インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路

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第二章 夏は、女子魔法使いたちを腹ペコにする その1 エルフ生徒会長と、ドワーフ番長と、おかゆ

第16話 生徒会長と、おかゆ

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「エドラの目的は、騎士の称号を得ることです。そうすれば、一応は貴族の仲間入りができます。なので、私との接点も強くなります。私の親に、何も言わせないと」

 委員長イルマは、エドラの姿を影で支えたいという。

「お前さんの気持ちは、よくわかった。だから、その醤油差しは使わないでくれるか?」

「このガルム入れですか?」

「瓶ごと、入れようとしたろ?」

 ガルムとは、古代ローマ時代から実在した魚醤のことである。異世界ではガルムが主流で、大豆から作った醤油は最近できた。

 異世界で「醤油を出すチートスキル」がよく出てくるが、醤油自体は割と普及しているっぽい。味が洗練されているかどうかは、ともかく。

「ていうか、おかゆに醤油なんて使ったら、雑炊に寄っちまうぞ」

 たしかに醤油入りのおかゆはあるが、味の濃さから病人には受け付けられないだろう。

「はい。がんばりますっ」

「魔力は抜くんだぜ」

「う……」

 言ったそばから、魔力が入っちまったか。


「しかし、手際はいいのに、どうして料理に差が出るのか?」

 同じようにデボラが作った分は、ちゃんとおかゆになっている。

 イルマが一生懸命な分、もどかしい。


「おそらくイルマさんの家系は、魔法を使うのが日常なのです。呼吸するように魔法を使ってらっしゃいます」

 そのため、調理の過程で魔力がこもってしまうのでは、とデボラは指摘する。

 メイドが食事を作っているのも、歴代でそんな感じだから、一族に料理をさせなかったんだろう、とデボラは言う。


「ですが、エドラ先輩を治したいというお気持ちは、本物ですわ。奇跡は起きると思いますわよ」


 イルマの想いが実ったのか、おかゆが無事に完成した。味見してみると、塩加減もちょうどいい。

「できました! イクタ師匠。ありがとうございます」

「礼はいい。早く持って行ってやれ」

 今頃、エドラは腹をすかせているはずである。

 デボラが鍋に保温魔法をかけて、温かいままにしてくれた。

 オレは、土鍋の上に小さな壺を乗せる。

「こちらは?」

「梅干しと、たくあんだ。学校に野菜を卸してくれている、ウッドゴーレムのモクバさんご夫妻っているだろ? 彼女から習って、オレが漬けた」

 これら漬物は、店で出しているものである。塩が足りないときは、いいだろう。

「はい。行ってきます。師匠、デボラさん。色々と、ありがとうございました」

「エドラ先輩の体長が良くなることを、お祈りしておりますわ」

「ありがとう、デボラさん」

 イルマが、食堂から出ていく。

「こけるなよー」

「はいー」


                                      ~*~
 

 エドラの家に到着した。

 さっそく、エドラのいる部屋へ。

 やはり疲れているのか、ベッドの上でエドラはうんうんとうなっている。

「おかゆを作ってきたわ」

「マジか。おめえ、お料理苦手じゃん」

「あなたがひいきになさっている、イクタというコックさんがいるでしょ? あの方直伝のおかゆよ」

「おお、イクタから習ったのか。だったら、絶対うまいはずだじぇ」

 換気をして、おかゆの鍋を開ける。

「おお。土鍋のゴトって音からして、うまそう」

 空腹だったのか、エドラは飛び起きた。

「熱いから、気をつけなさい」

 レンゲを使って、おかゆをすくい上げる。

「口を開けなさい」

 そっと、エドラに食べさせた。

「ああ、うんめえ」

 エドラは、ゆっくりと米を咀嚼する。

「あとこれ、梅干しというお漬物だそうよ」

「うおー。最高じゃん」

 壺を開けた途端、素手で梅干しをパクリと放り込んだ。

「お漬物って、そんなにおいしいの?」

「うめえぞ。特にイクタのは、めちゃうめえんだ」

 イルマは、あまり好んで漬物を食べない。薬草というイメージがあるからだ。研究対象であるため、仕方なく口に入れる感覚である。

「あの人、色々漬けてるよなー。カレーのラッキョウも福神漬けも、全部自家製だろー。超絶うめえんだよ」

 野菜を扱うウッドゴーレム夫妻から教わってから、イクタにとって数少ない趣味になったという。

「ああ、味がなくなっちまう」

 名残惜しいのか、エドラはアムアムと口の中で種をいつまでも転がす。

「そんなにおいしいなら」

 梅干しを、イルマも食べてみる。

「すっぱ!」

「それがいいんだよ」

「たしかにこれは、おかゆの塩加減で絶妙においしくなりそう」

 これは、自分用に持って帰りたい。家でおかゆを作って、この梅干しで食べてみたい衝動に駆られた。

「たくあんも、サイコー」

 漬物をバリボリと噛みしめる。

「これだけ食べられたら、明日は学校に行けそうかしら?」

「おう! 午前中だけだしな」

「よかった。じゃあ私は帰るから」

 カバンを持って、イルマは立ち上がった。

「気をつけてな。そうそう。コロッケ持って帰れ」

「ありがとう。いただくわ」

「あ、イルマ」

 突然、エドラがイルマを呼び止める。

「どうしたの? なにか欲しい物がある?」

「オイラ、絶対騎士になるからな」

「期待しているわ」

 エドラなら、きっといい騎士になるはずだ。

 それは、親友である自分が一番わかっている。


                                      ~*~
 
 
「イクタ、エドラ先輩の体調、よくなったそうですわ」

「そいつはよかった」

 喜んでいると、ドタドタとイルマがやって来た。

「イクタ師匠、料理を教わりに来ました。今日は、オムライスを教えてください!」

「なんだよ? なんでまた?」

 ウチの店は、料理教室ではないんだが?

「文化祭の模擬店でオムライスを出すことになったので」

「オムライスなら、カフェのオッサンに頼めよ。イルマは元々、あっちの常連だろうが」

 あっちはバリバリの洋食で、ソフトオムライスに定評がある。

「師匠がいいんです。あちらは上にケチャップで文字が書けないので」

 ああ、ソフトオムライスだからか。

「文化祭は、九月に予定しています。でも今から練習しておかなければ、間に合いません。どうか、お願いします!」

「だから、オレの店は料理教室じゃねえーっ!」
 
 
(おかゆ編 おしまい)
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