インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路

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ダンジョン遠足と、お弁当

第19話 精霊たちと、異文化交流

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 キャロリネが、アイテムボックスを漁る。

「途中で食べてしまったとか、忘れたとかは?」

「たしかここに、あったはずだ! 馬車で、何度も確認した!」

 その場面は、デボラも見ていた。食いしん坊のキャロリネが、弁当を忘れるなんてありえない。

「隅っこに潜っていっちゃったってことはー?」

「バジリスクのモモの照り焼きだから、すぐにわかる!」

 すごい弁当だ。さすがに戦闘職は、格が違う。 

「まって、デボラちゃーん。カツサンドもないー」

「え!?」

 デボラも、アイテムボックスを確かめる。

 イクタお手製の仕出し弁当が、なくなっていた。

「そんな! カツサンドはお楽しみでしたのに!」

「デボラちゃーん。あの子たち」

 プリティカが、セーフゾーンの外を指差す。

『キャッキャ』

 緑色に光る小さい物体が、人間の身体くらい大きな骨付き鶏モモをムシャムシャと食べていた。別のスペースでは、カツサンドまで広がっている。

「あれは確か、あたいらが探している精霊だよな? 写真を撮ってこいって言われた」

「だよねー」

 まさか、こんなイタズラ好きだったとは。

「カツサンドを盗んだのは、あの精霊たちの仕業でしたのね?」

「そうみたいー」

 ゴブリンとの戦闘中に、アイテムボックスを開けられたのだろう。

 どうやってそんな高等技術を。

「このまま、何も食わずに帰るのか……」

 キャロリネの腹が、寂しく鳴り響く。

 デボラは、意を決した。

「キャロリネさん、これをお食べなさい」

 イクタが自分のために作ってくれた弁当を、デボラはキャロリネのヒザに置く。

「ダメだ! 自分で食べてくれ! いくら食い意地の張ったあたいでも、あんたのカレシが作った料理をいただくわけには!」

「たしかに、これはわたくしの想い人が作ってくださった、大切なお弁当です。ですがイクタなら、こうすると思うのですわよ」

 そう。絶対にイクタなら、自分の空腹さえ忘れて弁当を差し出すに違いない。

「ウチのドライカレーおにぎりも、食べなよー」

「みんな……ありがとう! このお返しは絶対に」

「いいよそんなのー。またイクタおじにお願いしたらいいしー」

 三人で、二つのお弁当を分け合う。

「ところで、精霊の方々……なにかいうことが、あるのではございません?」

 水筒のお茶を置き、デボラが精霊たちを睨みつけた。

『キャ!?』

 にぎやかだった空気が、一瞬で凍りつく。

「あなた方はキャロリネさんだけではなく、イクタの手作りお弁当にまで手を出したのです。どうなるか、ご理解していますよね?」
 
 こうしてデボラたちは、精霊との写真撮影を「平和的に」解決した……。 


                                      ~*~
 

 これが、デボラたちが撮ってきたっていう写真か。

「精霊が、えらい怯えている感じがするが」

「実に、有意義な異文化交流でしたわ」

 まあ、昼飯に手を出されたらなあ。

「ですが、ごめんなさい。キャロリネさんと分け合ったことで、あまり堪能できませんでしたの」

「ごめん、おじー」

 デボラとプリティカが、オレに詫びを入れる。

「だろうと思ってな。ほら」

 オレは、用意しておいた弁当を、二人の前に。

「昼に作ったものの、予備だ」

「ありがとー。これ、お夕飯にするね」

 さっそくプリティカが広げて、食べ始める。

「どうしてですの!?」

「いやあ。あのダンジョンにいる精霊たちへの対応な。あれで、大正解なんだよ」

 ヤツらはイタズラ好きで、ちっとも悪びれない。むしろこちらがへりくだるように、要求してくる。
「異文化交流してやってるんだから、感謝しろ」という、態度に出てくるのだ。
「お収めください」なんてかしこまっていたら、調子に乗り出す。

 円滑に撮影がしたいなら、それでもいい。
 だが今後、精霊との契約の際には支障が出る。

「なので、こちらが強気に圧をかけて、OKなんだ。ただ、なにか盗られているだろうなってさ」

 そこで、弁当が狙われると思っていたのだ。

「あのダンジョンに潜るって聞いたとき、お手製の方はあえて薄味にしていたんだ。友だちが持ってきていたバジリスクのテリヤキが狙われたって話から、あっと思ったよ」

 カツサンドも、ソースが絡んでいる。

 精霊たちはソースや醤油など、香りの強いものに惹かれるのだ。

「だから手製の弁当は香りを弱めておけば、奪われないだろうなと」

 仕出し弁当は、精霊との交流用でもある。どうしても会話できない人用の、最後の手段として。

「そうでしたのね」

 それを知らずに、デボラは自分で食べるために買ったんだからな。事前に渡されたプリントにも、同様の説明があったはずなんだが。

「ささ、あんたも食えよ」

 後ろにいるハーフオークの少女にも、声をかける。

「いいのか? あたいは二人の弁当を食べちまった」

「カツサンド、食ってないだろ?」

 オレは少女に、カツサンドを振る舞う。

「どうぞ。キャロリネさん」

「ここのカツサンド、おいしーよー」

 デボラとプリティカも、席を開けた。真ん中に座れと。

「ありがとう」

 カツサンドを食べた途端、キャロリネなるハーフオークは至福の顔になった。

「あんたのおかげで、二人は学んだみたいだしな。なにが大切なのか」

 三人は向き合って、笑顔を見せる。
 
 


 翌日、キャロリネがでかい弁当箱を持って学食にやってきた。この子は実家通いで、ずっと弁当組だったはず。

「イクタのおやっさん! あたいも、タコさんウインナーのお弁当を作ってきた!」

 キャロリネが、ドカベンを広げた。

 そこには白飯の上に群がる、一〇〇匹を超えたタコウインナーが。おかずは、ウインナーしかない。

「限界メシじゃね―か!」

 
(お弁当編 おしまい)
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