじゃ? ほんとに、嫁候補を探すためとか?
「頼みというのは、他でもない。我が運営する学校の学食を、立て直してもらいたいのだ」
「オレが?」
「左様である」
魔王城の学食は、「申し訳程度にメシが食える」レベルだという。もっとリーズナブルで、おいしく、腹が満たされるメニューを考案してもらいたいらしい。
無理難題だな。
「聞けばお主、リックワード女子でも腕利きの学食シェフというではないか」
なんでも魔王オンスロートは、オレのウワサを聞きつけて、オレを招いたという。
「オレじゃなくても、『金曜日の恋人』なんかのほうが、アンタら魔族の口に合うと思うが?」
「さる筋から、聞き及んだ話である。『かれーらいす』なる極上の料理が、たいそう最高の味わいだとか」
どこの筋だよ? オレは情報漏洩した覚えはないぜ?
「アンタは、ネコじゃないか。玉ねぎやスパイス系は大丈夫なのか?」
ネコって雑食に見えて、案外デリケートと聞く。
試食するにしても、ネコと同じ体質なら、カレーなんて食べさせられない。
「その点は心配いらぬ」
あくまでもネコの身体に見えているだけで、実物はもっとグロいという。人間が正体を見ると、気が触れてしまうレベルだとか。
オレたちを気遣って、この姿を取っているという。
「リックワードの文化祭で食べられる、『ふらんくふると』が楽しみで仕方ないのだ。あれはウマい。」
「ああ、『月曜日』のフランクフルトか!」
「そうである。話しているだけでも、ヨダレが出そうなのである」
月曜日のモーニングを出す店は、『学食のヌシ』と呼ばれている。
あのじいさんが作るフランクフルトはたしかに、最高だ。シンプルなのに、塩加減が絶妙なのである。
「粒マスタードをたっぷりをつけて、ムシャムシャと口にするのだ。つけすぎて頭がガンガンするのだが、それがまたいい」
あれをマスタード付きで食えるんだったら、問題ない。
「だったら、月曜の爺様に頼めばいいじゃねえか。肉を焼くだけだ」
「呼んだのである。しかし、シンプルすぎて難しいのである。いくら教わっても、マネができなかったのである」
……たしかに。
肉を焼くだけなのに、あの味が出ない。あれはもはや、長年の職人技である。
「よし。作ってやるから、待っててくれ」
0
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる