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第五章 再会と恋の始まりとJK

第81話 何事もレシピ通りに行かない問題

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 主を失い、ホコリの舞う店内を掃除した。

 その後すぐ、二人は何も語らず、黙々と料理に取り組む。
 
 作るのは、ギョーザだ。

 大将が作るはずだったギョーザを。

 厨房の脇に、色褪せた大学ノートを立てかける。

 長男が、大将のレシピノートを貸してくれたのである。

 ギョウザ以外にも料理のレシピが書かれていた。
 タンシチューがあったから、デパートの食堂時代から愛用していたようである。

 餡は孝明が担当した。レシピ通りにニンニクとニラと刻む。
 ボールの中で挽肉と混ぜた。時々、塩コショウとしょう油、ショウガを足しながら。

 琴子は餡を皮に包む。



 窓の向こうでは、大将の住んでいたアパートが重機で取り壊されていた。
 老朽化ゆえの解体らしい。この区画も、大型商業施設が建設される予定だ。

 街が活性化する度に、だんだんと古い日常が消えていく。
 自然の摂理とは言え、やりきれない。


 ある程度ギョーザに火が通ったところで、水で溶いた片栗粉を流す。
 皿でフタをして、レシピ通り、孝明はフライパンをひっくり返した。

 見事な、羽根つきギョーザのできあがり。

「味は保障しねえぞ」
「分かってる。あたしたち素人だしね」

 皿をカウンター席に置いて、二人は客側の席に回った。
 カウンターに大将の写真を置く。

「じゃあ大将、いただきます」
「いただきます」


 手を合わせて、二人はギョーザに箸を伸ばす。


 羽根を崩すと、パリッといい音がした。


「おおーっ、羽根は、イイカンジだね」
 琴子が、期待に胸を膨らませている。

 ポン酢に付けて、一口。
 具を噛みしめると、ポン酢の味が口に染みこんだ。


「味がしねえ……」
「何か入れ忘れたっけ?」


 二人とも、苦々しい顔になる。


 大将のレシピ通りしていたはずだ。
 大将の作ったギョーザは、しっかりと味が調っていたのに。

「うまくねえよ」
「ホントだね」

 あまりの出来の悪さに、二人とも笑う。

 原因は、分かっていた。


 おいしかったのは、大将が作っていたからだろう。
 絶妙なコネ具合、野菜の切り方、火加減、あらゆる要素が、仕込みの段階で抜けているのである。

 まずいギョーザは、「もう、大将はいないのだ」と実感する、決定的な要因となってしまった。

「うまくねえよ、大将。あんたが教えてくれたのによぉ。うまくできねえ……」
「うううう……」
 笑いながら、二人は泣く。二人はすすり泣き、最後は大声で泣いた。いつまでも。

 最後の晩餐は、塩の味がした。

 大将の歴史が詰まったノートを、丁寧に片付ける。

 まずいギョウザを平らげた二人は、覚悟を決めた。



 必ず、ここに戻ってくると。
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