ダンジョンを出禁にされたJK二人組は、母校の旧校舎型ダンジョンを守護するバイトを始めました。

椎名 富比路

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第二章 新入部員は戦力外VTuber

第18話 強敵、メスガキドワーフ!

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「はあー」

 あたしはインターバルポイントである中庭で、一休みをする。

「おつかれモモ」

 はるたんが、水を持ってきてくれた。

「きっつ! ホームなのに、容赦ねえもん」

「だよね。抜け道だと思ったら、そっちの方がトラップだったり」

「そうなんだよ! 見え見えのトラップなのに、救いの手だって思っちゃってさぁ!」

 円盤の下に、安全圏のような足場があった。

 そこを伝っていけば、ゴールできるのではないかと。

 そう考えて、多くのドワ女たちが殺到した。

 結果、円盤自体が崩れてしまうという事態に。

「なんか、遠いなあって思っていたんだよな」

「認知バイアスを、うまく利用されたね」

 意思決定をするときに、先入観や経験則、直感などに頼って非合理的な判断をしてしまう心理傾向のことを、認知バイアスという。

『風雲 魔王城』ルールでは、必ず攻略法というものが存在する。

 そのため、風魔ルールを攻略するプレイヤーたちは、まず必勝法を探索するのだ。最初に抜け道を発見して、他のおプレイヤーを出し抜く。それが風魔ルールでの戦い方のはずだった。

 しかし、デリオン姫の作った風魔ルールのダンジョンは、そのバイアスを引っこ抜くところから始まっている。

 抜け道だと思ったら、トラップであるという図式だ。

「しがみついていた方が正解とか、誰もわかんないって!」

 実は、トロちゃんの行動の方が正規ルートだったとは。

 あのあとトロちゃんは、回転する円盤の遠心力を使って、ゴール直前の円盤に飛び移った。
 そんな荒業のほうが最適解だったなんて、誰も気づかない。

「一応、持ち手がわずかに見えていたんだよね」

「あんなの、わっかんないって! プレイしてみたらわかるって! 全然わかんないから!」

 風魔……「風雲 魔王城!」ルールでは、ホームと言えどダンジョンマスターに答えを聞くのは反則負けになる。

 とはいえ、答えを聞いていたとしても、それで勝てるかわからないのが、風魔ルールなのだ。言うのとやるのとでは、大違いって実感させられる。

「それにしても、走りながら一瞬で攻略法を見つけ出すとは」
 
「かなり強いぞ、あのトロちゃんとかいう三年」

 
 そのトロちゃんは、脱落した生徒たちを特に咎めない。
 
「先輩すいませんでした」

 トロちゃんの元に、脱落したドワ女の後輩たちが。
 三〇人くらいはいる。かなり大所帯なんだよな。この学校。

「グラウンド借りて、走ってこい。二〇周。で、二年。なんで負けたのか考えるんだよ」

 トロちゃんが、ダンジョンの外にあるグラウンドを親指で指し示す。

「はい」

「走り終わったら、厨房を貸してもらえ。中庭にシートを敷く許可を、もらってきてくれ。昼食の用意を頼むよ。ちゃんこ番は、あんただ」

「承知しました!」

 脱落したドワ女の生徒たちが、はるたんの元に。

「あの、家庭科室をお借り願えますか?」

「いいよー。自由に使って。食材を買うなら、近くにスーパーがあるから」

「大丈夫です。もう食材は買ってて、調理器具もろともアイテムボックスに入れてます」

「ガス代は気にしなくていいから、好きにしてね」

「ありがとうございます」

 昼メシができあがったら、あたしたちにも振る舞ってくれるらしい。

 生徒たちはダンジョンを出て、グラウンドに向かう。調理は、走った後にやるのか。

 
「さて、第二関門は【イキリ立つ柱】だけど」

 第二関門は、純粋に体力を試される種目である。

「体力勝負だから、なんとかなるっしょ」

 斜めにせり上がった柱を、ひたすら登っていく。
 こちらは制限時間一〇分。時間内に登りきれたら、クリアだ。

「さて、今回は制限時間を設けて、走り抜けたらゴールなのだ」

「姫! この競技のポイントは?」

 デリオン姫と綿毛のエルフコンビが、実況解説を再開する。

「ヌルヌルした柱を、どうやって攻略するかなのだ。滑る床に負けない脚力が重要なのだ。足元を乾燥させる魔法も、効果は消されてしまうのだ」
 
 純粋体力勝負と言われる、『風雲 魔王城』の名物コーナーだった。これが番組内での、本来の第一関門だったくらいだ。
 
「おおおおおおおおおお!」

「ぬおおおおおおおお!」
 
 つるつるする柱を、転倒に気をつけつつ走り抜ける。

 少しでもコケると、スタート地点まで真っ逆さまだ。また登らなければならない。
 今度は円盤のように、しがみつく場所もなし。ボルタリングのような、凹凸もない。
 
 ヌルヌルした足場に、多くの生徒が足を取られていた。

「決勝の前哨戦だ! 負けないよ!」

「あとで、足に溜まった乳酸のせいで負けたとか言い訳してんじゃねえぞ!」

 競争ではないのに、あたしとトロちゃんは全力で競争をする。

 しかし、ゴールは同時だった。

「くっそ。もうちょっとだったのに!」

 トロちゃんが、ゴール地点で息を整える。

「さすがドワ女だな。つーか、あんた。ダンジョン『攻略』は、専門じゃないだろ?」

「あたいはな。でもあっちは専門だぜ」
 
 トロちゃんは、先頭でゴールしているサブリーダーのパニ・キュラータさんに視線を送った。

「えーっ。先輩負けちゃったんスかー?」

「勝ってはないけど、同点だ」

「ザッコ。それでもザコいじゃないっスかー」
 
 パニさんは、メスガキっぽい笑みを、リーダーのトロちゃんにこぼす。
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