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第三章 魔法科学校の秋は、イベント盛りだくさん 魔法体育祭と、スティックチーズケーキ
第32話 体育祭当日
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体育祭が、始まった。
オレたち学食班は、グラウンドの外にある観客席にいる。
ここで、購買を担当するのだ。
朝を食べていないものや昼食を用意していない生徒に、弁当やおやつを売る。水も提供するので、割と重要な役目だ。
「楽しみだねえ、イクタさん」
隣に陣取るドワーフのオバちゃんが、オレに声をかけてきた。
「だな。みんな元気があって、気後れしそうだ」
「やだねえ。イクタさんも若いじゃないか」
「とんでもない」
彼女たちに比べたら、オレなんてまったく体力がない。
「夏の間、女子に囲まれてウハウハだったそうじゃないか。ウチの娘から聞いたよ」
そうだった。この人は、エドラの母親だったな。
「ウハウハだったのは、売上だ。あんたのお嬢さんのおかげで、過去一の成績を上げたよ」
「そいつはよかった」
「でも、コロッケパンには敵わんさ」
彼女が提供するコロッケパンは、すでに品切れである。さすが、一番人気の商品だ。
「ブリタはこの道二〇年の、ベテランさんだから」
エルフのオバちゃんが、ドワーフのオバちゃんをブリタと呼ぶ。
「なにをいうかね? ミシェルのフルーツサンドも、上々じゃないか」
ブリタさんも、エルフのオバちゃんを名前で呼ぶ。
ミシェルさんのいちごサンドは飛ぶように売れて、生徒が朝食代わりにパクついている。
「でも、なんといってもイクタさんのカツサンドよ」
テントを設置する前、お近づきの印と、二人にカツサンドを朝飯として振る舞ったのだ。
ありがたいことに、オレのカツサンドも品切れである。
「あれは、娘をもらっていただきたい味だね。カツの加減が最高にいいのさ」
「玉ねぎが絡んだソース! 口にしただけで唾液が溢れ出てきて、最高だったわよ」
二人の感想を聞いて、ありがたく思った。
さて、応援といくか。
デボラの席は、白組だ。
うれしいことに、オレの知り合いは全員白組のようである。
一年生はキャロリネ、とペルだ。
「おじー。見ててねー」
プリティカも、グラウンドからこちらに手を振っている。一人だけ、ブルマー姿だ。スタイルに自信があるんだな。
二年生は、エドラとイルマが。
三年生はミュンと、パァイである。
しかしパァイは早々に、購買横の衛生用テントの中へ。
「どうした、パァイ? まだ体育祭前だぞ?」
「日に当たって、しんどい」
まだ、外には慣れないらしい。夏休みの間、ずっと日に当たっていたはずなのに。
「そっか。お前はたしか、夜型だったな」
「借り物競争まで、体力は温存しておくことにしようかの」
昼前だというのに、コロッケパンを食って眠ってしまった。
第一種目が始まった。
プリティカが、一〇〇メートル走に出る。
グラウンドの直線コースを、風のように駆け抜けた。
肉体強化の魔法を使っているから、全員が凄まじく速い。
プリティカのポニーテールが、ピョンピョンと跳ねる。
運動部さえぶっちぎり、見事プリティカはトップでゴールした。
「いえーい。おじー。なんかごほうびちょーだーい」
一位のフラグを持ったまま、プリティカが購買席に。
「わかったわかった。カレーのタダ券をやろう」
「わーい」
こんなんでいいのか。
「あんたにもらえたら、なんでもいいのさ」
ブリタさんが、物騒なことを言う。
続いて、キャロリネが大玉転がしに参戦した。
横に並ぶのは、エドラである。
玉転がしと言っても、魔法で常に上に浮かばせなければならない。
「負けませんぞ、エドラ先輩」
「おー。ついてこい」
同じチームだというのに、二人はバチバチだ。
玉転がしが始まった。
最初は、大柄のキャロリネがリードした。
「おーっ? 腕を上げたな、キャロリネ?」
後ろから、エドラが追随する形に。
この玉転がしには、障害物がある。まずは平均台だ。
キャロリネは汗をかきながら、気合で通り抜けていった。
エドラはリズムよく、トントンと渡っていく。
「くっ!」
あっという間に、キャロリネがエドラに追い抜かれた。
続いて、風船割り。
これはキャロリネが、巨体を活かしてリード。
最後の障害物は、水上渡りだ。足に魔法をかけて、水に浸からずに渡る。足がヒザより上に浸かると、最初の地点から。魔法のコントロールが試されるため、難しい。
キャロリネは何度も着水しそうになりながら、どうにか渡り切る。
その間に、ヘディングで軽々と大玉を浮かばせながら、エドラはゴールテープを切った。
「んんん!」
キャロリネが、めちゃくちゃ悔しがる。
「今度こそ、勝てると思ったのに!」
「まだ、魔法のコントロールがダメっぽいな。でも、おめーは騎士様なんだから、絶対いい成績を出せるぞ」
「は、はい!」
エドラが、キャロリネを称えた。
続いての競技は、パン食い競走である。後ろに手を縛られた状態で、吊るされたパンをかじってゴールすればいい。
文字通り、なんのひねりもない競技だ。
しかし、出場するのはなんとミュンである。天下のパピヨン・ミュンが、リレーなどの花形種目ではなく、パン食い競走とは。
「もっとポイントの高い競技に、参加しないのか?」
案の定トップで帰ってきたミュンに、オレは問いかけた。
「ハンデだよ。あたし、どれに出ても高得点を取っちゃうから。一年の頃から、ずっとこんな感じ」
それはそれで、難しいもんだな。
オレたち学食班は、グラウンドの外にある観客席にいる。
ここで、購買を担当するのだ。
朝を食べていないものや昼食を用意していない生徒に、弁当やおやつを売る。水も提供するので、割と重要な役目だ。
「楽しみだねえ、イクタさん」
隣に陣取るドワーフのオバちゃんが、オレに声をかけてきた。
「だな。みんな元気があって、気後れしそうだ」
「やだねえ。イクタさんも若いじゃないか」
「とんでもない」
彼女たちに比べたら、オレなんてまったく体力がない。
「夏の間、女子に囲まれてウハウハだったそうじゃないか。ウチの娘から聞いたよ」
そうだった。この人は、エドラの母親だったな。
「ウハウハだったのは、売上だ。あんたのお嬢さんのおかげで、過去一の成績を上げたよ」
「そいつはよかった」
「でも、コロッケパンには敵わんさ」
彼女が提供するコロッケパンは、すでに品切れである。さすが、一番人気の商品だ。
「ブリタはこの道二〇年の、ベテランさんだから」
エルフのオバちゃんが、ドワーフのオバちゃんをブリタと呼ぶ。
「なにをいうかね? ミシェルのフルーツサンドも、上々じゃないか」
ブリタさんも、エルフのオバちゃんを名前で呼ぶ。
ミシェルさんのいちごサンドは飛ぶように売れて、生徒が朝食代わりにパクついている。
「でも、なんといってもイクタさんのカツサンドよ」
テントを設置する前、お近づきの印と、二人にカツサンドを朝飯として振る舞ったのだ。
ありがたいことに、オレのカツサンドも品切れである。
「あれは、娘をもらっていただきたい味だね。カツの加減が最高にいいのさ」
「玉ねぎが絡んだソース! 口にしただけで唾液が溢れ出てきて、最高だったわよ」
二人の感想を聞いて、ありがたく思った。
さて、応援といくか。
デボラの席は、白組だ。
うれしいことに、オレの知り合いは全員白組のようである。
一年生はキャロリネ、とペルだ。
「おじー。見ててねー」
プリティカも、グラウンドからこちらに手を振っている。一人だけ、ブルマー姿だ。スタイルに自信があるんだな。
二年生は、エドラとイルマが。
三年生はミュンと、パァイである。
しかしパァイは早々に、購買横の衛生用テントの中へ。
「どうした、パァイ? まだ体育祭前だぞ?」
「日に当たって、しんどい」
まだ、外には慣れないらしい。夏休みの間、ずっと日に当たっていたはずなのに。
「そっか。お前はたしか、夜型だったな」
「借り物競争まで、体力は温存しておくことにしようかの」
昼前だというのに、コロッケパンを食って眠ってしまった。
第一種目が始まった。
プリティカが、一〇〇メートル走に出る。
グラウンドの直線コースを、風のように駆け抜けた。
肉体強化の魔法を使っているから、全員が凄まじく速い。
プリティカのポニーテールが、ピョンピョンと跳ねる。
運動部さえぶっちぎり、見事プリティカはトップでゴールした。
「いえーい。おじー。なんかごほうびちょーだーい」
一位のフラグを持ったまま、プリティカが購買席に。
「わかったわかった。カレーのタダ券をやろう」
「わーい」
こんなんでいいのか。
「あんたにもらえたら、なんでもいいのさ」
ブリタさんが、物騒なことを言う。
続いて、キャロリネが大玉転がしに参戦した。
横に並ぶのは、エドラである。
玉転がしと言っても、魔法で常に上に浮かばせなければならない。
「負けませんぞ、エドラ先輩」
「おー。ついてこい」
同じチームだというのに、二人はバチバチだ。
玉転がしが始まった。
最初は、大柄のキャロリネがリードした。
「おーっ? 腕を上げたな、キャロリネ?」
後ろから、エドラが追随する形に。
この玉転がしには、障害物がある。まずは平均台だ。
キャロリネは汗をかきながら、気合で通り抜けていった。
エドラはリズムよく、トントンと渡っていく。
「くっ!」
あっという間に、キャロリネがエドラに追い抜かれた。
続いて、風船割り。
これはキャロリネが、巨体を活かしてリード。
最後の障害物は、水上渡りだ。足に魔法をかけて、水に浸からずに渡る。足がヒザより上に浸かると、最初の地点から。魔法のコントロールが試されるため、難しい。
キャロリネは何度も着水しそうになりながら、どうにか渡り切る。
その間に、ヘディングで軽々と大玉を浮かばせながら、エドラはゴールテープを切った。
「んんん!」
キャロリネが、めちゃくちゃ悔しがる。
「今度こそ、勝てると思ったのに!」
「まだ、魔法のコントロールがダメっぽいな。でも、おめーは騎士様なんだから、絶対いい成績を出せるぞ」
「は、はい!」
エドラが、キャロリネを称えた。
続いての競技は、パン食い競走である。後ろに手を縛られた状態で、吊るされたパンをかじってゴールすればいい。
文字通り、なんのひねりもない競技だ。
しかし、出場するのはなんとミュンである。天下のパピヨン・ミュンが、リレーなどの花形種目ではなく、パン食い競走とは。
「もっとポイントの高い競技に、参加しないのか?」
案の定トップで帰ってきたミュンに、オレは問いかけた。
「ハンデだよ。あたし、どれに出ても高得点を取っちゃうから。一年の頃から、ずっとこんな感じ」
それはそれで、難しいもんだな。
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