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魔法科女子高の夏休みは、キッチンカーで
第21話 賢者パァイヴィッキの家庭
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夏休みに入り、オレたちは目的地である海のそばまで集まった。
パァイの屋敷は、海の近くにある。
屋敷のそばに駐車している軽ワゴン型のキッチンカーが、一際異彩を放つ。ガソリンではなく、魔力で動く仕様だ。
「イクタ。本日はお世話になります」
デボラがペコリと頭を下げた。今日の格好は、制服ではない。白のワンピース姿である。アンティーク調のデカい旅行カバンには、着替えが大量に入っているのだろう。
「これがおじのキッチンカーってやつ?」
屋敷に駐めてある軽ワゴンに、プリティカが視線を向ける。サングラスを傾けて、ワゴンを興味深そうに見ていた。
プリティカの服装は、へそ出しのノースリーブシャツと、デニムのホットパンツだ。
「車ってんだ。わかるか?」
「わかるよー。田舎でもちょっと活躍するもん」
プリティカの家にあるの車は、田舎町で使うような軽トラックだとか。
「よ、よく来たのう」
屋敷から、パァイが出迎えてくれた。寝起き……という感じでもなさそうである。ムリヤリ起こされたかな。来客だと言うのに、Tシャツ一枚で現れたんだが。女っ気のかけらもない。
「いらっしゃい。ボクはポントス。パァイの兄だよ」
三〇代近くの男性が、パァイの後ろから現れる。引き締まった肉体を持つ。パァイの兄と言われても、信じられん。彼も肉体操作の魔法を施していて、実際は一〇〇〇年近く生きているかも。
「イクタ、この方、さっきポントスって。この地における、海の神様の名前ではありませんの?」
デボラは、パァイが本物の賢者だと知っている。なので、海神と関連があるのではないかと思ったのだろう。
「お嬢ちゃんの、お察しの通りさ。ボクは海神ポントスから、名前を拝借したんだよ」
ポントスは、デボラの疑問にさらっと答えた。
まあ、そう返すよな。
実際はデボラの推理通り、まごうことなき海の神様だ。もっとも、この場にいるコイツは『分霊』という。神格は、たいしたことはない。あくまでも、この世界の監視カメラ的な存在に過ぎない。それでも、強い魔力を持っているのは確かだが。
購入した車が故障したのも、コイツの神格が邪魔をして
「コイツ、学校で悪さをしていないかい?」
「いえいえ。まったく。おとなしいもんだよ」
「だったらいいが。ボクなんて、しょっちゅう呼び出しを食らうんだよ」
ポントスが、頭をかく。
「去年は魔法を暴走させて、図書館じゅうの本を吹っ飛ばしてさー。二時間も説教を食らったよ。どうしてボクまで、って思ったもんさ」
「それはずっと昔の……コホン」
歳がバレそうになって、慌ててパァイが咳払いをする。
「正確には、何年前ですの?」
デボラがコッソリ耳打ちしてきた。
「一三年前だ。オレがこっちに来て、三年目のときかな?」
たしか図書館で暴れ出した禁書をおとなしくさせようとして、中に封印された魔物と激しくやりあったのだ。今その禁書は、彼女のお供になっている。
「ワフワフ!」
パァイの隣に、茶色い小犬がトタトタとやってきた。
「おお、エイボンよ。お主も、ごあいさつに来たか」
「ワフ!」
ハッハッハッと、デボラの足に身体をこすりつける。
「くすぐったいですわ!」
「おお、デボラ殿が気に入ったみたいよのう」
「撫でてよろしいですかしら?」
デボラは、エイボンに手を伸ばそうとした。
「やめといたほうが、ええのう」
「どうしてですの?」
「このエイボンなる子犬が、その禁書に封じられていた魔物じゃから」
エイボンを触ろうとした手を、デボラは引っ込める。
「じゃあさー、エイボンっていうのはー。もしかして?」
「そのもしかして、じゃ。こやつはいわゆる『エイボンの書』の化け物じゃ」
パァイの戦いでこのサイズになっているが、昔は三〇メートルを超える狼だった。
「封印は、完璧ではないでの。素人がうかつに触れたらどうなるかわからんで」
なので、この屋敷にエイボンを預けているという。
「ふーん」
まったく躊躇せず、プリティカが小犬を抱き上げる。
「オスだねー。めっちゃデボラちゃんを見てるよー。デボラちゃんを、メスと思っているのかなー?」
エイボンを抱きかかえながら、プリティカがにこやかに言う。
「これ、触るでない」
「へーきへーき。エイボンの複写なら、ウチも持ってるからー」
「ふむ……魔の者の家系か。面妖な」
パァイは興味深く、プリティカを観察していた。
オレも、プリティカには謎が多いと考えている。まあ、考えても仕方ないが。
「さて、更衣室などの施設はこちらで用意しようぞ」
「水着も売っているから、好きなのを選んでくれ」
ポントスの屋敷は、一階が売店になっている。さっきも家族連れが、ビーチ用遊具などを買っていった。
「後でレシートを見せてくれたら、立て替えるよ」
「そんな。悪いですわ」
「いいっていいって。イクタの手伝いをしてくれるってのは、ボクを手伝ってくれるのも一緒さ。その代わり」
ポントスが、デボラたちにパァイを差し出す。
「この女っ気ゼロなわが妹に、水着を見繕ってやってほしい」
「ななな! 兄上なにを!?」
「せっかく同年代のお友だちができたんだ。仲良くしなさい」
「むむう。仕方ないのう」
トボトボと、パァイは他の女性人とともに、更衣室へ。
「とかいって、うれしいくせに」
ポントスが微笑む。
パァイの屋敷は、海の近くにある。
屋敷のそばに駐車している軽ワゴン型のキッチンカーが、一際異彩を放つ。ガソリンではなく、魔力で動く仕様だ。
「イクタ。本日はお世話になります」
デボラがペコリと頭を下げた。今日の格好は、制服ではない。白のワンピース姿である。アンティーク調のデカい旅行カバンには、着替えが大量に入っているのだろう。
「これがおじのキッチンカーってやつ?」
屋敷に駐めてある軽ワゴンに、プリティカが視線を向ける。サングラスを傾けて、ワゴンを興味深そうに見ていた。
プリティカの服装は、へそ出しのノースリーブシャツと、デニムのホットパンツだ。
「車ってんだ。わかるか?」
「わかるよー。田舎でもちょっと活躍するもん」
プリティカの家にあるの車は、田舎町で使うような軽トラックだとか。
「よ、よく来たのう」
屋敷から、パァイが出迎えてくれた。寝起き……という感じでもなさそうである。ムリヤリ起こされたかな。来客だと言うのに、Tシャツ一枚で現れたんだが。女っ気のかけらもない。
「いらっしゃい。ボクはポントス。パァイの兄だよ」
三〇代近くの男性が、パァイの後ろから現れる。引き締まった肉体を持つ。パァイの兄と言われても、信じられん。彼も肉体操作の魔法を施していて、実際は一〇〇〇年近く生きているかも。
「イクタ、この方、さっきポントスって。この地における、海の神様の名前ではありませんの?」
デボラは、パァイが本物の賢者だと知っている。なので、海神と関連があるのではないかと思ったのだろう。
「お嬢ちゃんの、お察しの通りさ。ボクは海神ポントスから、名前を拝借したんだよ」
ポントスは、デボラの疑問にさらっと答えた。
まあ、そう返すよな。
実際はデボラの推理通り、まごうことなき海の神様だ。もっとも、この場にいるコイツは『分霊』という。神格は、たいしたことはない。あくまでも、この世界の監視カメラ的な存在に過ぎない。それでも、強い魔力を持っているのは確かだが。
購入した車が故障したのも、コイツの神格が邪魔をして
「コイツ、学校で悪さをしていないかい?」
「いえいえ。まったく。おとなしいもんだよ」
「だったらいいが。ボクなんて、しょっちゅう呼び出しを食らうんだよ」
ポントスが、頭をかく。
「去年は魔法を暴走させて、図書館じゅうの本を吹っ飛ばしてさー。二時間も説教を食らったよ。どうしてボクまで、って思ったもんさ」
「それはずっと昔の……コホン」
歳がバレそうになって、慌ててパァイが咳払いをする。
「正確には、何年前ですの?」
デボラがコッソリ耳打ちしてきた。
「一三年前だ。オレがこっちに来て、三年目のときかな?」
たしか図書館で暴れ出した禁書をおとなしくさせようとして、中に封印された魔物と激しくやりあったのだ。今その禁書は、彼女のお供になっている。
「ワフワフ!」
パァイの隣に、茶色い小犬がトタトタとやってきた。
「おお、エイボンよ。お主も、ごあいさつに来たか」
「ワフ!」
ハッハッハッと、デボラの足に身体をこすりつける。
「くすぐったいですわ!」
「おお、デボラ殿が気に入ったみたいよのう」
「撫でてよろしいですかしら?」
デボラは、エイボンに手を伸ばそうとした。
「やめといたほうが、ええのう」
「どうしてですの?」
「このエイボンなる子犬が、その禁書に封じられていた魔物じゃから」
エイボンを触ろうとした手を、デボラは引っ込める。
「じゃあさー、エイボンっていうのはー。もしかして?」
「そのもしかして、じゃ。こやつはいわゆる『エイボンの書』の化け物じゃ」
パァイの戦いでこのサイズになっているが、昔は三〇メートルを超える狼だった。
「封印は、完璧ではないでの。素人がうかつに触れたらどうなるかわからんで」
なので、この屋敷にエイボンを預けているという。
「ふーん」
まったく躊躇せず、プリティカが小犬を抱き上げる。
「オスだねー。めっちゃデボラちゃんを見てるよー。デボラちゃんを、メスと思っているのかなー?」
エイボンを抱きかかえながら、プリティカがにこやかに言う。
「これ、触るでない」
「へーきへーき。エイボンの複写なら、ウチも持ってるからー」
「ふむ……魔の者の家系か。面妖な」
パァイは興味深く、プリティカを観察していた。
オレも、プリティカには謎が多いと考えている。まあ、考えても仕方ないが。
「さて、更衣室などの施設はこちらで用意しようぞ」
「水着も売っているから、好きなのを選んでくれ」
ポントスの屋敷は、一階が売店になっている。さっきも家族連れが、ビーチ用遊具などを買っていった。
「後でレシートを見せてくれたら、立て替えるよ」
「そんな。悪いですわ」
「いいっていいって。イクタの手伝いをしてくれるってのは、ボクを手伝ってくれるのも一緒さ。その代わり」
ポントスが、デボラたちにパァイを差し出す。
「この女っ気ゼロなわが妹に、水着を見繕ってやってほしい」
「ななな! 兄上なにを!?」
「せっかく同年代のお友だちができたんだ。仲良くしなさい」
「むむう。仕方ないのう」
トボトボと、パァイは他の女性人とともに、更衣室へ。
「とかいって、うれしいくせに」
ポントスが微笑む。
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