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第三章 夏と海とJK
第46話 顔見知り以外との朝食はやはり緊張する問題
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一夜明け、帰る日を迎えた。
好美と一緒に寝たのが楽しかったのだろう。琴子はシャキッとした顔でテーブルに着く。
「料金は持つので」と、好美の一家と共に朝食をいただく。
昔話に付き合ってくれと言ってきた。どちらにせよ、食堂で食べるから同じことである。
孝明も承諾した。
朝のメインは、ハムエッグである。
孝明は白い飯と味噌汁、琴子と好美はバターロールとポタージュをチョイスした。
「いただきます」
料理の味は、大将とよく似ている。さすが親子と言うべきか。
「大将って、昔からあんな感じ?」
「祖父ですか? 確かに無愛想ですね」
「でも、世話焼きだよね」
言われてみれば。
見ず知らずの男女を、ひとつ屋根の下で泊まらせようとするお節介焼きだ。
余計なお世話だと言うに。
「ぶっきらぼうなだけで、祖父は面倒見がいいんですよ。家族の中で一番気が利く人ですし」
「根はいい人なのよねぇ。素直じゃないだけで」
好美ママが、話の後を引き継ぐ。
大将は昔、百貨店にあるレストランでオーナーシェフを勤めていたという。
しかし、あまりの忙しさに嫌気が差していた。
大将の再三の業務改善指示すら、経営陣はまともに取り合わない。
そんなとき、一人のシェフが過労死した。
店側は責任を取らず、大将は無責任さに嫌気が差し、オーナーの座を息子に譲る。
「SNSによる内部告発が行われたこともあり、私たちはそれを機に経営陣を糾弾しました。今は業務も改善され、以前のように過酷な環境ではなくなっています」
物件を探し回った結果、大将はこの場末に流れ着き、あの店を始めたという。
他店の従業員が休む時間に合わせて、店を開けていたのも、大将の考えだ。
誰も過労死させないために。
「本当は、父も誘ったのですが。あの頑固ジジイ、見ず知らずのヤツらと飲めるかー、って。宿だって娘が経営しているんだから、遠慮の必要なんてないのに。大衆食堂なんてはじめちゃって」
好美の母が、頬杖をつく。
客が少なかろうが、大将はまったりとした時間を楽しんでいた。
時々、常連と話し込んだり。
凝った料理を作らないのも、わざとだった。客がかしこまってしまうから。
「おじいちゃんは、一人になれる時間が欲しかったのかも知れませんね」
好美が、祖父である大将の考えを代弁した。
彼にとっては、一流シェフではなく、単なる大衆食堂のオヤジと思われている方が、居心地が良かったのである。
コーヒーを飲みながら、孝明は窓を眺めた。
どこも、同じような悩みを抱えている。
大将にだって、人生があるのだ。機械が店を経営しているのではない。
彼の人柄を垣間見て、孝明はまた、あの店に帰りたくなった。
好美と一緒に寝たのが楽しかったのだろう。琴子はシャキッとした顔でテーブルに着く。
「料金は持つので」と、好美の一家と共に朝食をいただく。
昔話に付き合ってくれと言ってきた。どちらにせよ、食堂で食べるから同じことである。
孝明も承諾した。
朝のメインは、ハムエッグである。
孝明は白い飯と味噌汁、琴子と好美はバターロールとポタージュをチョイスした。
「いただきます」
料理の味は、大将とよく似ている。さすが親子と言うべきか。
「大将って、昔からあんな感じ?」
「祖父ですか? 確かに無愛想ですね」
「でも、世話焼きだよね」
言われてみれば。
見ず知らずの男女を、ひとつ屋根の下で泊まらせようとするお節介焼きだ。
余計なお世話だと言うに。
「ぶっきらぼうなだけで、祖父は面倒見がいいんですよ。家族の中で一番気が利く人ですし」
「根はいい人なのよねぇ。素直じゃないだけで」
好美ママが、話の後を引き継ぐ。
大将は昔、百貨店にあるレストランでオーナーシェフを勤めていたという。
しかし、あまりの忙しさに嫌気が差していた。
大将の再三の業務改善指示すら、経営陣はまともに取り合わない。
そんなとき、一人のシェフが過労死した。
店側は責任を取らず、大将は無責任さに嫌気が差し、オーナーの座を息子に譲る。
「SNSによる内部告発が行われたこともあり、私たちはそれを機に経営陣を糾弾しました。今は業務も改善され、以前のように過酷な環境ではなくなっています」
物件を探し回った結果、大将はこの場末に流れ着き、あの店を始めたという。
他店の従業員が休む時間に合わせて、店を開けていたのも、大将の考えだ。
誰も過労死させないために。
「本当は、父も誘ったのですが。あの頑固ジジイ、見ず知らずのヤツらと飲めるかー、って。宿だって娘が経営しているんだから、遠慮の必要なんてないのに。大衆食堂なんてはじめちゃって」
好美の母が、頬杖をつく。
客が少なかろうが、大将はまったりとした時間を楽しんでいた。
時々、常連と話し込んだり。
凝った料理を作らないのも、わざとだった。客がかしこまってしまうから。
「おじいちゃんは、一人になれる時間が欲しかったのかも知れませんね」
好美が、祖父である大将の考えを代弁した。
彼にとっては、一流シェフではなく、単なる大衆食堂のオヤジと思われている方が、居心地が良かったのである。
コーヒーを飲みながら、孝明は窓を眺めた。
どこも、同じような悩みを抱えている。
大将にだって、人生があるのだ。機械が店を経営しているのではない。
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