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第三問 『ブタの貯金箱』の正式名称は? ~クイズ王 対 出題者の実姉~
苦手意識と、のんの過去
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昌子姉さんが姿を消すと、嘉穂さんは何かに解放されたように胸をなで下ろす。
僕の姉さんを嫌ってはいないようだけど、苦手意識があるらしい。
「嘉穂たん、まだ部長は怖いかい?」
「正直に言いますと」
これは重傷だな。
「困ったね、嘉穂たん。もし福原をモノにしたいなら、まずは昌子姉さんを攻略しないと」
「って、おいおいおいおい、なんでそうなるんだよ!?」
「なんなら、弱点教えちゃうよー」と、やなせ姉がノリノリで悪い顔になる。
「やなせ姉までノリノリで助け船を出さない!」
どうしてウチの部活は変な気を回す人たちが多いんだ?
「僕と嘉穂さんはそういう仲じゃないって言うのに」
「何がだい? ウチは昌子部長に勝たないとって言っただけなんだけど?」
危うく、意味を読み違えるところだった。
だが、湊を見ていると内心ほくそ笑んでいるのが分かる。やはりからかっているな。
確かに、昌子姉さんの出題形式は、今の僕が引き継いでいる。いやらしい癖も。
結構な付き合いがあるとはいえ、のんは姉さんの出題傾向を未だに攻略し切れていない。
ていうか、なんで嘉穂さんはさっきからマジ悩みしてんの?
さっきから神妙な面持ちなのですが。
「あのな嘉穂、昌子姉はいい人なんだぞ」
「そうなんですか?」
「昌子姉はな、オイラを助けてくれたのだ」
「助けた、とは?」
「実はオイラ、中学の頃、不登校になりかけていたんだ」
信じられないといった風に、嘉穂さんは口をポカンと開けた。
「しょーたの家でも話したよな、昔のオイラがどうだったか」
恥ずかしそうに、のんが言う。
「本当ですか? のんさんって、こんなに親しみやすいのに」
「嘉穂さん、のんが言っていることは、本当だよ」
のんが置かれていた状況は、僕が一番よく知っている。幼馴染みだから。
「いじめられてた、とかじゃないんだがな。やりがいを見失っていたんだ。なんでもそつなくこなすから」
中学時代、のんは目的を見失っていた。
勉強もスポーツもそれなりにできる。
特に運動は、でき過ぎて手を抜いていた程だ。
何をやらせても、どこか冷めていた。
「とっつきにくい。それが、のんと初めて会ったときに感じた気持ちだったよ。苦手だなーって思ってた」
それは、偽りのない事実だ。
「どうして、そんな事になったんですか?」
「中学受験に失敗したんだ」
のんは陸上競技の特待生として、とある有名中学に入るはずだった。
けれど、試験の種目が行われる日に風邪を引き、特待生の道を断たれたのである。
その後、僕らの向かいに引っ越してきて、同じ中学に入ったのだ。
が、明らかにやる気をなくしていた。
目に映る全てに興味を示さない。
友達とも打ち解けられず、のんは孤立していった。
「声をかけづらくてさ。僕達もどう接していいか分からなかった」
のんに声をかけるまでには、数週間を要したと思う。
不憫に思ってか、昌子姉さんは、のんをクイズに誘った。
「その時のクイズって、やっぱり早押しですか?」
「ううん。○×クイズ」
僕は首を振る。
運動場に設置した台に、○と×が書かれた厚紙を貼った洗面器を設置。解答してもらうタイプだ。
片方が泥、もう片方が枕である。
間違えたら泥入り洗面器へ顔がドボン、という単純なルールだ。
勝負大好きなのんは、正解するまでめげなかった。顔じゅう泥まみれになる度、クイズに打ち込んだ。間違える度にムキになって。
「楽しかった!」
「その後、めっちゃ先生に怒られたけどな」
実際、のんを含め、僕たちは停学処分を喰らった。
だけど、それだけの価値はあったと、今でも思う。
こういうわかりやすくて発散できる遊びを、のんが求めている。
そう、昌子姉さんは瞬時に閃いたのだろう。
「昌子姉さんは、のんの深層心理を引き出したんだよ」
「人間観察力が抜群なのだね」
姉さんの過去を知り、湊は感心する。
僕は、嘉穂さんの様子をうかがう。まだ怖がっているかな?
昌子姉さんのエピソードを、嘉穂さんは感心したような様子で聞いている。
怖い印象の人でも、ちゃんと事情を知れば、多少はとっくきやすくなると思うのだけれど。
「誤解のないようにいいますが、嫌いではないんです。謝罪の仕方も丁寧でしたし」
「なのに、嘉穂たんは未だ、昌子先輩が苦手なんだよね?」
「はい……」
これはもう、トラウマレベルだな。姉さんも罪な人だ。
「じゃあ嘉穂たん、勝つしかないよ」
湊が、嘉穂さんを鼓舞する。
トラウマなら、打ち勝つしかない。
「でもわたし、勝てるでしょうか? 相手は部長さんですよね?」
「大丈夫。勝てるよ」
僕は、嘉穂さんをそう励ました。
「それはそうと、のんさん」
「ん?」
のんに、嘉穂さんが訪ねる。若干怖い顔をして。
「晶太くんの家に行ったんですって?」
ズイズイ、と、嘉穂さんがのんに詰め寄る。
「どうなんですか?」
「べ、別にどうもしないぞっ。家がお向かいなだけなんだからな」
のんも、ややおっかなそうな顔をしている。
「でもでも、頻繁に出入りしているんですよねっ」
「それだったら、わたしもよく晶ちゃんの家に行くわよ」
冷や汗を垂らすのんを見かねたのか、あやせ姉が加勢した。
「けど、来住先輩はお姉さんに用事があるから、ですよねっ」
「ううん、晶ちゃんを可愛がる目的もあるわよー」
そうなのだ。やなせ姉はなぜか、たびたびウチに来ては僕の頭を撫でに来る。
「そもそも、先輩には婚約者がいるじゃないですか!」
「甘い物は別腹」
「先輩は不潔ですーっ!」
とうとう嘉穂さんがムキになってきたので、今回はお開きとなった。
僕の姉さんを嫌ってはいないようだけど、苦手意識があるらしい。
「嘉穂たん、まだ部長は怖いかい?」
「正直に言いますと」
これは重傷だな。
「困ったね、嘉穂たん。もし福原をモノにしたいなら、まずは昌子姉さんを攻略しないと」
「って、おいおいおいおい、なんでそうなるんだよ!?」
「なんなら、弱点教えちゃうよー」と、やなせ姉がノリノリで悪い顔になる。
「やなせ姉までノリノリで助け船を出さない!」
どうしてウチの部活は変な気を回す人たちが多いんだ?
「僕と嘉穂さんはそういう仲じゃないって言うのに」
「何がだい? ウチは昌子部長に勝たないとって言っただけなんだけど?」
危うく、意味を読み違えるところだった。
だが、湊を見ていると内心ほくそ笑んでいるのが分かる。やはりからかっているな。
確かに、昌子姉さんの出題形式は、今の僕が引き継いでいる。いやらしい癖も。
結構な付き合いがあるとはいえ、のんは姉さんの出題傾向を未だに攻略し切れていない。
ていうか、なんで嘉穂さんはさっきからマジ悩みしてんの?
さっきから神妙な面持ちなのですが。
「あのな嘉穂、昌子姉はいい人なんだぞ」
「そうなんですか?」
「昌子姉はな、オイラを助けてくれたのだ」
「助けた、とは?」
「実はオイラ、中学の頃、不登校になりかけていたんだ」
信じられないといった風に、嘉穂さんは口をポカンと開けた。
「しょーたの家でも話したよな、昔のオイラがどうだったか」
恥ずかしそうに、のんが言う。
「本当ですか? のんさんって、こんなに親しみやすいのに」
「嘉穂さん、のんが言っていることは、本当だよ」
のんが置かれていた状況は、僕が一番よく知っている。幼馴染みだから。
「いじめられてた、とかじゃないんだがな。やりがいを見失っていたんだ。なんでもそつなくこなすから」
中学時代、のんは目的を見失っていた。
勉強もスポーツもそれなりにできる。
特に運動は、でき過ぎて手を抜いていた程だ。
何をやらせても、どこか冷めていた。
「とっつきにくい。それが、のんと初めて会ったときに感じた気持ちだったよ。苦手だなーって思ってた」
それは、偽りのない事実だ。
「どうして、そんな事になったんですか?」
「中学受験に失敗したんだ」
のんは陸上競技の特待生として、とある有名中学に入るはずだった。
けれど、試験の種目が行われる日に風邪を引き、特待生の道を断たれたのである。
その後、僕らの向かいに引っ越してきて、同じ中学に入ったのだ。
が、明らかにやる気をなくしていた。
目に映る全てに興味を示さない。
友達とも打ち解けられず、のんは孤立していった。
「声をかけづらくてさ。僕達もどう接していいか分からなかった」
のんに声をかけるまでには、数週間を要したと思う。
不憫に思ってか、昌子姉さんは、のんをクイズに誘った。
「その時のクイズって、やっぱり早押しですか?」
「ううん。○×クイズ」
僕は首を振る。
運動場に設置した台に、○と×が書かれた厚紙を貼った洗面器を設置。解答してもらうタイプだ。
片方が泥、もう片方が枕である。
間違えたら泥入り洗面器へ顔がドボン、という単純なルールだ。
勝負大好きなのんは、正解するまでめげなかった。顔じゅう泥まみれになる度、クイズに打ち込んだ。間違える度にムキになって。
「楽しかった!」
「その後、めっちゃ先生に怒られたけどな」
実際、のんを含め、僕たちは停学処分を喰らった。
だけど、それだけの価値はあったと、今でも思う。
こういうわかりやすくて発散できる遊びを、のんが求めている。
そう、昌子姉さんは瞬時に閃いたのだろう。
「昌子姉さんは、のんの深層心理を引き出したんだよ」
「人間観察力が抜群なのだね」
姉さんの過去を知り、湊は感心する。
僕は、嘉穂さんの様子をうかがう。まだ怖がっているかな?
昌子姉さんのエピソードを、嘉穂さんは感心したような様子で聞いている。
怖い印象の人でも、ちゃんと事情を知れば、多少はとっくきやすくなると思うのだけれど。
「誤解のないようにいいますが、嫌いではないんです。謝罪の仕方も丁寧でしたし」
「なのに、嘉穂たんは未だ、昌子先輩が苦手なんだよね?」
「はい……」
これはもう、トラウマレベルだな。姉さんも罪な人だ。
「じゃあ嘉穂たん、勝つしかないよ」
湊が、嘉穂さんを鼓舞する。
トラウマなら、打ち勝つしかない。
「でもわたし、勝てるでしょうか? 相手は部長さんですよね?」
「大丈夫。勝てるよ」
僕は、嘉穂さんをそう励ました。
「それはそうと、のんさん」
「ん?」
のんに、嘉穂さんが訪ねる。若干怖い顔をして。
「晶太くんの家に行ったんですって?」
ズイズイ、と、嘉穂さんがのんに詰め寄る。
「どうなんですか?」
「べ、別にどうもしないぞっ。家がお向かいなだけなんだからな」
のんも、ややおっかなそうな顔をしている。
「でもでも、頻繁に出入りしているんですよねっ」
「それだったら、わたしもよく晶ちゃんの家に行くわよ」
冷や汗を垂らすのんを見かねたのか、あやせ姉が加勢した。
「けど、来住先輩はお姉さんに用事があるから、ですよねっ」
「ううん、晶ちゃんを可愛がる目的もあるわよー」
そうなのだ。やなせ姉はなぜか、たびたびウチに来ては僕の頭を撫でに来る。
「そもそも、先輩には婚約者がいるじゃないですか!」
「甘い物は別腹」
「先輩は不潔ですーっ!」
とうとう嘉穂さんがムキになってきたので、今回はお開きとなった。
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