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第二章 幼女はダンジョンを攻略する(売り物の材料も調達するで!

第10話 幼女のアイテムショップ計画

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「お店を、テネブライに開くのですか?」

「せや。ここで採取・採掘した素材を加工して、マジックアイテムにして売るんや」

 この地に眠る素材を、世に出さない手はない。今のところ、世界は平和かもしれない。魔王も去ったことだし。
 だが、ウチがここを住処としてから、どれだけの年月が経ったのかわからない。その間に、強い魔族が侵略を開始したという可能性もある。
 その場合、ウチのいない世界が持ちこたえられるのか? まだまだ世界は、【葡萄酒の魔女ソーマタージ・オブ・ヴィティス】に依存している気がしてならない。
 
「いうても、当分先の話やけどな」

 テネブライの瘴気は、人間には猛毒過ぎる。一度吸い込んでしまったら、高名な魔女でさえ老化してしまうほどに。
 ウチが拠点にしていたテネブライ外周のポイントを軸に、道を作ってそこにショップを建てようかと。
 気の長い話になるだろう。

「アトキンが建てたお店なら、きっと素敵な場所になるでしょう」

「おおきに、クゥハ。さて、食べ終わったことやし、素材集めに行こか」

「もう、目的が変わっていますね。さっきまでは、アラクネ討伐がメインだったのに」

「アカンわ。もうちょっと強くなってからな」

 ウチは、用心深い。生前、このテネブライで舐めプしてしまった反省もある。おかげで、より慎重に行動するようになっていた。
 猪突猛進、大いに結構。
 とはいえ、今の命は大事にしたい。
 なんたって、今は憧れの幼女状態だ。この体系を、維持しておきたい。
 培養液の量産も、目処が立っていないし。今の量だと、せいぜい下半身くらいしか幼女化できなかろう。

 まあ、テネブライでもあそこまでの量を採取できるとは思えない。副作用も、えげつなさそう。

 ひとまず、ウチが倒して実験体にしたこの【ダゴン】とかいう魔物が、どこまで強くなれるのか。その確認が大事だ。
 自分のことは、自分が一番わかっていないものである。比較対象であるクゥハがいることが、どれだけ心強いか。

「おお、スライム」

 最弱モンスター、スライムが現れた。バスケットボールくらいの大きさで、グミのような柔軟性を持つ。やはり、こちらでもそこまで強くはない。地下洞窟に穴を開けているのは、こいつらのようだ。ダンジョンを作るモンスター、という扱いかな?

 コイツらがいれば、ウチにもダンジョンが作れるわけか。

「クゥハ、コイツらって、ミニオンにできる?」

 とりあえず、畑の管理はこの子たちでいいかなと。水やりなどは特に。
 そうすれば、スケルトンは兵士に専念できる。今はなんでもさせている状態なので。
 
「配下にするのですか? いいですね」

 ひとまずウチは、スライムをミニオン化することにした。スライムを倒して、部下にする。で、畑に放すのだ。
 
 ウチが指示を送ると、スライムたちは一目散に畑へと向かっていく。

「ステータス・オープン。畑の様子を見せてんか?」

 能力確認画面を開き、畑の様子をうかがう。スライムのリーダー格に、カメラ機能を搭載したのだ。いわゆる、高齢者用の「見守りカメラ」みたいな機能である。

「おお、働いてるな」

 スライムの群れはスケルトン部隊と入れ替わりで、畑を耕す。大地に水を撒き、肥料を土に混ぜ込む。人の動きに依存するスケルトンより、動きがスムーズだ。
 
 畑は、大丈夫そうだな。

 こちらは、戦闘に専念するか。

「ゴーレムですね」

「おお。コイツも、ダンジョン作りに役に立ちそう」

 しかし、このゴーレムは強そうだ。さっきのサソリより、硬い。おまけに、レベルがかなり高かった。能力を腕力に、全振りしているようだ。いわゆる、脳筋か。

 相手とレベルの差が大きくないと、ミニオン化ができない。

「くーっ。待っとけよ、ゴーレム。必ず、ミニオンにしたる!」

 全力全開魔法で、ゴーレムを泣く泣く破壊する。
 こちらもレベルアップしたが、なんか負けた気分だ。

「あれは、アラクネを倒してから、ミニオンにしましょう」

「せやな」

 それくらいになっていたら、ゴーレムを手下にできるレベルに達しているだろう。

 それにしても、ゴーレムですらこのレベルか。

 さすがテネブライだな。魔族の本拠地である【魔界】に、最も近い場所と言われるだけある。だからこそ外界との交流が少なすぎて、視野が狭い。

 ウチが付け入るスキは、ここにある。

「もっと倒しやすい敵を狙いましょう」

「ムカデみたいなんか?」

「そうですね。あっちに行ってみましょう」

 さらに奥へと進んだ。

「おお、トカゲ」

 トカゲのような四本脚の爬虫類が、こちらを見つける。大型バイクくらいの大きさだ。

 装甲が薄い相手なら、ウチでも対処できるか?

「でも、早いな!」

 防御面が低い分、動きが速い。ゴキブリ並みの、スピードだ。なんという、めんどくささ。

 その異常なスピードで、トカゲはウチに噛みつこうとしてきた。
 
「せやけどウチには、これがあるんや!」

 ウチは、触手を展開した。触手で、トカゲの首を絞める。
 
「チェックメイトや」

 トカゲの眉間に、ウチはレイピア状の光刃を突き刺した。

「よし。当分はトカゲ狩りで」

「そうですね。やっていきましょう」

 ムカデとトカゲを、大量に倒す。

 トカゲは、【ドラゴンパピー】という種族だった。竜族かよ。どうりで強いわけだ。とはいえ、まだヒナの状態である。ならば、ウチでも御せる。
 ドラゴンなんて、外の世界でもめったにお目に抱えれなかったな。テネブライでも、通用するのだろうか。慎重な性格だから、ここには近づきもしないだろう。テネブライでも、十分に戦えるかもしれないが。
 
 ネズミも大量に現れた。さすがにテネブライ産ともなれば、大群で押し寄せてくると魔王の四天王に匹敵する。ネズミの群れは、もうそれだけで一体のボスだ。
 さすがにコイツらは、ミニオンにする気も起きない。収穫した米を、真っ先に食いつぶしそうだ。

 ダンジョンの見えている場所を踏破し、ウチらは、外に出た。
 星を見ながら、夕飯にする。今日の晩ゴハンは、鍋に。

 ああ、ポン酢がうまい! ここで柑橘を作って、おいしくできあがるか心配だったが。想像以上に、化けたな。
 柑橘類を担当しているスライムが、オレンジ色になっていた。つまみ食いでもしたのか、随分とわかりやすい。

「クゥハ。アンタは人の箸が入った食べ物は、アカン系か?」

「どうってことありませんよ。まあ、魔界では家族分をすべて分けて食べていましたが」

 聞いてみて思ったんだが、このコの正体は、異形の化け物なんだよな? どうやって食べ物を斬り分けるのか。そもそも、普通の食事ではない可能性もある。それこそ人間を……。
 やめよう。クゥハでそういう想像をするのは、よくない。
 
「明日はダンジョン巡りを中断して、装備を作り直すで」

 白菜を食べながら、ウチはクゥハに告げる。

 どれだけ装備品が弱いか、一通りわかってきた。強化するには、絶好のタイミングだ。
 
「あんたの剣も、見せてもらえると助かるんやけど?」

「どうぞどうぞ。ワタシのは、自作ですよ」

「どれどれ」

 ウチは、クゥハの剣を改めさせてもらう。

「素材は、かなりええやつを使ってるなあ」

 それ以外は、割と素人仕事に近かった。

 これを鍛え直せば、かなり凶悪な装備になりそうである。

「これも、作り直させてもらってええか?」

「はい。どうぞ」

「……ホンマに?」

 この間まで敵だった魔物に、クゥハは簡単に命より大事な武器を預けるとは。

「クゥハ、アンタいつか騙されるんとちゃう?」
 

「アトキンを信頼していなければ、今頃武器を渡した瞬間にあなたを破壊していますよ」


 クゥハらしい答えが、返ってきた。


「しばらく武器が使えないんやで? ええの?」
 
「どうってことありません。武器は確かに、体の一部でしょう。とはいえ、武器に頼りきりでは真の戦士とは言えません」
 
 当分は、ダンジョンの宝箱から見つけた長剣で凌ぐという。
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