新大陸を開拓するため、幼女型モンスターに魂を転送した魔女は、後に邪神と崇められる(自力で幼女になりたかっただけやのに!

椎名 富比路

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第三章 幼女は邪神として崇拝される(愛弟子よ、これがお前の師匠や

第20話 幼女、王都にアンテナショップを建てる

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 カニエが言うには、テネブライで育てた野菜や薬草は、えげつない回復機能があるらしい。

「その辺で適当に育てた薬草には、毒消しの作用がありました。また、かぼちゃなんてバナナクラスの完全食に育っています」

「どうして、ウチには感知できへんかったんやろ?」

「それはアトキン先生、クゥハさんもですが、あなた方に【リジェネ】機能が備わっているからですっ」

 テネブライの瘴気を取り込むことによって、ウチは勝手に魔力が回復していくのだという。
 カニエによると、そうらしいが。

「テネブライに漂う、あの独特の瘴気。あれは魔界から流れ込んでくるものだと、最近わかってきました。そりゃあ、人間は立ち入れませんよ。魔族のテリトリーなんですから」
 
 えらくカニエが、憤慨していた。


「自分の畑で育てた作物の効能も知らずに、売り込もうとは。わたしがついてきて、よかったですよ。あやうく、密猟者に乱獲されるところでしたから」

 そこまでデカい話だったのか。 

「よう商業ギルドは、ウチを疑わへんかったな? 見た目がこんなにかわいい、幼女やのに」

 見た目でごまかされて、足元を見られると思っていた。

「商売相手としては、申し分ありません」
 
 おおかた、どこかのお嬢様と見間違えたか。あるいは、ノームやドワーフのように『ちっこい種族』と思ったのだろう。

「アトキン先生はガチムチマッチョではないので、ノームが妥当でしょうね」

「ノームは『貧乳はステータスだ』一族やんけ。ウチはおっぱいあるんやで?」

「それをいうなら、『ドワーフは、腕や太もももガチムチなんやで』ですよ」

 カニエが、ウチの方言をマネる。

「どちらにせよ、あなたの姿くらいで、商業ギルドは人を差別しませんよ。商談に値する人物かどうかに、見た目はさして参考になりません」

「そうなんか」

「先生をテネブライ出身だ、と紹介したのがよかったのでしょう。テネブライは、なにがあるかわかりませんから」
 
 多少の違和感があっても、「テネブライなら仕方ない」って流せるわけか。
 
 商業ギルマスが、戻って来る。テネブライ産食材の、査定が終わったようだ。

「レディ・ネッド様。おまたせいたしました」

 自分の名前を呼ばれたのに、ウチは一瞬対応が遅れる。

 そうだった。ウチは、「アティ・ネッド」と偽名を作ったばかりだったっけ。

「おおきに。茶をシバいて待っとりましたで」

「は、はあ」

 ウチが手を上げると、商業ギルドマスターは首を傾げる。

「まあ、気にせんといて。ほんで、いくらほどに」

「大変申し上げにくいのですが……」

 ほらあ。やはり金には、ならなかったのだ。この商業ギルマスの顔を見ていればわかる。

「レディ・ネッド。これらの品をすべてこちらで買い取ろうとなると、我がギルドは国家に借金をせねばなりません」

「ふおおおおお!」
 
 マジかよ。それくらいの値段になると?

「ちなみに査定金額は、こちらのように」

「……国一個買えるやん」

 この金額は、ちょっと一国の交易金としては、もらいすぎだ。

 ウチは深呼吸をする。

「でしたらなあ。せや。ウチの部下が、というかムカイさんの部下が、街をウロウロして買い物しとるねん。それの代金を立て替えてんか?」

「どうぞどうぞ。この国の商品、料理を買い占めたとしても、お釣りが来ますよ。なんでしたら、数日滞在なさってくださいな。好きなだけ、なんでも買って、なんでもお召し上がりください」

 それでも、お釣りが来てしまうという。

 参ったな。セルバンデスの財布に大ダメージを与えるつもりは、なかったんだが。

「どないしょう?」

 ウチは、クゥハと相談する。
 
「ならばアトキン。テネブライの作物を、こちらで売る店舗を構えたらいいじゃないですか。王都はテネブライのアイテムが手に入り、我々は王都に土地が手に入ります」

「せや! アンテナショップや! よう言うてくれた!」

 ウチは、ヒザを叩いた。

 お試し価格で、割安の値段で提供してしまってもいい。

「大将! 店を建てさせてもろうても、よろしいか?」

 テネブライ産の商品なら、いい宣伝にもなると思う。
 
「ええ、もちろん!」

「競合相手の問題もあるから、わりかし高めの値段設定にさせてもらうけど」

「便利ではあるが、汎用性で言ったらやっぱり店売り!」と、ユーザーには思わせてやりたい。

「そうですね。手が出せる利用者は、どうせ高ランクの冒険者でしょうし」

「せやせや。頼んます」

「わかりました。比較的競合と接触しない、隠れ家的なショップなどはいかがでしょう?」

 いいね。知る人ぞ知る名店とな。
 
「ちょうどいい物件がございます。ご一緒にいかがでしょう?」

「観に行かせてもらうで」

 ウチはギルマスについていき、物件を見せてもらう。

 案内されたのは、こじんまりとした路地裏の建物だ。他のショップは花屋か、常連しか相手にしないような小さい喫茶店しかない。

「ここは元々、マジックアイテムのショップだったのですが、魔術師が高齢のために亡くなり、持て余しておりました」

 なるほど、結構な場所代がかかる。ここの店主は、かなりお稼ぎだったらしい。

「こちら、無料でご提供させていただきますよ。ギルドの担当者付きで」

 ギルドが派遣した警備まで、付けてくれるという。
 それくらい、ヤバい商品だったのか。
 まあ、テネブライ出身のムカデ人間を店に立たせておけば、悪党なんか片手でぶちのめせるだろうけど。

「ホンマに? 出血大サービスやん」

「いえいえ。これでも、十分すぎるくらいですよ」

 場所代と土地代、すべて商業ギルドが持つという。その代わり、売値を勉強してくれってことか。

「ええでしょう。商談成立ですわ」

「ありがとうございます」

 こうして、ウチは王都にお店まで構えることに成功した。しかも、乗客御用達の。
 
「ですが、お気をつけください」

「どないしたんで?」

「実は、他国もテネブライに関心を抱いているらしく」

 兵士を派遣して、テネブライの調査をしているかもしれないとのこと。

「そのときは、そのときや。害がないんやったら、ええし」

「そうですか。さすが領主様ですね。どっしりと構えていらっしゃる」

 商業ギルマスが、頭を下げる。

「色々とおおきに」

 ウチは、商業ギルドに戻って、各種書類を整理し終えた。

 街へ繰り出す……にしても、ウチはもうほとんど王都は見て回ったんよなあ。生前に。
 それに商売となると、商才のないウチが見ても仕方がないし。ムカデ亜人組に、がんばってもらうしかない。

 おっと、王都を回らせたい人物が、一人いた。

「お待たせしたな、クゥハ。王都を見て回っておいで」

「はいっ」

 クレープ屋さんやら、アクセサリ売り場など、クゥハは女子っぽいところを見て回る。
 乙女かな? あんなゴツいヨロイを着ているのに。

「教祖アトキン様。ただいま戻りました」

 亜人たちが、ウチにひざまずく。

「こんな公共の場で、そんなかしこまるのはやめてや」

 ウチはすぐさま、彼らを立たせた。

「それより、どうやった?」

「クレープというものが、おいしかったですっ」

「いやクゥハ、あんたに聞いてへんから」

 他の亜人種たちは「コロッケがいい」とか、「王都のドワーフを雇いたい」とか、思い思いの意見をいう。

 ドワーフか。会えたら、スカウトしてみたいな。鉱石に関しても、詳しいだろうし。
 
「帰ったら、作り方を教えるさかい。ほんでな。数名ほど、王都に残ってもらいたいんや」

 ほお、と数名の亜人種が関心を持つ。

 王都を足がかりとして、世界の常識を学んでもらうにはいい機会だ。
 ちなみに彼らは、種族間で【シンクロニシティ】が作用するらしい。学んだ知識は、種族内で共有できるそうだ。経験・技術まではさすがにシンクロしないので、教わる必要があるという。

 残りたいものを、挙手制で選ぶ。

 五名くらい、残るといい出した。
 
「基本、人間に危害を加えるんは、やめときや。横柄な客相手やったら、手加減せんでええけど」

「はい」

 あと、他国の状況を報告するように伝える。

 こうして、ウチの王都探索は終わった。
 大収穫だ。
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