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第三章 夏と海とJK

第45話 間接キス問題

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「あのー」
 フロント係の女性が、孝明に語りかけた。
「お祭りに行ってらっしゃると姉から聞きまして、夕食をご用意しておりませんが」

 事前に、「夕飯の必要がなくなった」とは言ってある。
 ただ、脂ものばかり摂取した胃は、あっさりした海鮮を求めていた。

「いかがいたしましょう。お休みになるには少々早いかと。軽くつまみますか?」
「メニューは、なんでしょう?」
「海鮮、主にお刺身をご用意いたしております」

 焼いたサザエや、タイのアラ汁も付くという。入るだろうか。

「コトコト、どうする?」
「食べるよ」

 琴子は、平然と言い放つ。

「だそうです。お願いします」

 フロント係にそう告げた。

「ご用意いたします」

 料理が来るまで、部屋で待つ。

「オレは、刺身だけ摘まむよ。コトコト、食えるならオレの分も食ってくれ」

「おうよ。食ってさしあげましょう!」

 本当に健啖家だ。若いとはいえ、どれだけ食うのか。

「うわあ、小さい舟盛りだよ」

 持ってきてもらったのは、海鮮の盛り合わせである。
 小舟にお造り、アラ汁と、キノコ類などの山の幸が小鉢に。

「うーん。来てよかったね、コメくん」
 わさび醤油を刺身に塗りたくり、琴子はガブリと喰らう。情緒もへったくれもない。

「これなら、いくらでもいけそうだ」
 旬の刺身を味わい、孝明はうれしさのあまり、ため息をつく。
 気がつけば、孝明の小鉢も減っている。あまりのうまさに箸が進む。

「ちょっと、分けてくれるんじゃなかったっけ?」
「予定変更だ。これは入る」

 どれも量が少なめで、気を利かせてくれている。

「じゃあいいや。豆乳の杏仁豆腐だけちょうだい」

 トロトロ仕立ての杏仁豆腐が、琴子にはヒットしたらしい。
 
 孝明には多少甘かったので、未練はなかった。

「ほらよ」
 孝明は一口だけ食べて、琴子に渡す。

「食べかけじゃん」
「文句を言うな」

「あ、いや、文句じゃなくて、さ」
 恥ずかしげに、琴子がスプーンを弄ぶ。

「だって間接」
「小学生か。単に唾液が付いた程度だろ」

 何を照れる必要が?

「ああもう、こういうトコだし」
「なにがだよ? あげたんだから黙って食えよ」
「こういうところだし。もーっ」
「文句があるなら返せよ。食べきるから」

「やだ。もらったし」
 琴子が、なぜか『孝明が口を付けたところ』にスプーンを突き刺した。
 てんこ盛りに持ち上げ、杏仁豆腐を一息で頬張る。

「茶碗蒸しが残ってる」

「あげる」
 琴子が、茶碗蒸しを孝明に差し出す。

「杏仁豆腐は食うのにか?」
「ギンナンが強くて無理」
「ラッキー。オレ、ギンナン好きだからもら……」

 中を見ると、一口だけ食べられていた。

「何? 唾液が付いてるだけじゃん」

 意趣返しというわけか。

 もらった茶碗蒸しをスプーンですくい、口へ。

「ふ、ふふ……」
 気持ち悪い笑い方をした。

「怖いよ、コトコト」
「いいもん。うん、おいひい」
 気に入っているならいいか。


「じゃあ、あたし、向こうのお部屋に行くね」
「おう。おやすみ」


 フスマを締める直前、琴子がスキマから覗いてきた。


「一緒に寝たいなら、今のうちだよ」



「いいから寝ろってのっ」
 フスマに枕を投げつける。
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