上 下
38 / 91
第三章 夏と海とJK

第35話 フードコートは迷う問題

しおりを挟む
 電車で数分の所にあるモールへ到着する。

 寄り道せず、洋服売り場へ。できるだけ、さっさと済ませる。

 時期は八月中盤だ。次の季節ものを並べたいためか、どの店もセールを行っている。
 ただ、いいものはなさそうだ。

「いやあ。この際、選り好みはしないよ。コメくんが選んだ物を着るから」
「そう言われてもなぁ」

 JKのセンスなんて分からない! 他の客の視線も気になる!

「やっぱり、こういうのは女子の直感で選択するのが」
「コメくんが選んで」

 問答無用、孝明は退路を断たれた。

「なんでそこにこだわる?」

 大して値段は変わらない。デザインも似たり寄ったりだ。
 迷うとすれば女子の方だろう。
 細かい微調整で、センスが問われる。

 高度な美的感覚など、孝明は持ち合わせていない。

「もうこれで!」
 直感で、孝明は白のワンピースを選ぶ。

「これでいいの?」
 琴子が、疑問を投げかけてくる。
 現在着ている服によく似ていたからだろう。
 白地のシャツに白いプリーツスカートだ。

「これがいい」

 孝明のリアクションが面白かったのか、琴子はニヤニヤしている。
「へーえ、コメくんって案外、純情だよね」

「うるさい! いいから着てこい!」
「はーい」と、琴子が更衣室に消えた。
「どうかな?」

 数分後、カーテンが開く。

 露出を抑えた、ヒザまで隠すワンピースは、JK相手だと可愛くないかもと思った。
 意外と似合っている。

「うん。いいねー」
 くるりと、琴子が一周回った。

「二重構造になってて、インナーも透けないようになってる。ナイスチョイス、コメくん」

「どういたしまして」

 孝明自身、予測していなかった感想だ。目にとまったから選んだのだが。

「あたしはカワイイと思うんだけど、どう、似合ってる?」
「冗談抜きで、似合ってる」
「透ける方がいいなら、違うのを選ぶけど」
「それにしてくれお願いしますもう周りの視線が痛い」

 立て続けに告げると、琴子はまたカーテンを閉めて、私服姿に戻る。

「じゃあ、買ってくるから。コメくんも欲しいのがあったら探してね」
 レジへ向かう途中で、琴子がメンズコーナーで立ち止まった。

「コメくんの服さぁ、これなんてどう?」
 琴子がチョイスしたのは、白いシャツにベージュのチノパンだ。
 シャツはサイズも丁度いい。ネコ柄のプリントさえなければ。

「ダサくねえか?」
「これがカワイイんじゃん! コメくん顔が怖いから、これでバランス取れてる」

 抗議しても無駄のようなので、渋々買うことに。
 財布に痛くないのが救いか。 

「頭を使ったら、お腹空いたね」

 上の階にあるフードコートへ。

 琴子は、迷わず和食のコーナーに向かう。から揚げ定食を頼んだ。
「日本食が恋しい!」

「まったくだ。このフードコートで迷ったら、から揚げが正義だな」
 から揚げに大量のタルタルをくぐらせて、一口で放り込んだ。

「うん、正解だ」
 豪快に、孝明がメシをかきこむ。

 思考を働かせている今は、脳を休ませたい。
 気がつけば、機械的にここの定食を選んでいた。

「隣のハンバーガーも、うまそうなんだよなぁ」

「だよねぇ、でも今は和食! とにかくごはんが食べたい! 贅沢だけど、ハンバーガーは飽きちゃった」
 漬物一つとっても、琴子はありがたそうにかじる。

「やっぱり向こうはハンバーガーくらいか?」
「そんなカンジだった。ボリュームがすごいの。ジュースもバケツかと思うくらいのサイズで来るんだよ」

 そんな生活をしていたら、程よい量の日本食へ飛びつくに違いなかった。

「あ、ごはん粒ついてる」
 白くて細い琴子の指が、孝明の頬から米粒を取り除く。

「お前も口拭けよ、みっともない」
 紙フキンで、孝明は琴子の口周りを拭いた。

 周りから、自分たちどう思われているのだろうか。仲のいい兄妹か、それとも。


 食べ終わり、今度こそ琴子の眠気が限界に達した。家の前まで送る。

「寝坊するなよ、コトコト」
「また明日ねコメくん、ふわぁ。あ、服着てきてよ!」
「分かってる」
「絶対だからね! じゃあおやすみ」
 フラフラと、琴子がマンションの中へ消えていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子
大衆娯楽
突然失恋し、職場も飛び出した人生どん底状態のユキ(27)が、いろんな人との交流を経て自分を見つめる日常です。時々、子供でも簡単に出来そうな料理を作る場面が出てきます。(この作品は、小説家になろうで公開されているものに加筆修正して投稿しております)

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

手淫部~DT高校生たちの至高なるソロコンサート~

いえつん
大衆娯楽
県立御数高校(おかずこうこう)に通う増田部翔(ますたべしょう)は、授業中にトイレでソロ活動をすることがルーティーンであった。しかし倍部美結(ばいぶみゆ)にそのことがバレてしまう。高校生活が終わるかと思いきや、かえって謎の部活「手淫部」での活動が始まることになる。彼に再び平和な一人での性活は訪れるのだろうか。

女子高生になっちゃって――Hがダメならゲーム感覚で男を落とすしかないでしょっ!【完結】

青海老圭一
大衆娯楽
石橋を叩いて壊す性格の素人童貞大崎マコト、気づけば雑居ビルの個室ビデオ屋からVRアダルトゲームの世界に迷い込んでしまった。そこには魅力的な女子生徒が揃っていたが、当の本人も女子高生になってしまっていて――。仕方がないので男子生徒を攻略対象にするが、こっちはこっちでイケメン揃い! でもフィクションの世界ならこっちのもんだ。大胆不敵に攻略するよッ!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

処理中です...