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第二章 幼女はダンジョンを攻略する(売り物の材料も調達するで!

第12話 幼女、アラクネをシバく

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 レイピアの出来もバッチリ。魔法を流し込んだときの、伝達率も高い。角を使ったからいびつな刀身になっている。しかし、その波々した刀身も気にならない。

 ああ、俄然やる気が出てきたな。
 とはいえ、宝箱も気になる。
 
「アトキン、どうします? 先にアラクネを退治するか、お宝探索を優先するか」

「アラクネやな!」

 まずは、武器の性能を試したい。

「敵わんって思ったら、宝探しをして改めて攻略したらええ」

「ですね。まあ、アトキンでしたら、どんな相手でも勝てると思いますが」

「そうやろか?」

「あなたはご自身の強さを、過小評価し過ぎでは?」

 自分でも、実感わかないんだよなあ。

「まあええわ。一旦、アラクネをシバきに行くで」

 ウチは、ダンジョンの下層を目指す。

「アトキン、こちらです」

 クゥハが、ナビゲート役をつとめてくれた。そのおかげで、スイスイと進む。

「ん? この敵は、前にも見たやつの色違いやな」

 下層の敵は、上の階とあまり代わり映えがしない。ちょっと色が違うくらいか。攻撃力が上がって、体力はそのままって感じである。

「アイテムが、しょぼい。思ったより、ええアイテムが出えへんやんけ」
 
 落とすアイテムも、上層の敵が落とすアイテムのグレードアップ版程度だ。このダンジョンは、ドロップアイテムにたいした価値はないのかも。

「宝箱に入っているアイテムのほうが、マシですね」

「ほんまや。レア出まくりやん」

 やはり、宝箱にいいものが入っている可能性があるな。

 ただ、ここは「どっち」や?

 宝箱のパターンには、二つある。

 一つは、「ボスを倒した後に現れる、財宝タイプ」だ。いわゆる「クリア報酬」ってやつである。これは、もちろん備わっているだろう。

 クゥハすら無視するような相手だ。相当な達人に違いない。そんなヤツが、クリア報酬を吐き出さないなんてことは、ありえないはず。
 

 もう一つは……。
 

「おっ。ボス部屋発見!」

 いかにもボスのいる部屋と思しき扉を、発見した。巨大な魔物の骨で作ったような扉である。
 ウチが近づいていくと、扉がひとりでに開いた。

 天井に、巨大なクモの巣が広がっている。そこに、人影が立っていた。
 
「来たでぇ……あれがアラクネか」

「そうです。間違いなく、あれはアラクネですよ。アトキン」
 
 普通アラクネといえば、「上半身が人間の女性、下半身がクモ」というイメージがあろう。

 しかしここのアラクネは、頭がクモで胴体と手足が人間の女性だった。背中に、複数のクモの足を背負っている。口はガスマスクのような形状で、言語を発する気管ではないらしい。シュコーシュコーと、呼吸音のみが響く。

「改造人間かいな!」
 
 これは魔物ではなく、魔族だ。とはいえ、意思疎通とかできるタイプではない。絶対、人間とか外界の生命体に興味を示さないだろう。あらゆる命は自分のエサであり、下等生物と見下している。言葉を発しなくても、雰囲気で伝わってきた。

「自分の強さに、絶対の自信があるみたいやな」

 クモ女が、タン、と巣から降りる。

 側転をして、こちらに迫ってくる。腰から複数の足を展開し、回し蹴りを浴びせてくる。腰から伸びた足を利用してより軸が安定し、正確無比なキックが繰り出された。

「ええやん。ボスってのは、こうでないとな!」
 
 無数のキックを、ウチも触手で弾き飛ばす。ツインテ触手が、こんなところに役立つとは。

「どうや? このツインテは、お飾りとちゃうんやで!」

 相手も、ウチの能力に気がついたのか、戦法を変えてきた。口から糸を吐き出し、触手の動きを止めに入る。ウチを引き寄せ、武器を持った腕を掴んできた。
 
「甘すぎんで、アンタ!」

 ウチは触手から、魔法の光を放つ。ウチの触手は魔法石を大量に取り込んでいるため、砲台にもなる。威力は低いが、密着して打ち込めば……。

「うらあ! 腕はもろたで!」

 複数あるクモの腕を、一本だけながら破壊した。

 再生されてしまったが、おそらくダメージは蓄積している。傷の回復までには、至っていない。

「武器のサビに、なってもらうで。【ソニック・トラスト】!」

 肉体強化をして、ウチは攻撃の速度を上げる。相手に突撃して、クモの頭部をレイピアで貫く。

 だらしなく、アラクネは仰向けに倒れた。

「よっしゃ!」

 アラクネを、退治したようである。

 この剣の威力、思っていたよりすごい。ボスですら瞬殺とか。

 レイピアが強いのか、このボスが弱いのかわからないが。

 そんなことより、クリア報酬である。

 さてさて、クリアの報酬は……!?

「出ないんかい!」

 待てど暮らせど、宝箱が出てこない。
 
 あれだけ苦労したのに無報酬とか、テネブライって渋すぎん? まあいい。経験値が大量に入って……。

「こんのかい!」
 
 経験値すら、しょぼい!

「どういうことやねん! テネブライ! いくらなんでも、ハードすぎませんかねえ! まったく、どないなっとんねん」

「ああなってるんです」
 
「……ん?」

 さっき倒したはずのアラクネが、大量に降りてきた。

「あああ、さいですか。そういうことね!」

 どうやら、アラクネは複数体存在するようだ。なんか、ボスの割に脆いと思っていたが。

「ええやんええやん! まとめてかかってこいや!」

 ウチは、剣を構え直す。

「手伝いましょうか?」

「かまへん。これはウチのワガママや。最後まで、自分でやったる」

「じゃあワタシは、自分にかかってくるアラクネを撃退しますね」

 しゃべりながら、クゥハは群がるアラクネを斬り捨てた。そこそこ強いはずのアラクネを、一気に複数も。

 倒しても倒しても、無数の手足がウチに攻撃をしてくる。
 
「アカン。キリない! こうなったら!」
 
 ウチは、最大火力の【シャドウフレア】で、フロアごと爆発させた。
 
 
「あーもう、なんでやねん!」

 ウチは、地団駄を踏む。

 一〇〇体以上のアラクネを倒したはずなのに、アイテムの一つも落ちてこないからだ。

「どないなっとんねん。あれだけ倒したら、普通はクリアやろがいっ」
 
 となると、可能性は一つしかない。

「アカン。クゥハ、撤退や」

「逃げるんですか? 配下は全部倒したのに?」

「ここは、ハズレフロアや」

 ダンジョンにはたまに、「攻略しなくていいフロア」が存在する。
 まさかリアル世界で、こんなフロアを引き当ててしまうとは。実際にあるんだな。こんな場所が。
 しかも、ボス部屋にもハズレがあるなんて。
 たいていハズレフロアだとしても、なんらかの意味があったりするものだ。豪華なアイテムがあったり。
 しかし、それすらない。

 ここのダンジョンのボスは、相当意地悪なタイプのようだ。

「なるほど。本来のボス部屋ではないと?」

「せや。一杯食わされたみたいや」

 渋々、ウチはフロアを出ていった。


 帰宅して、ヤケクソで入浴する。
 
「ああくそ。腹立つ」

 湧き上がる苛立ちを、湯船で溶かすことにした。
 それでも、腹立たしさが募る。

 クゥハに抱きついて、癒やしてもらおうっと。
 
「申し訳ありません。ガイド役のはずが、まさかハズレだったとは」

 ナビゲート役のクゥハが、頭を下げる。

「ええねん。あんたのせいやないし」

 とにかく、アラクネが悪い。
 ヤツは見つけ次第、八つ裂きにする。

「あれくらい歯ごたえがないと、テネブライに来たって感じがせえへんし」

 ウチは、腕を組んだ。
 
「うーん。これは、もう一つの可能性にかけるしかない」
 
「と、いいますと?」

「宝箱探しに、シフトを変えるで」

「ボスは、あきらめるんですか?」

「そうやない。ボス部屋に行くために、宝箱を漁る必要がありそうなんや」

 道中に宝箱があるってことは、つまり、アラクネ退治になんらかの攻略法があるってわけだ。
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