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第二章 夏は、女子魔法使いたちを腹ペコにする その1 エルフ生徒会長と、ドワーフ番長と、おかゆ

第15話 生徒会長は、おかゆ作りで悪戦苦闘する

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 オレは生徒会長のイクタに請われて、滋養のあるものを作ることに。

 ただ、気になることが。

「エドラの母親は、購買のオバちゃんだろ? オバちゃんとかは、見てくれないのか?」

 今は試験期間中で、昼から授業がない。
 昼食時間は、余裕がある。

「はい。みんな忙しくしていらして」

「そっか。購買のオバちゃんは、ここだけで商売しているわけではないもんな」
 
 老人ホームや、こども園にも、オバちゃんはコロッケを売っている。

 家でエドラを看病してくれる人は、皆無らしい。

「義理のお姉さんも、出産したばかりで」

「そいつは、大変だな」

 教える前に、大事なことを聞く。

「食欲はあるんだな?」

「一応は」

 病気の時は食欲自体がないと、食べさせてはいけない。消化にパワーを使ってしまうからだ。

「ここ、魔法学校だよな。魔法でどうにかしないのか?」

「カゼなどで変に魔法を使ってしまうと、身体が『魔法がないとカゼも治癒できない』と覚えてしまうんですわ」

 デボラによると、そうらしい。

 弱めの魔法などでちょっとした擦り傷や軽いカゼを治すと、身体が慣れてしまう。

 実際、頭痛を常に魔法で治していた生徒は、頭痛解放魔法が手放せなくなったとか。

 魔法って案外、厄介なんだな。だから、薬局があるのか。

「イクタって、魔法の知識が案外乏しいのですわね? 賢者様と、お友だちですのに」

「薬学は専門外なんだ。オレは自分で、魔法使いだとも思っていないし」

 料理にしか魔法を使わないし、戦闘などもしないからだ。なので普通に、薬局を利用していたが。

 それにオレは、賢者パァイと親しく話すわけじゃない。オレが訪問するときは寝るときだから、会話も雑談にとどめている。魔法の詳しい話などは、聞かないのだ。

「試験前です。できるだけ、薬品や自己治癒力で治しておかないと、試験期間中にぶり返してしまうんです」

「わかった。食えるんなら、おかゆで十分だな」

 おかゆは『飲む点滴』と呼ばれる甘酒と、対してカロリーに差はない。ただクセが強く、オレは苦手なのだ。

「私、お料理が苦手なので、不安です」

「米を煮て塩を入れるだけの、シンプルなもんだ。そうそう失敗しないさ」

「ですよね。がんばります」

 
 で、おかゆを作り始めたのだが……。

「また失敗したわ」

 鍋からは、七色の煙が出始めた。

「あのな、イルマ。魔法でおたまをかき混ぜない方がいい。変な術式が組み込まれて、料理がマズくなるぞ」

 魔法による自動かき混ぜは危険だと、初歩中の初歩で習うはずなのだが。

「お母様は、このやりかたで調剤をなさっているのに」

「調剤用の魔法だからだ」

 そもそも料理において、横着は厳禁だ。

「ズボラメシは、たしかに忙しい主婦のためにある。とはいえ、病人に食べさせていいかというと、悩むな」

「はい。心得ました。イクタ師匠」

 師匠ってのはいいすぎだろ。おかゆを作っているだけなのに。

「できました、イクタ師匠!」

 どうにか、おかゆらしきものは完成した。

「どれどれ……んっ!?」

「甘いですわ! 甘すぎて逆に苦いですわ」

「これ、甘酒じゃねえか!」

 おかゆなのに、なんで麹が入ってるんだよ!?

「我がクジョー家における、秘伝のハイポーションの材料です。激甘で、子ども用シロップポーションに利用しています」

 使用法が、完全にノドアメか甘酒だな。

「イルマ。悪いが今から、ポリコレに引っ掛かりそうな質問をするぞ。親から料理とかは、習ってないのか?」

「お母様の段階で、お料理はメイドさんのお仕事でした」

「……さいですか」

 環境が、貴族すぎる。

 まあ、魔法学校なんかに通わせる家って、たいていバカでかい貴族か、能力のある孤児だろう。エドラがドの付く平民だから、感覚がマヒしていたが。

 といっても、今どきの親は、子どもに花嫁修業とかもさせないんだろうな。「家事は分担」って感性なら、それこそ。

「イルマ。わたくしはいつでも、イクタの花嫁になる覚悟がありますわ。修行もちゃんとしています」

「その修業は、他の誰かを幸せにするために役立ててくれ」

「嫁にならないと戦争をふっかけてくるような相手に、ですか?」

 お前さんたちの周りは、そんな男しかいねえのかよ?

「じゃあ、エドラみたいな平民が魔法学校に通っているってのは、かなりレアなんだな?」

「ですね。あの子は私がスカウトしましたから」

「ふむ」

 冒険者学校までは同じだったが、エドラには才能があったという。

「私は成績自体はいいのですが、実戦経験に乏しくて。その点エドラは、はじめからサムライとして完成していましたね」

 オレも、イルマの意見には同意する。あの戦い振りを見せられては。

「生徒たちからの信頼も厚くて。あの子、番長って言われてるでしょ? 周りがいい出したんですよ。それで彼女ったら、番長って単語を調べて、自分でそれっぽくしているんです」

 イルマが、楽しそうにエドラのことを話す。

「お前さんと、エドラとの関係は?」

「幼い頃、彼女の実家のコロッケを、食べたときからです。お祭りで屋台を出していて、そこにエドラが店番をして、私が親にコロッケをねだったのです」

 それからの、付き合いだという。

 いわゆる、幼なじみか。

「でも、私の親は『あんな不良と付き合うんじゃありません』と、いい顔をしなくて」

 それで、イルマはエドラを厳しくしつけちゃうんだろうな。
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