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その3 ダークエルフのギャルと魔王と、カレーライス

第7話 ダークエルフとカレー

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「ですので、モクバさんの食材を抜きにして、わが校で学食は提供できません。どうか、お引取りを。お気持ちは、本当に感謝しています」

 誠心誠意、頭を下げる。モクバさんともども。

 何事かと野次馬たちも集まってきた。

「イクタおじー。おはよー。どうしたの?」

 その中には、プリティカの姿も。

「なんでもありません! 教室に戻って!」

「あ、ちょっとまって! オヤジ、なにやってんの!」

 父親の姿を見つけて、プリティカが詰め寄る。

「お前のために、食材を持ってきたんだぞ」

「余計なお世話だっつーの! 誰も、そこまで頼んでない」

 腰に手を当てて、プリティカは父親を責めた。

 それだけで、伯爵はシュンとなる。結構、娘に頭が上がらない様子だ。

「大事な娘が口にするものだから、食べ慣れた物がいいと思ってな」

「他の生徒は、食べ慣れてないじゃん」

 ど正論を突きつけられて、伯爵も黙り込む。

「それより早く帰って。通学の邪魔だし」

「コホン。わかった」

 騒ぎが大きくなって気まずくなったのか、伯爵が咳払いをする。

「では。イクタさん、みなさん、ご迷惑をおかけしましたな。今日は帰ります。では」

 馬車に乗って、伯爵は帰っていった。その姿は、どこかさみしげである。

「なんだ、あれは?」

「おおかた、ウチに会いに来る口実だけほしかったみたい」

「親と仲が悪いんだな?」

「うん。親の事業を継いだだけの田舎者のくせにー、エラそうなのー」

 仲良くできればいいが。

 
                                      ~*~


 プリティカは、的である木人に、ファイアボールを当てる。相手を父親だと思って撃ったら、木人の上半身が吹っ飛んでしまった。

「よ、よくできました」

 実技担当の教師の顔が、引きつっている。
 
 次の授業では、マンドラゴラの正しい扱い方を学ぶ。

 プリティカは土を掘って、三分の一だけ切り取った。

「そうです。後は強い生命力で、勝手に葉っぱが芽吹きます。引っこ抜くから、悲鳴を上げてしまうので」

 切っても悲鳴は出るのだが、土が防音の働きをしてくれる。

「ですが先生、葉を切ってしまっては、成長が止まってしまいます」

 生徒の一人が、質問をした。

「大丈夫ー。葉っぱさんはー、また生えてくるからー」

 マンドラゴラの成長度合いは、計り知れない。水と土さえあれば、また再生をする。にんにくをペットボトルで栽培するのと、同じ原理だ。

「ただ、季節だけには気をつけてねー。暑い寒いは苦手だからー」

 女生徒が、プリティカの解説に「おー」とうなる。

 だいたい、すべて実家で学んた知識なのだが。
 
 田舎魔王の伯爵は、単に先代魔王の遺産を引き継いだだけだ。
 もちろん、娘であるプリティカ自体もエラいわけじゃない。

 なのに、父親はふんぞり返っている。
 遺産を守るために必死なのだろうが、少々いきすぎな気もする。

 なんとか、彼の目を覚まさせられないか。
 

                                      ~*~


 その後、何事もなく昼食が進む。

「おじー、カレーほしー」

 食券を持って、プリティカが食べに来た。

「おいよ。そら」

 できたてのカレーを、プリティカに差し出す。

「ありがとー」

「でさ、おじー。頼みあるー」

「なんだよ?」

「カレーの作り方、教えてー」

 意外な頼み事だった。

「どうしたんだ? 料理はできるんだよな?」

「うまく作れない。おじみたいなカレーは難しい」

 実家にもカレーは存在するが、スープカレーだという。

「お前さん、カレーばかりで飽きないか?」

「別にー。郷土料理だもーん」

 カレーは、ダークエルフの伝統料理だとか。

「といっても、ダークエルフの作るカレーってめちゃ辛くてさー。ウチは食べられないんだよねー」

 そのとき、母親が作ってくれたのが、ニホン産カレーライスだったという。

「あれで辛さに慣れていってー。今でも大好きなのー」

「ダークエルフが作っているのは、本格的なヤツだな」

 ライスも使うだろうが、オレたちニホンジンが食ってるカレーはちょいと馴染んでいないんだろう。

 この娘は、舌が敏感すぎるのかもな。

 プリティカのカレー好きが、母親の影響だったとは。

「おじのカレーってさ、ママの作る味と近いんだよねー」

「そうか」

 なんだか、照れくさい。

「教えるのがムリならさ……オヤジに、食べさせてやってくれないかな?」

「そっちの方がいいかもな」

 オレは、プリティカの頼みを聞き入れる。

「ですが、よろしいんですの? なにか納得させられる、秘策なんかがあるとか?」

 デボラは言うが、オレは「ない」とキッパリと言い切った。

「ダメじゃありませんの。普通こういう展開になったら、とびっきりうまいカレーライスを作る流れなのでは?」

「そんなことをしてどうする? 伯爵には、いつものカレーを食べてもらう。そうじゃなかったら、学食を開く意味がない」

 学食は店ではあるが、繁盛すれば勝ちって場所じゃない。

 あくまでも、生徒たちにとっての憩いの場であるべきだ。

 それを忘れて、伯爵の舌に合わせたりなんかしたら、高級志向に走ってしまう。

「ここは、庶民も通うんだ。絶妙な金銭バランスで、成り立っている」

 だから、普通のカレーを味わってもらうんだ。

「それに、オレはこのカレーこそ、あの伯爵を納得させられると思っているんだよ」

「どうして? その確証はなんですの?」

「決まってんだろ。プリティカがうまいって、いってるんだからな」
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