上 下
46 / 48
第七問 甘酒は、夏の季語である。○か×か? ~僕たちの行く末は、○×なんかでは決められない~

レスラー追加

しおりを挟む
 常に余裕の表情をしていた聖城先輩の顔が、少しこわばる。
 三巡目となり、番組研が残り二人となったにもかかわらず。

 先輩はおそらく、常に知識で勝ち進んでいる。運に頼らずに……。
 番組研が四人一組で戦っているのに対して、先輩は一人で挑んだ。
 しかも、先輩は一問も間違えられない。 
 この緊張感がミスを誘う。
 プレッシャーが、先輩の心から余裕を奪っているに違いない。

「さて、ここで勝負が決まってしまうのか。参りましょう。では名護湊選手、前へ!」

 続いては、湊の番だ。

「名護湊選手、あと二人になってしまいました。プレッシャーはありますか?」
「うーん、どうだろう。いつのも事をやるだけかなって」

 湊はあくまでもマイペースだ。

「津田選手の方は、緊張のほどは?」
「がんばります」

 うん。緊張してる。自分でも何を言ってるのか分かってないんじゃ?

「肩に力が入りすぎてませんか?」
「大丈夫です。リラックスできてます」
「これくらい平気だって」

 湊が嘉穂さんの肩に手を置く。

「余裕の発言のように取れますが、湊選手?」

 腰に手を当てて、湊は聖城先輩の方を向く。

「むしろさ、聖城先輩の方がプレッシャーが凄いんじゃない?」
 
 先輩は、顔こそ凛として緊張を隠そうとしているが、膝が笑っていた。

「聖城先輩、あと二人倒せば勝ちですが、今のお気持ちは?」
「一問一問を大事に解いていくだけです」

 もっともらしい意見である。しかし、自分に言い聞かせているようにも見えた。

 では、湊に問題を出す。

「またも選択問題です。気象予報士は、どこの省庁にあるでしょう? A・国土交通省。B・環境省」

 特に迷うことなく、湊がBへ向かう。

「どうしてそう思われましたか?」

 僕が尋ねる。

「お天気だもんね。やっぱり環境省じゃないかな?」

 青いレスラーに抱えられながら、湊が答える。

 しかし、自信満々だった湊は、Bのレスラーに放り投げられた。湊の身体が、泥の海へ沈む。
 正解は国土交通省だ。

「いやあ、こりゃわかんないや。ごめんね津田さん」

 ボケるつもりがなかった湊が、嘉穂さんに手を合わせる。

「いいんです。お疲れ様でした」

 顔がこわばっているが、嘉穂さんはどうにか笑顔を作った。
 
「さて、後がなくなったぞ、番組研! 津田選手、これが終わりになってしまうかも知れませんが」
「まだ、終わったわけではありません!」

 力強く、嘉穂さんが首を振る。

「言い切りました津田選手、強気の発言。闘志はまだ消えていない!」

 続いて、聖城先輩にマイクを振った。

「最終決着が近づいてますが、今の心境を、お聞かせ願いますか?」
「次の問題を下さい」

 先輩はそう催促する。まるで自分はクイズに答えるマシーンだとでも言うかのように。

 お望み通り、聖城先輩へ問題を提供する。

「安来節こと、ドジョウすくいは元々。『土壌』をすくって砂鉄を掘り起こす動作を踊りとして取り入れた物である。○か×か」

 先輩は○を選択した。
 正解なのか、ドジョウすくいのように泥の中へ沈んでしまうのか。

「正解です。安来鋼という鉄を採取していた時にどじょうが掬えたことが元となっています」

 聖城先輩が正解をして、いよいよ番組研には余裕がなくなっていく。

「さて、四人いた番組研の解答者は、残すところあと一人、もう後がない。果たして勝利の栄冠を掴むのは、津田選手率いる番組研か、はたまた、クイズ女王の貫禄勝利か? 勝負の行方は次の問題に!」

 三巡目ラストに来て、嘉穂さんと聖城先輩の一対一となった。
 僕も、どうなってしまうのか内心ドキドキしている。同時に、いつまでも二人の真剣勝負を見ていたいとさえ思った。
 
 大事な部の存続がかかっているというのに、不謹慎だろうか。
 けれど、これこそ僕たちの追い求めたリアルとエンジョイの同居、その集大成と言えるだろう。

「では、問題……の前に、少々お待ち下さい」

 僕は、レスラー達が待機する砂浜へと足を進める。

「お前ら誰だ!?」

 そこには、白いマスクを被ったレスラー二名が、砂浜に寝転がっていた。

 手に持ったピコピコハンマーで、彼女たちを叩き起こす。
 レスラーはビクッとなって立ち上がった。
 臨戦態勢を取ってはいるが、線が細く、とてもレスラーとは思えない体格である。
 
 僕はレスラーたちのマスクを剥ぎ取った。

「やっぱりお前か、のん、湊っ!」

 緊迫したムードをぶち壊した二人には、おしおきが必要である。

「赤と青のレスラーさん、お願いします」

 赤いレスラーがのんを、青いレスラーが湊を担ぐ。向かった先は波打ち際だ。腰まで水に浸かる。

「では、放り投げちゃってください!」

 裏投げの容量で、のんと湊はレスラーの手で海へと投げ捨てられた。

「のわーっ!」
「アッー!」

 水しぶきを上げて、二名の偽レスラーが海水に飲まれる

 観客席から、リラックスした笑いが漏れた。
 
「ほんと、ボケ命だな、お前らは」
「面白かったじゃんよ。嘉穂たんだって喜んでるしさぁ」

 湊が嘉穂さんを指差す。

 腹を抱えながら、嘉穂さんが大受けしている。

 なるほど、湊なりに嘉穂さんの緊張をほぐしてあげていたのか。

「とでも言うと思ったか! 嘘つけこのボケ狂信者! お前のそれ私物だろうが!」
「あ、バレたか」
 
 確かに、嘉穂さんをリラックスさせる効果は生み出している。だが、初めから準備しているなんて用意周到すぎる。

 第一、泥かマットへマスクマンに落としてもらうというルールは、湊の発案だ。
 つまり、元々セッティングしていてもおかしくない。
 
「それでも、今回ばかりはお前の機転に感謝かな」

 嘉穂さんがこれでプレッシャーを振り払ってくれれば良いけど。 

 これが決め手となるのか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

バツイチ子持ちとカレーライス

Crosis
ライト文芸
「カレーライス、美味しいよね」そう言える幸せ。 あらすじ 幸せという日常を失った女性と、日常という幸せを失った男性。 そんな二人が同棲を始め、日常を過ごし始めるまでの話。 不倫がバレて離婚された女性のその後のストーリーです。

うみのない街

東風花
ライト文芸
喫茶木漏れ日は、女店主のように温かいお店だった。家族の愛を知らずに生きた少女は、そこで顔も名前も存在さえも知らなかった異母姉に優しく包まれる。異母姉もまた、家族に恵まれない人生を歩んでいるようだったが、その強さや優しさはいったいどこからくるのだろうか?そして、何にも寄りかからない彼女の幸せとはなんなのだろうか?

同人サークル「ドリームスピカ」にようこそ!

今野ひなた
ライト文芸
元シナリオライターのニートが、夢を奪われた少年にもう一度元気を出してもらうために同人ゲームを作る話。

野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~

浅葱
ライト文芸
小学生の頃、不注意で逃がしてしまったオカメインコと山の中の高校で再会した少年。 男子高校生たちと生き物たちのわちゃわちゃ青春物語、ここに開幕! オカメインコはおとなしく臆病だと言われているのに、再会したピー太は目つきも鋭く凶暴になっていた。 学校側に乞われて男子校の治安維持部隊をしているピー太。 ピー太、お前はいったいこの学校で何をやってるわけ? 頭がよすぎるのとサバイバル生活ですっかり強くなったオカメインコと、 なかなか背が伸びなくてちっちゃいとからかわれる高校生男子が織りなす物語です。 周りもなかなか個性的ですが、主人公以外にはBLっぽい内容もありますのでご注意ください。(主人公はBLになりません) ハッピーエンドです。R15は保険です。 表紙の写真は写真ACさんからお借りしました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

処理中です...