上 下
84 / 91
第五章 再会と恋の始まりとJK

第78話 どこで食うかより、誰と食うか問題

しおりを挟む
「好みは人それぞれだ。シチューにライスを足さねばならないってわけじゃない。でも、うまいって言っている人の前で、マズイというのはおかしくないか?」

 それでは、支持者まで侮辱することと同じだ。

「少なくとも、オレはうまいと思った。ここにいるお客さんも、この店の料理がおいしいから足を運んでるんだ。この味を待ってるんだ」

 美食が欲しいなら、よそでもいい。店の雰囲気が好きという人もいるだろう。
 好きな人と食べるなら、カップ麺でも大衆食堂だって構わない。 



「どれを食べるかじゃない。誰と食うかでしょ? オレはあんたとは食いたくないね」



「なんだと、エラそうに!」
 評論家が、口を拭いたフキンをテーブルに叩き付ける。

「周りを見てみな」

 テーブルに座る誰もが、評論家を遠ざけようとする視線を送っていた。


「ふん、せいぜいマズイ料理で楽しむんだな!」
 捨て台詞を吐き、この店に最も相応しくない客は去って行く。
 自分が拒絶されていることが分かったのだろう。

 あとは、客を落ち着かせるだけだが。
 いくらなんでも、目立ちすぎた。孝明は、顔を引きつらせる。

 おもむろに、実栗真琴が席を立つ。


「皆様、お騒がせ致しました。ごゆっくり、料理を楽しんでください」
 
 孝明が言うべき台詞を、真琴が引き受けてくれた。

 真琴の視線が、琴子に向けられる。
 戸惑っていた琴子の頬が、緩む。

「おい、あの子、かわいいな」
 カメラマンの一人が、琴子に気づいた。

「それにしても、実栗さんにそっくりだな?」
「実栗 真琴には隠し子がいるって、聞いたことがあるぞ」

 琴子にカメラを向けようと、クルーがザワつき出す。
 新しいネタに飢えたカメラマンたちが、琴子に照準を合わせようとする。
 今にも、琴子にフラッシュがたかれそうになった。

 二人が一番望んでいなかったことなのに。

 孝明は上着を掴む。
「コトコト、逃げるぞ」
 琴子の腕を引き、無理矢理立たせた。

「まだ食べ終わってないよ!」
「いいから。お邪魔しましたーっ!」

 本当は、母娘水入らずで一緒に食べさせてやりたい。
 だが、二人はそれができない環境にいる。

 今は去ろう。いつか二人が安心して食卓を囲めるその日まで。

「すんません。迷惑料は事務所に請求を」
 ウエイターの隣に立つシェフに、名刺を渡した。

「結構でございます。お気を付けて」と、シェフは言葉を返す。

 孝明はシェフに、「ありがとうございます」と告げた。すぐに、店を出ようとする。

「あの!」
 実栗真琴が立ち上がった。
「ありがとう」
 短く挨拶をして、琴子に微笑みかける。

 琴子の方も、笑顔で返した。

「さて、先生なしで取り直しちゃいましょう。がんばっちゃいますよー」
 ガッツポーズを取って実栗真琴は座り直す。

 大女優からの取り直し要求とあれば、カメラマンたちも従わざるを得ない。
 主役はあくまでも、番宣で来日している彼女なのだから。

 実栗真琴がウインクで、孝明たちを送り出す。
 そのスキに、逃げさせてもらった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子
大衆娯楽
突然失恋し、職場も飛び出した人生どん底状態のユキ(27)が、いろんな人との交流を経て自分を見つめる日常です。時々、子供でも簡単に出来そうな料理を作る場面が出てきます。(この作品は、小説家になろうで公開されているものに加筆修正して投稿しております)

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

手淫部~DT高校生たちの至高なるソロコンサート~

いえつん
大衆娯楽
県立御数高校(おかずこうこう)に通う増田部翔(ますたべしょう)は、授業中にトイレでソロ活動をすることがルーティーンであった。しかし倍部美結(ばいぶみゆ)にそのことがバレてしまう。高校生活が終わるかと思いきや、かえって謎の部活「手淫部」での活動が始まることになる。彼に再び平和な一人での性活は訪れるのだろうか。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

女子高生になっちゃって――Hがダメならゲーム感覚で男を落とすしかないでしょっ!【完結】

青海老圭一
大衆娯楽
石橋を叩いて壊す性格の素人童貞大崎マコト、気づけば雑居ビルの個室ビデオ屋からVRアダルトゲームの世界に迷い込んでしまった。そこには魅力的な女子生徒が揃っていたが、当の本人も女子高生になってしまっていて――。仕方がないので男子生徒を攻略対象にするが、こっちはこっちでイケメン揃い! でもフィクションの世界ならこっちのもんだ。大胆不敵に攻略するよッ!

処理中です...