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第五章 再会と恋の始まりとJK

第73話 グルメライターもしがらみが多い問題

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「コメくんがいてくれたから、あたしは人間になれたんだよ。コメくんがあたしを『女優の娘』じゃなくて、一人のJKじゃなく、ただの実栗琴子として接してくれたから」

 人なつっこい性格なのに、閉鎖的な生活を余儀なくされたに違いない。
「女優の娘」として近づかれたことも多かったろう。
 彼女の言い方から察するに、そんな苦労が窺えた。

 ヒザに頬を置きながら、琴子は優しげな笑みを向けてくる。

「ありがとう、コメくん」
「感謝するのは、オレの方だよ」

 琴子が驚いたような顔になる。

「オレの両親も記者でな。昔から、人の裏ばかり探ってるから、せめて家庭内で秘密はやめようなって決めてたんだ。でも結局はウソついて、ケンカばっかりでさ」

 いつの間にか、人を心底から信用しないクセが付いていた。
 ジャーナリズムを活かせる仕事として、姉共々グルメライターを選んだ。
 ここなら誰も傷つけないと思って。
 しかし、そんな世界でも欺瞞や諍いは起きる。
 逃れられないのだ、と勝手に決めつけていた。

 でも、それを救ってくれたのが、琴子だ。

「お前が誰だろうと関係ない。好きになっちゃったなら、こいつとどこまでも行こうって、世間様から指を差されても、オレが壁になろうってな。お前と付き合うって腹をくくったときに決めた。それは、よかったと思ってるよ」

 慈悲深かった琴子の笑みが、朱に染まっていた。

「ありがとう、コトコト」

 ダーッと言いながら、琴子はビニールシートに大の字になる。

「あーもう終わり! こんな暗い話題なんか、さっさと終わらせたかったの!」

 琴子にならい、孝明もゆっくりとビニールシートに寝そべった。

「悪かった。もっとロマンチックなファーストキスにしたかっただろうに」
「だから、この話題は終わり。ロマンチックがやりたいなら、自分で考えて! 楽しみにしてるからね」
「はい」

 まったく。琴子には敵わない。

「大事なのは、幸せにできるかどうかじゃなくてさ、好きかどうかってコトじゃん。あたしはコメくんと一緒にいたい。それでいいよ」

 そうだった。そんな簡単な答えに、どうして今までたどり着けなかったのだろう。

 シートを畳んだ後、近くの動物園で餌やりをした。

 琴子が投げたリンゴの切れ端を、たやすくゾウは噛み砕く。

「あのゾウの食欲、コトコト並だぜ」
「あそこまで食い意地張ってませんーっ」

 何気ない一日でも楽しい。
 今は腹の底からそう思う。

 ひとしきり遊んだ後、孝明は再びオープンカーのキーを回す。

 
「今日はちょっと贅沢するぞ」
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