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第一章 お嬢様学校の旧校舎は、ダンジョンだった

第5話 新生ダンジョン部、再始動

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「あーんむっ」
 
 はるたんがヒナ鳥のように口を開けて、高級プリンを待つ。幹代みきよ校長が用意した、お茶請けだ。
 あたしは、プリンをスプーンですくって、はるたんに食べさせた。

洲桃すももさんも、召し上がれ」

「いただきます」

 うんまっ。
 
 いつも食べてるコンビニプリンとは違って、昭和の純喫茶で食うような硬さだ。甘さが引き締まっていて、上品な口当たりである。カラメルが苦くて、また甘さが引き立っていた。

「それで、どうしてダンジョン部を再開しようとしたんです?」

 金盞花グループは、日本にあるダンジョンの三割を所持・管理・運営している。それこそ、不動産のように。彼らダンジョンマスターは、自分たちのことを部下に「魔王」と呼ばせている。普通の会社のように、管理者のことを「代表取締役社長」とか「CEO」とかなどと呼ばせない。
 
 そんな金盞花が、学園の旧校舎になんて固執する必要はないはずだ。

晴子はるこに、譲ろうと思ったのよ。こんな寂れたダンジョンなんて、老後に蓄えておいても仕方ないもの」

「つまり遺産ってこと? おばあちゃん。あーむ」

 まだヒナ鳥はるたんに、あたしはプリンを食べさせる。
 
「ええ。あなたは欲もないし、ユリ園ダンジョンがちょうどいいと思ったのよ」

「公私混同しすぎじゃないかしら?」

「だからいいのよ。その方が、このダンジョンを狙う生徒が増えるわ。嫉妬に狂ってね」

 おおお。ムリヤリにでも、はるたんに戦わせるつもりなのか。

「晴子だって、既にできあがっているダンジョンなんて、欲しくないでしょ?」

「それはそうだけど」

 言われてみれば、はるたんはアリモノで満足するタイプじゃない。

「ウチはダンジョン自体が、欲しくないのよ」

「金盞花最強の魔術師と言われているあなたなら、ダンジョンなんてもらってもうれしくないかもだけど。でもダンジョンはいいわよ。引きこもっているだけで、お金になるから」

「アパートの管理人でも、ちゃんと仕事はあるわよ。警備やお掃除、荷物預かり、クレーマーの対応とか」

 はるたんが、『賃貸の管理者は楽』という幻想をブチ壊した。実際はるたんはそう思っていて、調べに調べた結果わかったことである。

 たしかに、結構やることが多いんだよねえ。

「レイアウトはあなたの好きにしていいわ。私だって、好きに使っていたし。自分のお部屋だと思って、使ってちょうだい」

「ほーい」

 じゃあさっそく、お掃除するか。

「そりゃそりゃー」
 
 お茶の時間を終えて、あたしは旧校舎にモップをかけまくる。

 はるたんはエレメントを召喚して、窓や天井を拭く。手の届かない場所を掃除するのに、エレメント召喚は楽だ。

 校長は庭に出て、ユリの手入れをしている。
 
 ややくすみ気味だった旧校舎は、輝きを取り戻した。とても、ダンジョンには見えない。

「では、ダンジョンコアを授与します。晴子、これであなたはダンジョンのマスターよ」

 校長室の引き出しから、校長が赤い球体を取り出す。あたしたちの前に、球体を差し出した。

 これが、ダンジョンコアか。

 赤いコアを、はるたんは受け取った。

 はるたんの手の中に、球体が吸い込まれていく。

 バーコードのような線が、はるたんの手に刻まれた。

「それが、ダンジョンの証明書になるわ」
 
「えっと、質問があるんだけど。適任者が現れたら、譲渡してもいいのよね?」

「いいわよ。適任者がいれば」

「探すわ。ソイツにダンジョンを管理してもらいつつ、ウチらは他校のダンジョンを回るから」

「それでOKよ。では正式に、ダンジョン部を再始動します」

 あたしたちは校長に、「よろしくおねがいします」と頭を下げる。



 
 翌日、我が校のダンジョンに第一お客さん方が現れた。

「モモ。さっそく、練習試合の相手が来たね」

「なんだかんだいって、はるたんもうれしそうじゃね?」

「うっさい。ささ、さっさと蹴散らすよー」

 ピンク色の制服を着た女子生徒たちを、あたしたちは招き入れる。

「ごきげんよう。金盞花学園に、ダンジョン部が再設立されたとお聞きしました」
 
 その女子生徒は体つきこそ人間だが、まぶたがなかった。ヘビのように。

「わたくしはラミア族が集う、巳柳高校ダンジョン部代表、二年の『愚地おろち 三澄みすみ』と申します。【ユリ園】の攻略に参りました」

 世界中に出現したのは、ダンジョンだけではない。モンスターも、地球にやってきたのである。
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