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第二章 ここからが本当のモフモフだ

コンパ

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「三〇過ぎても彼女すらできないなんて」
「あのねえ、中身が変わってないからモテないのよ。チート並みに魔力が付いたからって彼女がホイホイ作れるなんて、ラノベの読みすぎよ」

 ぐうの音も出ない。

 思えばジョシュアは、これといった努力はしてこなかった。
 コンパとあれば、逃げるようにアイドルライブへと走る。
 飲み会も断り、一人で研究三昧。
 楽しみは、買ってきたミニチュアゴーレムドールを組み立てることだけ。家にあるだけで二五体、職場に一八体はいる。

「おまけにコンパにも顔を出さないなんて」
「誰から聞いたんだ?」

 ジョシュアがさっき聞いたばかりの話を、リヨが知っているなんて。

「みんな知ってるわ。アタシもイーデンから聞いたもの」
「だったら、答えは同じだ。ボクは参加しない」
「呆れた……ミラも来るかもしれないのに?」

 大げさに、リヨはため息をつく。

「ミラは、ボクよりいい人が見つかるよ」

 リヨは「あのねえ」と、ジョシュアに詰め寄った。 

「これまでのアンタを見てきて、決定的に足りないものが見つかったわ」
「なんだい?」


「決断力よ。あんたにはそれがまるでない」


「即決魔王のキミに言われたくないね。ボクがどれだけキミの尻拭いをしてきたってのさ」

 女と見たらば、子どもや老婆でさえ見境なく口説く。
 禁忌魔法に触れては、悪い魔神を呼び出しかけた。

「この間なんて、迷いの森でアラクネとチチクリ合っていたじゃないか!」
「いいじゃないの! アタシのライフスタイルにケチを付けないで!」

 声を張って、リヨがテーブルを叩く。

「合意のもとだからいいものを!」
「いいの!?」

 よくないだろう。危うく言いくるめられうところだった。

「とにかく、おとなしくしておいてよ。キミが目立つと、ボクが大変なんだから!」
「わかってるわよ。アタシだってもうお縄に付きたくないもの」

 立ち小便で逮捕されてから、留置所の匂いに耐えられないらしい。

「出なさいよ、コンパ。アンタには女性に対する免疫が必要だわ」
「考えておくよ」
「またそうやって、行かないつもりでしょ? 考えるだけで逃げてるだけじゃない」
「逃げてなんかいない」

 ジョシュアも反論する。

「アンタは一度、安全領域コンフォートゾーンからである必要があるわ。居心地のいい場所から抜け出さないと、いつまでたっても成長しないのよ!」
「フラフラほっつき歩いているキミに言われたくないね」 


 
 帰宅後、ジョシュアはクローゼットからできるかぎりいい感じの服装を用意した。

 あれだけ言われて行かなかったとなれば、きっとリヨは自分を「負け犬」だとか「結局ザコ」と罵ってくるだろう。

 チャンスをフイにして現状維持をするより、負けて後悔するほうがいい。
 これまでのジョシュアの人生は、リヨに負け続けだった。
 悔しいが、リヨの言うことは正しい。
 負けるのには、慣れている。

「やってやろうじゃないか。見てろ」

 意を決して、ジョシュアは蝶ネクタイを直す。

 パーティ会場の入り口まで来た。

 心臓がバクバクしている。
 料理を食べに来たんだ、と自分に言い聞かせているのに、緊張していた。

 落ち着け。彼女なんてできるわけがない。なにを期待しているのか。

 もしかすると、ミラと鉢合わせするかもしれないと思っているのかもしれない。

 まさか。ミラがこんなところに来るわけがない。

 入り口で、小さな女の子が従業員と揉めていた。

「だから、私はちゃんと招待状をもらっている」

 黒いドレスを着た少女が、黒服と口論になっている。
 小さなダークエルフだ。
 金色の髪を、ポニーテールにまとめている。
 背中から腰までぱっくり開いたドレスなのに、幼い背丈のせいで色気を感じない。

「お酒を出すところだから、小さい子は保護者同伴でないと。さあ帰った帰った」

 黒服も、頑として道を開けようとしない。


「……ミラ!」


 そこには、ミラが立っていた。

 初めて会ったときと、ほとんど同じ姿で。
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