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第一章 幼少期編 まだ主人公がションベン臭いガキだった頃の話

シティエルフのミラ

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 庭に出ると、さっそくリヨがジョシュアに殴りかかる。軽めのジャブ程度だが。

「うわっと!」

 ジョシュアは、とっさにかわした。しかし、後はやられ放題。相手の動きに対応できず、されるがままになる。

「どうしたの、それでも領主様の子ども? 農民のほうがもっとマシな動きをするわよ」
「ボクは魔法使いなんだ。格闘のトレーニングなんてしたことないよ」
「それを魔法でカバーするのよ。身体強化は、魔法の基本動作よ? 今どき後ろから飛び道具で攻撃とかバフ飛ばすとか、前時代的よ?」

 極めて、オーソドックスな戦法じゃないか。それを、全否定するなんて。

「いいこと? これからは魔法使いも前衛に立つ時代な、の!」

 リヨの放った正拳突きを、ジョシュアはしゃがんでかわす。同時に、肉体を強くする魔法を全身に込めた。

「まあ、ちょっとは平和になったから成り立つ戦法だけれども」
「ホントかな?」
「そもそも、体を動かしていないから、いつまでたってもデブなの、よ!」

 下段回し蹴りをフェイントにし、ハイキックでアゴの先端を狙う。脳しんとうを起こさせる気だ。

 しかし、下アゴの脂肪がクッションになってダメージを和らげる。

「なによ。やるじゃない」
「偶然だよ! 対応できなかったら意味がない」
「じゃあ、対処してみなさい、よ!」

 リヨが、裏拳を繰り出してきた。

 回避しようとしたが、力が急に抜ける。そのまま後ろによろめいて、尻餅をつく。

「どうなっちゃんたんだ?」
「ガス欠よ。車だって燃料がないと動かないわ」

 幌屋根のオープンカーを見ながら、リヨがアドバイスをしてきた。 
 うちの車ではない。来客があるようだ。

「力が入りすぎよ。もっとバランス良く魔力を全身に行き渡らせるように。このくらい普通にできないと、体力もつかないわ」
「わかったよ」

 ジョシュアは再度立ち上がり、稽古を始める。

 一瞬、誰かの視線に気づく。正確には、魔法力の気配を。ジョシュアより貼る方に高い魔力の波動を感じた。でも、敵対的ではない。

 油断を突かれて、モフモフシッポで脳天を叩かれる。

「どうしたの? 全然身が入っていないようだけれど?」
「いや、バラ園から人が覗いていたんだ」
「ん? 何を見ているの?」

 リヨも、バラ園からの視線に気づいた。

 一人の女の子が、バラ園の隙間から出てくる。褐色で、耳が尖っていた。紫色の瞳に、ジョシュアのまるまるとした顔が写っている。ダークエルフだ。外見的にはジョシュアと同い年くらいに見える。だが、エルフなので本当の歳はわからない。

「キミは誰? ボクジョシュア。で、このごっついのがフェンリルのリヨ」
「私ミラ。ミラ・リコリス。この近くに越してきたの。よろしくおねがいします」

 ジョシュアとミラが、互いに握手をかわす。 

「そのフェンリルは、あなたの? 人を食べたりしないの?」

 どうも、リヨを怖がっているらしい。なので、ジョシュアはリヨの首を撫でる。

「うん。ボクのお友達なんだ。人は食べないよ」
「ボウヤのオシリになら、興味があるんだけど?」
「やめなさいっ」

 ジョシュアがたしなめても、リヨは聞こうともしない。

「ところで、リコリスといったわね。ひょっとして、リコリス森の出身?」
「そう。私、ダークエルフ王の親類なの。厳密には第八王子の子ども。といっても、親が八男だからほったらかしだけれど」

 両親とダークエルフの村を出て、都会に住むという。

「ここには、どうやって?」
「車で来たの」

 屋敷の前に停まっている幌屋根は、ミラたちの乗ってきたものだったのか。

「わからないことがあったら、なんでも聞いてね」
「ありがとう。フェンリルと、何をしていたの?」
「組み手。トレーニングだよ。でも、かっこ悪かったよね」

 ジョシュアは、頭をかいた。きっと幻滅されたに違いない。

「そんなことない。すごくがんばってた。向上心のある人は好き」
「どうも、あり、がとう」

 可愛い女の子にほめられて、ジョシュアは胸がときめいてしまう。

「ねえ。私も混ぜて」
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