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第三章 メスガキフェンリル、最後の戦い

ホ●様のほうがいい!

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 今日は、イーデンの結婚式だ。相手は、資産家である。政略結婚ながら、ちゃんと話し合って愛を誓いあったという。彼女は「家庭を持っても仕事を続ける」と宣言する。夫の方も、同意してくれたらしい。女性客からは拍手が湧く。

 イーデンが投げたブーケが、なぜかジョシュアの手にポトリと落ちる。周りからは、失笑が沸いた。

 それでも、イーデンからは励ましの眼差しをもらう。

「あ、あはは」

 バツが悪くなったジョシュアは、ブーケを隣に立っていた幼女に手渡す。

 女の子の親が気味悪がって、幼女からジョシュアを遠ざけた。

 パーティ席の隅で、ジョシュアはため息をつく。

「来てくれてありがとう。ジョシュア」
「いいんですよイーデンさん。ところでミラは?」

 さっきから、ミラが見当たらない。

「研究中だ。なんでも、意思を持った植物の開発をすすめているらしい。これによって、植物に調子を管理できるかもって張り切っていたぞ」

 ミラも、がんばっているんだ。

 自分も、負けていられない。

 リヨを倒さないと。


 帰宅すると、相変わらずリヨはジョシュアのベッドを占領していた。

 つかの間の自由を、味わっていればいい。今日の自分は、いつもと違うのだから。

「リヨ、今日こそ決着をつけるぞ」
「はあ?」

 今日あった出来事を、リヨに話す。

「……あんたさあ」
「おん?」
「バカじゃないの!? なんのためにミラが、あんたを職場まで呼んだと? ほんとバカ! 最低じゃん! どこまでバカなの!?」

 呆れてものも言えないという様子で、リヨはベッドに突っ伏した。ジョシュアから顔を背ける。

「なんだよ! ボクの気も知らないで!」

 ジョシュアからすれば、リヨを越えなければミラと話すことすらできないと思っていた。

「だから、お前を倒す!」
「あんたの事情なんて、知らないわっ! 女心もわからないやつは、とっとと死ねばいいのよ!」
「どうして、そこまでいわれないといけないんだ!?」
「教えなきゃわからないの!? あんたとミラとの関係って、その程度だったの!?」

 リヨは、そっぽを向いてしまう。

「……ホ●様の方がいい!」
「あんた、今なんつった?」

 よし、乗ってきた。

 教授と話し合って、どういう煽りならリヨが本気になるか検証してみたのだ。

「お前より、賢狼ホ●様の方がいいって言ったんだ!」

 案の定、リヨは「ホ●様」に過剰反応する。

「もういっぺん、いってみなさいよ!」

 リヨが、ジョシュアに飛びかかった。

「くらえ、【おもちゃの兵隊】!」

 あらかじめベッド脇に配置していた兵隊が、矢を放つ。

 矢の一本一本には、デバフを仕込んである。

「痛ったい! あんたいつの間にこんな!」
「ボクだって、強くなってるんだ!」
「でも、組み付いたらどうかしら?」

 リヨが、ジョシュアの両肩を掴んだまま窓をぶち破った。庭にまで飛び出す。

 母が大事にしていた花壇を、メチャクチャにしてしまった。

 後で弁償するとして、問題はリヨだ。

「このおお!」

 全身を魔力でコーティングして、防御の姿勢に入る。
 攻撃に転換してもいいが、どうせリヨのバカ魔力にはかなわない。攻撃用の魔力は、おもちゃの兵隊に託す。

 リヨは一対一なら、無敵の強さを誇る。
 だが、多数を相手にするところを見たことがない。

 ジョシュアとケンカばかりしているせいで、腕もなまっているはずだ。

「この程度の兵隊!」

 腕をふるって、リヨが兵隊たちのフィギュアを蹴散らす。

 だが、こちらにはまだ大量の兵士がいる。

「くう。ムダに集めていると思っていた大量のオモチャが、あたしに牙をむくなんて!」
「趣味と実益を兼ね備えた、って言ってよね!」

 ジョシュアが、魔法のステッキを二刀流に構える。どちらも、女児向け絵本に出てくる魔法少女の関連アイテムだ。三十路ちかい男性が持っていて何が悪い?

「くらえ!」

 ステッキをドラムのスティックのようにして、リヨに殴りかかる。

「なめんじゃないわよ!」

 リヨも、徒手空拳で応戦してきた。

 いける。あれだけ手が届かないと思っていたリヨが、自分のフィールドに持ち込んだだけでここまで対応できるとは。

 相手の集中力と戦力を、各方向へ散らせばよかったのか。

 リヨは、マルチタクスに適していない。

 反面、ジョシュアはマルチタクスこそ自分のホームグラウンドだったのだ。

「ジョシュア、大変だ!」

 だが、その優位も来客してきたイーデンの叫びによって掻き消える。

「どうし……ぐほお!」

 よそ見をした途端、リヨの裏拳が顔面にヒットした。

 盛大に、肥料まみれの土に顔が埋もれる。

「ペッペッ。何があったんです、イーデンさん?」
「ミラが、育てていた植物に捕まってしまったんだ!」
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