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その3 ダークエルフのギャルと魔王と、カレーライス

第5話 いつもの

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「おじー。今日はカレーつけ麺ちょうだーい」

 ダークエルフギャルが、今日もカレーを食いに来た。この娘はうちの常連で、カレー好きのギャルだ。

「おう。おまちどう。今日は、カレーライスじゃないんだな?」

「つけ麺が流行ってんじゃん。やっぱさ、流行りには乗っかっておきたいかなって」

 ギャルが、Vサインをする。

「ごきげんよう、プリティカさん」

 デボラが、『プリティカ』というギャルに声をかけた。

 ふたりともリボンタイが同じピンク色だから、同級生か。

「プリティカっていうんだな?」

「チガウヨー。プリティカはあだ名ー。ホントはねー、『クリッティカー・アルフェ』っていうんだよねー。『反発を恐れぬ、宵の明星』って意味なんだよー」

 しかし「あまりかわいくない」と、クラスメイトからあだ名をつけてもらったらしい。

「あだ名か。『リティ』じゃダメなのか?」

「それじゃあ、『ピクシー』じゃーん。エルフじゃないじゃーん。おじ、ウケるー」

 地球のサッカー選手の知識もあるのか。見た目に反して、博識なのかもしれん。

『プリティカ』か。キラキラなあだ名って、異世界にもあるんだな。

「やっと名前、教えられたねー。いつも忙しそうにしてるからー、お話できなかったー」

「プリティカさん、入学当時からずっとカレーばかりですね?」

「カレーは、全部溶け込んでるでしょー? 人類の叡智が詰まってるーって思えない? いいカンジだよねー」

 アツアツのカレーつけ麺を、プリティカはズズズッ、と勢いよくすする。カレーうどんのように。

「みんなさー、カレーみたいに混ざっちゃえばよくない?」

 プリティカが、ちょっとさみしげな顔をした。

「カレーが制服に、ハネちまわないか?」

 うちの学食は全店、ナプキンエプロンも用意してある。

「いいって。こんなハネくらい防げないで、魔法使いは名乗れないよねー」

 たしかにプリティカの制服には、カレーがハネ飛んだりしていない。他の生徒は、ちゃんとエプロンで防いでいるのに。

「こういうしょうもない魔法ばっか、うまくなっていくんだよねえ」

 プリティカが「ごちそーさまー」と、手を合わせる。

「おじー。今日もおいしかったー。またおねがーい」

 食器を返しに来たプリティカが、こちらに手を振った。

「遊んでそうな見た目に反して、すごい魔法使いだったりするのか? あの娘?」

「気になりますの?」

 デボラがジト目で、オレを見つめてくる。

「常連だからな。悩みとか抱えていなかったらいいと思ったんだだけさ。で、どうなんだ?」

「はい。プリティカさんは、わが校きってのエリートですわよ。ただ」

 プリティカはエリートであり、はみ出し者でもあるらしい。

「そういえば、友だちを連れている感じではないな」

 ギャルと言えば、たくさん友だちがいる印象を受けるが。

「昼食のときだけは、一人になるそうです。ご飯に集中したいとかで」

 休み時間や放課後のおやつタイムだと、友だちと連れ立っているそうだ。

「お前さんは、仲良くないのか?」

「クラスメイトですが、あまり会話はしませんね。いつも周りに人が集まっていまして」

「でも、学食だけは一人と」

「というより、人との距離感が絶妙なのですわ」

 プリティカの交流関係は、あくまでも広く浅いという。個人を尊重はするものの、深く人と関わろうとはしない。

「事情でも、あるんだろうか?」

「さあ。探ってみましょうかしら?」

「いや。そこまではいいんだ」

 ただ食っている途中に、表情が曇ったのが気になる。

 まあなにがあろうと、プリティカ個人の問題だ。オレが気にしても、しょうがねえよな。
 

                                      ~*~


「じゃねー」

 おやつタイムを終えて、プリティカは帰り支度をする。

 今日も、楽しい勉強会だった。

 そういえば最近、クラスメイトのデボラ某が、イクタおじさんの学食を手伝っている。ぜひその経緯を聞いてみたいものだ。そうすれば、もっとおじさんとデボラと仲良くできるかもしれない。

「クリッティカー様」

 父親の使いが、またやってきた。メイド長の、リリム族だ。

「リリムか。父に言われてきたのだな?」

 いつものギャル語を封印し、直接脳内で会話をする。この念話は、魔族特製の周波数を使う。魔法学校の者には、虫の声にしか聞こえないはず。

「女性型の魔族を連れてきた辺り、父も多少は学習したか」

「はい。また像を破壊されては、かなわぬと」

 前はオスのガーゴイルをよこして、学校の石像に擬態させていた。学校にバレないよう、秒で撃退したが。

「何用だ? ここはお前のような輩が来るところではない」

「そう申されましても、お父上はいつこの学園を支配するのかと、気をもんでいらしております」

 女性形モンスターが、責めるような物言いで食って掛かる。

「学園をシメるとか、前時代的。不良か、ってのー」

 またプリティカが、ギャル語に戻した。

 相変わらずコイツラ魔族は、カレーのシミみたいなヤツラだ。関わりたくない。

「世俗的は話し方はお控えなさい、クリッティカー姫」

「うるせえなー。テメエはウチのママかってのー」

「まったく。亡きお母上に、まったく似てらっしゃいませんね。少しは魔王の血を受け継ぐ存在である自覚を、お持ちくださいませ」

 リリムが、プリティカを責めた。
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