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第一章 寄り道と大衆食堂とJK
第3話 玉子かけごはんに「こだわり」は必要か問題
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「いただきます」
「いただきまーす」
孝明と、琴子の声がハモる。
今日の朝は、白飯を食うとと決めていた。
食材は、玉子だけ!
庶民の味方、「玉子かけごはん」だ。
あえて半ライス程度に飯を頼み、箸でお堀を作る。
豪快に片手で玉子を割って、玉子を白い大陸に投下した。
クレーターの中で、玉子がプルンと揺れる。
その光景を、ひとりのJKが口を開けながら眺めていた。
「あー。タマゴ片手で割れるのって、うらやましい」
孝明のすぐ左隣に座る琴子は、両手でカシャッと可愛く玉子を割る。
しょう油を垂らし、琴子と同じタイミングで玉子をごはんと混ぜ合わせる。
グリグリと、グリグリと!
「納豆じゃないんだから、そんなに混ぜる必要ないぞ」
「でもさ、こうやった方が楽しいじゃん」
分かる。
だから、ルール無用でガシガシかき混ぜているのだ。
孝明は専門家ではないが、
「玉子かけごはんは、先に玉子を別容器でかき混ぜてから入れる派」
なる派閥があるという。
そいつにとっておいしくなるなら、その行為を否定はしない。
だが強要はダメだ。興が削がれる。
ズルズルーっと、玉子かけごはんを一気にノドへ流し込む。
米を噛みはするが、基本流し込む。
それをルールとは言わない。
ただそうやって食べたいから食べる。
「ねえ、コメくんは『玉子かけごはん専用のおしょう油』って、買う派?」
「いいや。オレは手軽に食いたい。本来、玉子かけごはんは「手軽に食えるメシ」だと、オレは考えている派だな」
手の込んだ玉子かけごはんは、それはそれでうまかろう。
『TKG』と名称を変え、飲み会のシメで出されたときは驚いた。
今ではテレビドラマの影響で、焼肉のシメに食べるとか。
「コメくん飲むの?」
「一滴も飲まん」
「確かに弱そう」
「うるせえ」
が、飲んだ後のTKGなんて、きっとうまいに違いない。
「ただ、コレはもっとシンプルでいいんだ。朝だしな。軽く食べたいんだよ」
「分かる。朝って何もしたくないもんね」
夕飯として食べるなら、もっと凝ってもいいと思う。
が、朝からしょう油やらネギやらゴマやら用意する気にはなれなかった。
仲のいい同僚にその話をしたら、「協調性がないお前らしい」と言われたが。
「しかし、最近はエナジー系ゼリーばっかりで、玉子かけごはんを味わう余裕すらなかった」
朝はいつも、適当で良かった。腹に何か入れば。
だが、今は「食べる」とは別の何かを求めて、食堂へ向かっている。
おかしなものだ。
ちょっと前までは、こんな景色なんて視界にも入らなかったのに。
とにかく栄養さえ体内に取り込めば良かったはずだ。
なのに、この変わりよう。
食や味にはこだわらないが、「誰と食うか」には貪欲になったかも。
しかし、悪いことだとは思わない。食に関心を示せなかった今までが、異常だったのだ。
本来、人はもっとシンプルに物事を考えたっていいはずである。
なのに、孝明は「玉子かけごはんのシンプルなうまさ」さえ、忘れていた。
仕事に情熱を失ってから、孝明はもう一度自分を見つめ直すために、ここへ通っているのかも知れないと、自己分析している。
「コメくんって、朝ごはん作ってくれる人、いないの?」
「いないな。これまでも。多分、これからもいないだろう。こんなヤツ、誰も相手にせんさ」
「そうでもないんじゃないかな?」
なんだ、その視線は。
やらんぞ。
「いただきまーす」
孝明と、琴子の声がハモる。
今日の朝は、白飯を食うとと決めていた。
食材は、玉子だけ!
庶民の味方、「玉子かけごはん」だ。
あえて半ライス程度に飯を頼み、箸でお堀を作る。
豪快に片手で玉子を割って、玉子を白い大陸に投下した。
クレーターの中で、玉子がプルンと揺れる。
その光景を、ひとりのJKが口を開けながら眺めていた。
「あー。タマゴ片手で割れるのって、うらやましい」
孝明のすぐ左隣に座る琴子は、両手でカシャッと可愛く玉子を割る。
しょう油を垂らし、琴子と同じタイミングで玉子をごはんと混ぜ合わせる。
グリグリと、グリグリと!
「納豆じゃないんだから、そんなに混ぜる必要ないぞ」
「でもさ、こうやった方が楽しいじゃん」
分かる。
だから、ルール無用でガシガシかき混ぜているのだ。
孝明は専門家ではないが、
「玉子かけごはんは、先に玉子を別容器でかき混ぜてから入れる派」
なる派閥があるという。
そいつにとっておいしくなるなら、その行為を否定はしない。
だが強要はダメだ。興が削がれる。
ズルズルーっと、玉子かけごはんを一気にノドへ流し込む。
米を噛みはするが、基本流し込む。
それをルールとは言わない。
ただそうやって食べたいから食べる。
「ねえ、コメくんは『玉子かけごはん専用のおしょう油』って、買う派?」
「いいや。オレは手軽に食いたい。本来、玉子かけごはんは「手軽に食えるメシ」だと、オレは考えている派だな」
手の込んだ玉子かけごはんは、それはそれでうまかろう。
『TKG』と名称を変え、飲み会のシメで出されたときは驚いた。
今ではテレビドラマの影響で、焼肉のシメに食べるとか。
「コメくん飲むの?」
「一滴も飲まん」
「確かに弱そう」
「うるせえ」
が、飲んだ後のTKGなんて、きっとうまいに違いない。
「ただ、コレはもっとシンプルでいいんだ。朝だしな。軽く食べたいんだよ」
「分かる。朝って何もしたくないもんね」
夕飯として食べるなら、もっと凝ってもいいと思う。
が、朝からしょう油やらネギやらゴマやら用意する気にはなれなかった。
仲のいい同僚にその話をしたら、「協調性がないお前らしい」と言われたが。
「しかし、最近はエナジー系ゼリーばっかりで、玉子かけごはんを味わう余裕すらなかった」
朝はいつも、適当で良かった。腹に何か入れば。
だが、今は「食べる」とは別の何かを求めて、食堂へ向かっている。
おかしなものだ。
ちょっと前までは、こんな景色なんて視界にも入らなかったのに。
とにかく栄養さえ体内に取り込めば良かったはずだ。
なのに、この変わりよう。
食や味にはこだわらないが、「誰と食うか」には貪欲になったかも。
しかし、悪いことだとは思わない。食に関心を示せなかった今までが、異常だったのだ。
本来、人はもっとシンプルに物事を考えたっていいはずである。
なのに、孝明は「玉子かけごはんのシンプルなうまさ」さえ、忘れていた。
仕事に情熱を失ってから、孝明はもう一度自分を見つめ直すために、ここへ通っているのかも知れないと、自己分析している。
「コメくんって、朝ごはん作ってくれる人、いないの?」
「いないな。これまでも。多分、これからもいないだろう。こんなヤツ、誰も相手にせんさ」
「そうでもないんじゃないかな?」
なんだ、その視線は。
やらんぞ。
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