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第五章 幼女、はじめての襲撃ミッション!(邪魔するんやったら、帰って~
第35話 オフの幼女 ~密着二四時~
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「アティさん、おはようございます」
起床して、散歩に出ようとすると、ジャーナリストのトルネルが立っていた。
「ホンマに、オフの取材だけでええのん?」
「テネブライで働く人々のお仕事シーンなどは、他の班が回っていますので」
一応トルネルは、ウチ専属の密着ライターらしい。
「今日はどちらに」
「散歩するだけやで」
実は、朝散歩はこちらの世界に転生してからの習慣である。マジで、朝からすることがないのだ。自身の研究に明け暮れているゾーン状態ならいざ知らず、スマホもコンビニもない世界だと店も空いていない。カップ麺すらないのだ。あったらあったで、この世界の人は忙しくなりすぎるのだが。
陽の光とともに起きて散歩だなんて、前世からは考えられない行為である。
「朝早く行動なさるなんて、素敵ですね」
「せやろか? 田舎ってこんなもんとちゃう?」
「まあ、朝から畑仕事って人が大半ですが、散歩する余裕があるのは、王族や貴族くらいでしょうか? それでも、公務に追われているそうですよ」
「忙しいのは、どこでもいっしょやねんな」
「なんのお話でしょうか?」
「別に、こっちの話や。気にせんとって」
あやうく、前世の話題をふりそうになった。そんな話なんてしたら、たちまちウチは変人と思われてしまう。
ウチが前世で住んでいた都会なんて、朝からバタバタしていた。ギリギリまで寝て、ベッドから起きた途端に支度する。朝食はゼリー飲料を飲んで済ませ、仕事の後は味のしない携行食品だ。帰宅後はネット巡回しつつ、スーパーの惣菜を消化する。
仕事が好きでもないのに、生きるために生きていたっけ。
「えらくたそがれていらっしゃいますが?」
「おっと、失礼。イヤなことを思い出してんよな」
「アティさんでも、苦労なさることはあったんですね? 世紀の成功者なのに」
「大昔の話やけどな」
「それでテネブライなんですが、どうやって開拓なさったんです?」
「うん。よく聞いてくれた。あの子のおかげや」
ウチは朝食がてら、クゥハを呼ぶ。
「今日もトレーニングか?」
「はい。冒険者さんと、基礎鍛錬を。アト……アティ領主は、朝ご飯ですか?」
コイツ、あやうくウチを「アトキン」って本名で呼びそうになったな。
ダメだ。魔女と同じ名前だとわかったら、どこかでウチが本物の魔女だと、トルネルに悟られてしまう。
「朝飯がてら、あんたの話を聞かせてやって」
「そうですか。特に話なんてないんですけどね」
ウチとクゥハは、話す内容を事前に打ち合わせしてある。
「ワタシが空腹で行倒れていたところを、このアティ領主が助けてくださったんです。その当時、アティはご両親から『お前もそろそろ独り立ちせんかい』って、テネブライ開拓というムチャを言い渡されていて……」
ウチの台本通り、クゥハはデタラメを話す。
「ダークエルフのワタシはテネブライの瘴気に耐性がありまして、それで攻略ができたのです」
「どうしてあなたほど強い方が、行倒れなんて?」
「この世界の通貨を、持っていなくて」
「なるほど。ずっとテネブライに住んでいて、世界の常識を知らなかったと」
「はい。冒険者登録したものの、野盗まがいの者たちに騙されて、有り金をすべて取られていまして」
「大変だったんですねえ」
トルネルが、クゥハのでっち上げをシコシコメモに書き記す。
その様子を、カニエが難しい顔で見ていた。
「貴重なお話を聞けて、助かります。では、お昼以降もよろしくおねがいしますね」
「はいなー」
トルネルが、席を外す。一旦、取材内容をノートにまとめるという。
「カニエ、ちょっと」
ウチはカニエに、トルネルの名刺を渡した。
「確認をしといてや」
「承知しました。ポーレリア国の雑誌社なんですね」
「知ってるんか?」
「テネブライと【テネブライ:内海エリア】を挟んだ、向こうの国ですよ」
カニエが食卓に、地図を広げた。
テネブライは地図でいうと、最北端に位置している。
地球の地図に例えると、「ロシアくらいバカでかい、スウェーデンみたいなひょうたん形の地形」だ。
ポーレリアは、ポーランドっぽい地点にある。たしかに、スウェーデンとポーランドは海を挟んでいたっけ。
その南半分の全土が、セルバンデス国だという。
海の向こう側から来たってわけか。
「とにかく、あの記者の所在を調べてんか? なんか怪しいねん、あの人」
「タイミングが絶妙ですからね。荒野エリアの開拓と当時に、現れましたから」
トルネルの正体を探るのは、カニエに任せることにする。
その後もウチは何事もないかのように、取材を受けた。
「お休みの日は、ずっとボーっとしてるんですか?」
「まだこんな歳やけど、休み方とか知らんかったなあ」
前世の頃、幼少期からずっと習い事ばかりで自分の時間なんてなかった。
社会人になってからも、同じである。
休みの日に何をしていたかなんて、まったく覚えていない。スマホゲーをしているか、小説を読んでいるか、映画を見るだけの日々だったはず。
ゲームもたいてい、牧場を経営するとか、そういった平和なものを好んでいたっけ。
もっと自分のやりたいことをやっていたら、まだ向こうでも生きられたかも。
「むしろ向こうで死んだような生き方をしていたから、こっちに来られたのかも」と、一瞬考えたこともある。あっちでの生活環境を肯定したくないから、その邪念は払ったけど。あんな生き方は、イカン。自分を殺すだけだ。
そのクセがあったせいで、こちらの世界に来ても効率重視な生き方をしてしまったんじゃないか。
で、テネブライで命を落としてしまった。
その未練があったから、日頃から考えていた「幼女やりなおし」を思いついたわけだけど。結果オーライって感じ。
当然、トルネルには話していないが。
「貴重なお話をありがとうございました」
トルネルによる、ウチの休日密着が終わった。
またノートをまとめるために、一度帰国するという。
入れ替わりで、カニエがこちらに帰ってきた。
「カニエ、トルネルの素性はわかったん?」
「はい。こちらにまとめました」
ウチは、カニエが用意した資料を眺める。
「……ほほーん」
やはりな。
「なんて描いてあるんです、アトキン?」
「そんな編集社、ないって」
起床して、散歩に出ようとすると、ジャーナリストのトルネルが立っていた。
「ホンマに、オフの取材だけでええのん?」
「テネブライで働く人々のお仕事シーンなどは、他の班が回っていますので」
一応トルネルは、ウチ専属の密着ライターらしい。
「今日はどちらに」
「散歩するだけやで」
実は、朝散歩はこちらの世界に転生してからの習慣である。マジで、朝からすることがないのだ。自身の研究に明け暮れているゾーン状態ならいざ知らず、スマホもコンビニもない世界だと店も空いていない。カップ麺すらないのだ。あったらあったで、この世界の人は忙しくなりすぎるのだが。
陽の光とともに起きて散歩だなんて、前世からは考えられない行為である。
「朝早く行動なさるなんて、素敵ですね」
「せやろか? 田舎ってこんなもんとちゃう?」
「まあ、朝から畑仕事って人が大半ですが、散歩する余裕があるのは、王族や貴族くらいでしょうか? それでも、公務に追われているそうですよ」
「忙しいのは、どこでもいっしょやねんな」
「なんのお話でしょうか?」
「別に、こっちの話や。気にせんとって」
あやうく、前世の話題をふりそうになった。そんな話なんてしたら、たちまちウチは変人と思われてしまう。
ウチが前世で住んでいた都会なんて、朝からバタバタしていた。ギリギリまで寝て、ベッドから起きた途端に支度する。朝食はゼリー飲料を飲んで済ませ、仕事の後は味のしない携行食品だ。帰宅後はネット巡回しつつ、スーパーの惣菜を消化する。
仕事が好きでもないのに、生きるために生きていたっけ。
「えらくたそがれていらっしゃいますが?」
「おっと、失礼。イヤなことを思い出してんよな」
「アティさんでも、苦労なさることはあったんですね? 世紀の成功者なのに」
「大昔の話やけどな」
「それでテネブライなんですが、どうやって開拓なさったんです?」
「うん。よく聞いてくれた。あの子のおかげや」
ウチは朝食がてら、クゥハを呼ぶ。
「今日もトレーニングか?」
「はい。冒険者さんと、基礎鍛錬を。アト……アティ領主は、朝ご飯ですか?」
コイツ、あやうくウチを「アトキン」って本名で呼びそうになったな。
ダメだ。魔女と同じ名前だとわかったら、どこかでウチが本物の魔女だと、トルネルに悟られてしまう。
「朝飯がてら、あんたの話を聞かせてやって」
「そうですか。特に話なんてないんですけどね」
ウチとクゥハは、話す内容を事前に打ち合わせしてある。
「ワタシが空腹で行倒れていたところを、このアティ領主が助けてくださったんです。その当時、アティはご両親から『お前もそろそろ独り立ちせんかい』って、テネブライ開拓というムチャを言い渡されていて……」
ウチの台本通り、クゥハはデタラメを話す。
「ダークエルフのワタシはテネブライの瘴気に耐性がありまして、それで攻略ができたのです」
「どうしてあなたほど強い方が、行倒れなんて?」
「この世界の通貨を、持っていなくて」
「なるほど。ずっとテネブライに住んでいて、世界の常識を知らなかったと」
「はい。冒険者登録したものの、野盗まがいの者たちに騙されて、有り金をすべて取られていまして」
「大変だったんですねえ」
トルネルが、クゥハのでっち上げをシコシコメモに書き記す。
その様子を、カニエが難しい顔で見ていた。
「貴重なお話を聞けて、助かります。では、お昼以降もよろしくおねがいしますね」
「はいなー」
トルネルが、席を外す。一旦、取材内容をノートにまとめるという。
「カニエ、ちょっと」
ウチはカニエに、トルネルの名刺を渡した。
「確認をしといてや」
「承知しました。ポーレリア国の雑誌社なんですね」
「知ってるんか?」
「テネブライと【テネブライ:内海エリア】を挟んだ、向こうの国ですよ」
カニエが食卓に、地図を広げた。
テネブライは地図でいうと、最北端に位置している。
地球の地図に例えると、「ロシアくらいバカでかい、スウェーデンみたいなひょうたん形の地形」だ。
ポーレリアは、ポーランドっぽい地点にある。たしかに、スウェーデンとポーランドは海を挟んでいたっけ。
その南半分の全土が、セルバンデス国だという。
海の向こう側から来たってわけか。
「とにかく、あの記者の所在を調べてんか? なんか怪しいねん、あの人」
「タイミングが絶妙ですからね。荒野エリアの開拓と当時に、現れましたから」
トルネルの正体を探るのは、カニエに任せることにする。
その後もウチは何事もないかのように、取材を受けた。
「お休みの日は、ずっとボーっとしてるんですか?」
「まだこんな歳やけど、休み方とか知らんかったなあ」
前世の頃、幼少期からずっと習い事ばかりで自分の時間なんてなかった。
社会人になってからも、同じである。
休みの日に何をしていたかなんて、まったく覚えていない。スマホゲーをしているか、小説を読んでいるか、映画を見るだけの日々だったはず。
ゲームもたいてい、牧場を経営するとか、そういった平和なものを好んでいたっけ。
もっと自分のやりたいことをやっていたら、まだ向こうでも生きられたかも。
「むしろ向こうで死んだような生き方をしていたから、こっちに来られたのかも」と、一瞬考えたこともある。あっちでの生活環境を肯定したくないから、その邪念は払ったけど。あんな生き方は、イカン。自分を殺すだけだ。
そのクセがあったせいで、こちらの世界に来ても効率重視な生き方をしてしまったんじゃないか。
で、テネブライで命を落としてしまった。
その未練があったから、日頃から考えていた「幼女やりなおし」を思いついたわけだけど。結果オーライって感じ。
当然、トルネルには話していないが。
「貴重なお話をありがとうございました」
トルネルによる、ウチの休日密着が終わった。
またノートをまとめるために、一度帰国するという。
入れ替わりで、カニエがこちらに帰ってきた。
「カニエ、トルネルの素性はわかったん?」
「はい。こちらにまとめました」
ウチは、カニエが用意した資料を眺める。
「……ほほーん」
やはりな。
「なんて描いてあるんです、アトキン?」
「そんな編集社、ないって」
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