インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路

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学食でお造り!? ヌシ釣り、二夜連続!

第28話 ヌシとのバトル

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「おっおっ! おーっ!」

 エドラの竿が、引っ張られている。糸がキリキリと、音を立てた。

 しかし、エドラも負けていない。折れるギリギリで、器用に竿を動かす。押しては引いてと、獲物を引き付けていた。この力加減が、さすがドワーフである。

 オレの顔に、雨粒が落ちてきた。

「なんだ?」

 雨は、段々と強くなっていく。予報では、快晴だったはずなのに。

 急に、雨がザザ振りになってきた。

「こ、この!」

 少しずつ、少しずつと、エドラはリールを巻く。

 やがて、魚影が見えてきた。

 漁船で釣るようなマグロが、かわいく見える。クジラかサメかと思った。だが、横にも広い。マンボウか、エイほどに。

「なんだ、あのデカさは……」

 あまりの大きさに、キャロリネがタモを落とす。

 こんなバケモノが、異世界の海では生活できるのか。

「これはタモではなく、ヤリが必要だな!」

 ペルが天に手をかざし、電気を帯びたヤリを召喚した。

「下がっていろ、イクタ殿。感電するぞ」

「おう」

 オレは、ペルに言われて後ろに下がる。

 ミュンも拳に電を流して、臨戦態勢に入った。

 他の生徒たちも、電気や氷の魔法を仕込む。

「おおおりゃあああ!」

 ついに、ヌシらしき怪物を釣り上げた。

 なんだコイツは。海賊船を咥えながら、釣り上がったぞ。

「この広さでは、カバーしきれませんわ!」

「手伝うわ!」

 デボラとイルマが互いに土魔法を唱え、岩場のスペースを更に広げる。

「今ですわ!」

「よっちゃあ! よち!」

 勢いよく、エドラが魚を地面へ叩きつけた。

 そのタイミングに合わせて、各々が魔法でトドメを刺す。

 岩の地面が砕けた。巨大魚が落下した衝撃と、魔法のオンパレードに耐えられなかったか。

「きゃああああ!」

 足場が崩れ、イルマが海に落ちてしまった。

 巨大魚を釣り上げた反動か、海も波が高い。

「渦まで巻いてやがる!」

 どういうわけか、海がやたらと荒れているではないか。

「イルマ!」

 とっさに、エドラが海の中へ飛び込んだ。

 エドラは巧みに、クロールでイルマに追いつく。

 あいつ、泳げないはずなのに。

「ウソ! あれだけ教えても泳げなかったのに」

 コーチを務めたミュンが、唖然とした顔で見守る。

 どうにかエドラは、渦にさらわれることなく、イルマを岩のそばまで引き寄せた。

「はあはあ。ありがとう、エドラ」

「ん? なんでオイラ、泳げるんだ? あっぷ!」

 自分がカナヅチだと、想いだしてしまったのだろう。

「大丈夫か?」

 オレは海に入り、エドラを抱き上げた。

「イクタ! 先輩のオシリを持っていますわ! いやらしいっ!」

「溺れたんだ。そんなこと、言っている場合かっ」

 全員で、二人を引き上げる。

「よくがんばったな、エドラ」

「えへへ」

 エドラのがんばりに応えるかのように、空も晴れ渡った。

「あっ、そうだ!」

 クジラサイズの巨大魚を、エドラが口を掴んで掲げようとした。エドラの怪力をもってしても、自分の背丈くらいしか持ち上がらない。

「よっしゃ! どえりゃあヌシが釣れたじぇ!」

 エドラが、尻もちをついた。足の踏ん張りが聞かないほどの、死闘だったのだろう。

「それは、ヌシじゃないぞよ」

 さっき忠告にきた老釣り師が、見物に来た。

「なにいい!? こんなでっきゃあぞ!」

「いや。たしかにそれは、ヌシではない。ヌシの主食だ」

「そんなあ」

 パァイからも否定され、エドラが地面に大の字になる。 

「あれ? イクタおじー。変な形のお魚さんが釣れたよー」

 プリティカが、虹色に光る魚を釣り上げた。

「こんな状況でも、冷静に釣りをしていたのか?」

「なんかね、何かが嵐を操っている感じがしたから、渦の中心に竿を投げてみたのー」

 彼女が釣ったのは、タイのようなサイズの魚である。ウロコが虹色に輝き、顔がラクダのようだ。

「お嬢ちゃん、糸に触っちゃいかん!」

 魚の口から針を抜こうとした手を、釣り人が止めた。

「え?」

「触れるでない、プリティカよ! ソイツがヌシじゃ! また嵐が来るぞよ!」

 魚に触れようとしたプリティカの手を、パァイが静止する。

 なんと、プリティカが釣ったキモい魚こそ、ヌシだった。




 まさか、あのデカい魚がエサで、こっちの稚魚サイズがヌシとは。

「『メイルストロムモドキ』。それが、この魚の名じゃ」

 パァイが、図鑑で調べてくれた。

 自分のナワバリに巨大魚をおびき寄せる際、たびたび嵐を引き起こすらしい。嵐で潰した巨大魚を、群れで分け合うという。台風の原因とも言われる、夏の厄介者である。釣れそうでなかなか釣れず、ギルドでも手を焼いていたそうだ。

 さっき嵐が止んだのは、プリティカが釣り上げたからか。彼女は本能で、あの魚が危険だと察知したのだろう。プリティカにどんな特殊能力があるのかは、わからないが。

「味は淡白、って書いてあるな。食用には、ならん」

「うまくねえのかあ」

 オレもエドラも、ガッカリ。

 仕方なく、ここの冒険者ギルドに献上した。魚拓はちゃんと取って。

 魚拓はエドラが宿題として提出した後、手配書として各海洋ギルドに張り出されるそうだ。

「しっかし、どうするか。これ」

 エドラが釣り上げたのは、クエである。クエは普通一メートルあり、重さは五〇キロほどだ。このクエは、クジラほどにデカい。

「お刺身にしましょう」

 ただ刺身にするにも、もったいないな。

 オレは、クエと一緒に上がったボロ船に目を移す。

「舟盛りでもやるか」

 どうせなら、盛大に行こう。
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