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魔法科女子高の夏休みは、キッチンカーで
第23話 緊急ミッション
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スライムを屋敷に連れていき、本格的にスライムの治療を行った。さらに氷を食わせ、ポーションも分け与える。
「実は明日、温泉の湧くダンジョンで湯の花を取るミッションがありましたの」
肌に塗るタイプのポーション作成に、湯の花を使うらしい。
しかし、その温泉自体が干上がってしまったという。
「ありがとうごぜえやす。おかげで、生き返りやした」
独特の口調で、スライムがオレに礼を言う。
「キミたちはたしか、セイレーンのしもべだよね?」
「お察しの通りでさあ、大将。あっしは、セイレーン様の使いでやんす」
ポントスの問いかけを、スライムは肯定した。
「なにがあったんだい?」
「実は海底火山が噴火して、その影響で温泉の流れが荒れちまっってるんでさぁ。一部の地域で、熱くなりすぎたっつーか」
「気化した、とか?」
「はいでさぁ。一部が、そんな感じでして」
そのせいで、モンスターが熱さに耐えきれなくなり、人里に出ていきそうとのこと。
温泉が気化するレベルかよ。まあ、入っちゃいけない濃度の温泉もあるし、どの温泉だって入浴できるわけじゃないが。
「で、快適な温度の湯を、モンスターが独占しているんでヤンス。ニンゲンのギルドに助けを求める途中で、あっしはこのザマでさぁ」
スライムも熱にやられて、陸に上がるのが精一杯だったとか。
「どおりでウチの経営している宿も、湯が滞っていると思ったら。これはあまり、悠長にはしていられないな」
ポントスも、困っていた。
「モンスターって、やっつけちゃっていいの? 仲間じゃん」
「別に、ヤツらは仲間ではないでさぁ。ダークエルフのお嬢さん。やっちまってくだせぇ」
人里に降りられるより、よっぽどマシだという。
「海底火山が噴火したのは、知っていたよ。警戒報告を、していたはずなんだけどね」
「土着モンスターは、出て行きたがらねえでさぁ」
生態系の関係で、離れられないそうだ。
「しかし、肝心の生態系が乱れてやして。それを説明しても、ケンカばっかりしていて」
ナワバリ争いってヤツか。
「コンフォートゾーンから抜けられない、というやつですわ」
安心できる領域から脱出しようとしない連中は、人間に限らないんだな。
「セイレーンの王女様は、ポントス様と直接お話しやすでしょ? だから、真っ先に避難しやした」
「それは、よかった。キミも安全な場所に隠れていなさい」
ポントスは休むように言うが、スライムは「できない」という。
「いや、モンスターのいる場所まで案内しやす。でないと、セイレーン様に顔向けできやせん。それに」
「なにかあったのか?」
「ペル姉御が、殴り込みに向かっちまったんでさぁ」
「そんな。ペルが?」
ポントスが立ち上がる。
「誰ですの、その方?」
「ペルは、セイレーンの王女の娘だよ。歳は、キミたちくらいかな?」
刀を持って、一人でモンスターと戦いに向かったという。
「わたくし、行きますわ」
「ウチもー」
スマホから連絡が入り、キャロリネとも合流するらしい。
「キャロリネちゃんも、ギルドから報告を受けていたんだってー。ダンジョンに先行して、戦ってるって」
「こんなときに、戦闘能力がないのはもどかしいな」
オレは戦えないため、戦力外だ。
また、ポントスもこれらの事象に干渉できない。彼はあくまで、観測者だ。下手に世界に関わると、どこで影響が出るかわからない。ギルドに依頼をするか、部下にやらせるしかなかった。
「イクタおじは、お夕飯を作っておいてー。かき氷も忘れないでー」
「その代わり、吾輩が同行しよう」
賢者パァイヴィッキが向かってくれるなら、ありがたい。
「頼む。リミットは、一九時だぞ」
今は、一六時だ。彼女たちが冒険者行動をできるのは、あと三時間しかない。
「案内しやす。ここから近いんで、すぐに着きまさぁ」
「待ってくれ」
台所を借りて、オレはおにぎりを作る。
「香ばしいですわ」
「醤油……こっちでは、ガルムか。それを塗って焼いた、焼きおにぎりだ。これを持っていけ。あと、そのペルとかいう少女にも」
「必ず届けますわ、イクタ。行ってまいります!」
~*~
ポントス氏の屋敷から四〇分ほど移動し、目的地に到着した。
大半のモンスターが、キャロリネの手で倒されている。
「おお、デボラ氏にプリティカ氏。そちらは……」
「吾輩は、三年のパァイじゃ。よろしくのう、お若いプリーステスよ」
「プリティカだ。伝説に聞く、図書館の賢者殿か。パァイ氏、よろしく頼む」
お互いがあいさつを終えたところで、スライムが反応した。
「あっちでさあ!」
霧がかかっている方角に、スライムが飛び跳ねる。
「湯気で前が見えないダンジョンとか、初めてですわ」
「でも、あったかくて気持ちがいいねー」
だから、モンスターたちに狙われたのだろう。
「あれが、ペル姉御でさあ!」
スライムが、立ち止まった。
「あーしらのナワバリを荒らすんなら、容赦しないよ! かかってきな!」
ビキニ型のスケイルアーマーを着た少女が、背中のタトゥーを見せながら怒鳴り散らしている。
「実は明日、温泉の湧くダンジョンで湯の花を取るミッションがありましたの」
肌に塗るタイプのポーション作成に、湯の花を使うらしい。
しかし、その温泉自体が干上がってしまったという。
「ありがとうごぜえやす。おかげで、生き返りやした」
独特の口調で、スライムがオレに礼を言う。
「キミたちはたしか、セイレーンのしもべだよね?」
「お察しの通りでさあ、大将。あっしは、セイレーン様の使いでやんす」
ポントスの問いかけを、スライムは肯定した。
「なにがあったんだい?」
「実は海底火山が噴火して、その影響で温泉の流れが荒れちまっってるんでさぁ。一部の地域で、熱くなりすぎたっつーか」
「気化した、とか?」
「はいでさぁ。一部が、そんな感じでして」
そのせいで、モンスターが熱さに耐えきれなくなり、人里に出ていきそうとのこと。
温泉が気化するレベルかよ。まあ、入っちゃいけない濃度の温泉もあるし、どの温泉だって入浴できるわけじゃないが。
「で、快適な温度の湯を、モンスターが独占しているんでヤンス。ニンゲンのギルドに助けを求める途中で、あっしはこのザマでさぁ」
スライムも熱にやられて、陸に上がるのが精一杯だったとか。
「どおりでウチの経営している宿も、湯が滞っていると思ったら。これはあまり、悠長にはしていられないな」
ポントスも、困っていた。
「モンスターって、やっつけちゃっていいの? 仲間じゃん」
「別に、ヤツらは仲間ではないでさぁ。ダークエルフのお嬢さん。やっちまってくだせぇ」
人里に降りられるより、よっぽどマシだという。
「海底火山が噴火したのは、知っていたよ。警戒報告を、していたはずなんだけどね」
「土着モンスターは、出て行きたがらねえでさぁ」
生態系の関係で、離れられないそうだ。
「しかし、肝心の生態系が乱れてやして。それを説明しても、ケンカばっかりしていて」
ナワバリ争いってヤツか。
「コンフォートゾーンから抜けられない、というやつですわ」
安心できる領域から脱出しようとしない連中は、人間に限らないんだな。
「セイレーンの王女様は、ポントス様と直接お話しやすでしょ? だから、真っ先に避難しやした」
「それは、よかった。キミも安全な場所に隠れていなさい」
ポントスは休むように言うが、スライムは「できない」という。
「いや、モンスターのいる場所まで案内しやす。でないと、セイレーン様に顔向けできやせん。それに」
「なにかあったのか?」
「ペル姉御が、殴り込みに向かっちまったんでさぁ」
「そんな。ペルが?」
ポントスが立ち上がる。
「誰ですの、その方?」
「ペルは、セイレーンの王女の娘だよ。歳は、キミたちくらいかな?」
刀を持って、一人でモンスターと戦いに向かったという。
「わたくし、行きますわ」
「ウチもー」
スマホから連絡が入り、キャロリネとも合流するらしい。
「キャロリネちゃんも、ギルドから報告を受けていたんだってー。ダンジョンに先行して、戦ってるって」
「こんなときに、戦闘能力がないのはもどかしいな」
オレは戦えないため、戦力外だ。
また、ポントスもこれらの事象に干渉できない。彼はあくまで、観測者だ。下手に世界に関わると、どこで影響が出るかわからない。ギルドに依頼をするか、部下にやらせるしかなかった。
「イクタおじは、お夕飯を作っておいてー。かき氷も忘れないでー」
「その代わり、吾輩が同行しよう」
賢者パァイヴィッキが向かってくれるなら、ありがたい。
「頼む。リミットは、一九時だぞ」
今は、一六時だ。彼女たちが冒険者行動をできるのは、あと三時間しかない。
「案内しやす。ここから近いんで、すぐに着きまさぁ」
「待ってくれ」
台所を借りて、オレはおにぎりを作る。
「香ばしいですわ」
「醤油……こっちでは、ガルムか。それを塗って焼いた、焼きおにぎりだ。これを持っていけ。あと、そのペルとかいう少女にも」
「必ず届けますわ、イクタ。行ってまいります!」
~*~
ポントス氏の屋敷から四〇分ほど移動し、目的地に到着した。
大半のモンスターが、キャロリネの手で倒されている。
「おお、デボラ氏にプリティカ氏。そちらは……」
「吾輩は、三年のパァイじゃ。よろしくのう、お若いプリーステスよ」
「プリティカだ。伝説に聞く、図書館の賢者殿か。パァイ氏、よろしく頼む」
お互いがあいさつを終えたところで、スライムが反応した。
「あっちでさあ!」
霧がかかっている方角に、スライムが飛び跳ねる。
「湯気で前が見えないダンジョンとか、初めてですわ」
「でも、あったかくて気持ちがいいねー」
だから、モンスターたちに狙われたのだろう。
「あれが、ペル姉御でさあ!」
スライムが、立ち止まった。
「あーしらのナワバリを荒らすんなら、容赦しないよ! かかってきな!」
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