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ハロウィンを、学食で

第35話 おじさん、JKと街を練り歩く

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 デボラの担任であるシスター・ダグマが、学食に顔を出す。

 いつもは修道女の服装だが、今回はミニスカバスガイドだ。頭に、悪魔の角を生やしている。

「皆さん、おそろいですねー?」

 ダグマに問いかけられ、JKたちが「はーい」と返事をした。

「では、街へ参りましょー」

 JKたちが、エドラを先頭に学食を出ていく。

「お気をつけて、シスター・ダグマ」

「なーにをおっしゃいます、イクタさーん? あなたも来るんですよー」

「オレも?」

 聞いてないぞ、そんな話は。

「プリントが配られませんでしたかー、イクタさーん? 学食の方々にも、ビラ配りに協力していただくことになっているのですがー」

 今回はちょっと、遠くの街へも行く。なので、引率役が足りないらしい。

 ホントだ。壁のポスターにも、書いてあるな。仕事が忙しくて、目を通していなかった。

「ではイクタさーん、行きましょー」

「といっても、着替えがなくて」

 みんな仮装しているのに一人だけコック姿では、キャラが浮いてしまう。

「大丈夫でーす。私がそれっぽい魔法をかけてー、仮装させて差し上げまーす」

 シスター・ダグマが、指揮棒のように手のフラグを振る。あれは、杖を変形させたものか。

「リクエストはございますかー?」

「地味ハロウィン的なものを」

 オレが目立っても、仕方がない。主役は生徒なんだから。

「それだと仮装を見られた際に、説明が必要になってきますねー。いちいち質問されて、めんどくさいですよー」

 なるほど。理解されないケースがあると。「シュレッダーを待つ人」なんて、異世界人の誰がわかるねん、と。

 だったら、わかりやすい仮装が無難だろうな。

「オススメはありますか?」

「フランケンなんていかがでしょー? 頭におもちゃのネジを刺す程度ですのでー」

 オレの体型からして、それがベストかも知れない。頭に鉄が突き出ている以外は、普段着だし。

「ほんとに、仮装しないとダメか、エドラ?」

「イクタ。観念して、妥協なさったほうがよろしいかと。躊躇なさっていると、ドレスとかいい出しますわよ」

「だな」

 デボラに催促されて、オレは承諾する。

 なんかノリが良すぎて苦手なんだよな、シスター・ダグマは。プリティカより、絡みづらい。

「じゃあ、それで」

「はーい。かしこまりー」

 フラグをクルクルと回して、ダグマがオレの服装を変えていく。

「できましたー」

 オレはこめかみにネジがハマっているのを確認する。被り物だから、本当に突き刺さっているわけではない。

「では気を取り直して、行きましょー」

 さっそく、街へ。

「こんばんは。今日は、イクタさんも街へ行くのかい?」

「そうなんだよ。文化祭の宣伝をやってる。来てくれよな」

「あいよー」

 近所のおばあさんが、ミカンをくれた。異世界のミカンは、蜜のように甘いんだよ。うまい。

「イクタさん、今日はハロウィンかい?」

「実はな。今日は引率役なんだ」

「そうかい。気をつけてな」

 八百屋のおじさんから、トマトをもらう。

「イクタ、大評判ですわ」

 世話になっているからな。

「なんだか、わたくしたちより、慕われていませんか?」

 みんな敬遠しているのか、デボラなどには視線を送るものの、話しかけようとはしない。

 庶民と貴族の違いを、思い知らされた。やはりみんな、お貴族様には気軽に声をかけられないのだろう。

 仮装は、この状況を緩和するためなのかも知れない。あくまでも、文化祭を楽しんでもらいたいだけで。

「気のせいだよ。みんながかわいすぎて、オレにしか声をかけられないんだろうよ」

 さりげなく、フォローしておく。

「そういうところですわ。イクタ」

 デボラは頬を染めた。

「おやおや、イクタさん。かわいいお嬢ちゃんたちを、連れていますね」

 ラーメンの屋台を引く若い衆が、オレに声をかけてくる。

「この子たちの引率係でな。文化祭の宣伝に、回っているんだ」

「あいよ。仕事前に、お邪魔させてもらいます。その代わり、学校の近くで営業してもよろしいんで? 屋台に戻るのは、大変なんですよ。新境地も開拓してぇ」

 オレは、ダグマに確認を取る。

 ダグマは、指で輪っかを作った。

「OKだとよ」

「ありがとうごぜえやす!」

「ですが」と、ダグマが前置きする。

「お客さんの質が、若干変わりますよー。それでも、よろしければー」

「大丈夫です! 魔物にラーメンを食わせたことだって、あるんだ。問題ありませんよ」

「なら、平気そうですねー」

 思わせぶりな言葉を、ダグマは発した。

 なんだってんだ?

 
 オレたちは、駅に到着した。

「では、みなさーん。列車に乗りますよー」

 切符を買い、蒸気機関車に乗り込む。

「シスター・ダグマ。これから、どこへ行くんです?」

 だんだんと、空が赤く染まっているのだが? というか雲が異様に赤黒い。いったいこの列車は、どこ行きなのか?
 乗客も、ニンゲンはないし。

「今から向かうのはー、オルコートマ王国でーす」

「オルコートマですって!?」

 ダグマの一言に、デボラが過剰反応した。

「パァイ、オルコートマってのは?」

「魔物の本場みたいなところじゃよ。北部を支配する魔王・オンスロートが率いる、魔物たちが住む地域じゃ」

 つまり、オレたちが今から向かうのは、いわゆる『魔界』だという。
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