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第一章 壁役令嬢 ~ここはわたくしに任せて先へお行きなさい!~
第6話 孤児を世話する条件
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「うわああ。こんなお洋服、初めて着ました」
純白のベビードールをまとって、イーデンちゃんがくるんと回る。
マージョリーたんは同じタイプの色違い。ピンクとか、似合いすぎでしょ。
「もうひと仕事あります。いらして」
「はいっ」
二人揃って厨房へ向かう。まるで姉妹のようだ。
「料理長、火をお借りしますわ。子どもたちのために、リンゴのシュトーレンを作ってあげたいんですの」
「見ていてあげましょうか、お嬢様?」
「結構ですわ。慣れたものですから」
「はい。お好きなように」
太った料理長は、慣れた様子で自分の作業へと戻る。
マージョリーたんは、孤児のためにシュトーレンを焼く。
「こうしておけば、日持ちしますからね。好きなときに食べられます。ひどい紛争地帯でも」
彼女の人気は、こういうところにある。ぜいたくは最低限、ツンデレだが基本世話焼き、弱い人を放っておかない。
「いい人はすぐ死ぬ」というが、私はこういうひとをこそ守りたいのだ。
「お上手です」
「世辞はよろしくて。味を見てくださいな」
マージョリーたんが、一緒に作ったシュトーレンを、イーデンちゃんに味見させた。
「おいしいです。子どもたちも喜びますよ」
「ありがとう。人はパンだけで生きているわけではありませんから、うるおいが必要かと思いまして」
「素晴らしいお考えだと思います」
「では、食事にしましょう」
二人だけで、料理を食べる。
「おいしいです。こんな豪華なお食事をいただけるなんて」
「山盛りのポテトサラダと手羽の塩焼きを豪華とおっしゃっていただけるなら、本望ですわ」
本当なら、もっと立派な料理を出すつもりだったのだろう。しかし、魔王軍との戦況は芳しくない。今でも不眠不休で兵隊たちが戦っている。
「シスターも亡くなって、絶望の中にいたのですが、幸せな日々に包まれるなんて。マージョリーさま、あなたは天使です」
「天使だなんて、おおげさですわ。当然のことをしたまで。この子たちも、ただでお世話するわけではありませんので」
孤児院の子どもたちも、お風呂上がりにお召し物をもらっていた。彼・彼女らは、メイドや執事見習いとして、お屋敷のサポートをお願いしている。まずは清潔にと、服を着替えさせられた。今は街のために、炊き出しの仕込みをしている。
「それでも、感謝しています。マージョリーさま、ありがとうございます」
まだ、イーデンちゃんはかしこまっていた。
マージョリーたんは、フォークを置く。
「礼には及びませんわ。それより、さっきから『さま』づけ、どうにかなりませんの?」
「お屋敷に、厄介になるのです。無礼のなきよう心がけたつもりなのですが」
イーデンの言い訳を聞いて、なおさらマージョリーたんは不機嫌になる。
「その態度は、なおさら無礼ですわ。呼び捨てでも構いませんのよ」
「ムリムリムリです! マージョリーさまを敬称なしでお呼びするなんて」
「仲間はみんな、わたくしを呼び捨てですわ。階級差など関係なしで」
その方が、伝達や連絡が手短で済む。また、戦場に身分差なんて関係ない。強ければ、オールオッケーなのだ。
マージョリーたんは伯爵令嬢だが、リーダーであるゴドウィンは侯爵なので、当然ではあるのだが。
「わたしなんかを、仲間に入れてくださるんですか」
「はい。わたくしと共に戦闘へ参加する。これが、孤児たちの面倒をみる条件ですわ」
「わたしが、戦う」
「本来、民間人であるあなたに戦闘させるなど、非常識もいいところなのですが、背に腹は変えられませんわ」
魔王を相手にした戦いで、人間族は劣勢を強いられている。明らかに、戦力不足だった。
「怖いですか? わたくしが、見ていないと思って?」
「えっ」
マージョリーたんの射抜くような視線に、イーデンちゃんが硬直する。
「あなた、ゴブリン程度なら、肉弾戦でどうにかしていらしたわよ」
「いやあれは、とっさの行動でして!」
「ですが、戦えていましたわ。それにあなたは、ワイバーン相手にも逃げませんでした。その勇気称賛に値します。一緒に戦っていただけませんか?」
「……足を引っ張らぬよう、全力を尽くします」
マージョリーたんの説得がきいたのか、イーデンちゃんも覚悟を決めたようだ。
「ところでダテさま、あなたには色々とお聞きしたいことがございます。が、今は色々ありすぎて疲れています。後日、専門家の元へ連れていきますので、そのときにお話ください」
『はーい』
私は承諾し、ゼットさんも同意した。
今は、体を休めるときかもね。
寝室はイーデンちゃんが「どうしても」というので、別々に。まあ、あんな美人お嬢様が隣りにいたら、まともに眠れないよねー。
「ダテさんっ、寝る前に一つだけ。わたしにも、戦闘技術が備わるというわけですね?」
『そうだよ。意外かもしれないけど』
まあ、覚醒のタイミングは私がぶっ潰させてもらったけど。
とはいえ、ちゃんと対策はしている。
ワイバーンのドロップアイテムによって。
くううう! ひとまず、ミッションクリアーッ!
マージョリーたんを救えたことで、シナリオ改変が容易にできる!
はず! おそらく多分絶対!
でもあそこで、黒幕登場か。油断できないね。
純白のベビードールをまとって、イーデンちゃんがくるんと回る。
マージョリーたんは同じタイプの色違い。ピンクとか、似合いすぎでしょ。
「もうひと仕事あります。いらして」
「はいっ」
二人揃って厨房へ向かう。まるで姉妹のようだ。
「料理長、火をお借りしますわ。子どもたちのために、リンゴのシュトーレンを作ってあげたいんですの」
「見ていてあげましょうか、お嬢様?」
「結構ですわ。慣れたものですから」
「はい。お好きなように」
太った料理長は、慣れた様子で自分の作業へと戻る。
マージョリーたんは、孤児のためにシュトーレンを焼く。
「こうしておけば、日持ちしますからね。好きなときに食べられます。ひどい紛争地帯でも」
彼女の人気は、こういうところにある。ぜいたくは最低限、ツンデレだが基本世話焼き、弱い人を放っておかない。
「いい人はすぐ死ぬ」というが、私はこういうひとをこそ守りたいのだ。
「お上手です」
「世辞はよろしくて。味を見てくださいな」
マージョリーたんが、一緒に作ったシュトーレンを、イーデンちゃんに味見させた。
「おいしいです。子どもたちも喜びますよ」
「ありがとう。人はパンだけで生きているわけではありませんから、うるおいが必要かと思いまして」
「素晴らしいお考えだと思います」
「では、食事にしましょう」
二人だけで、料理を食べる。
「おいしいです。こんな豪華なお食事をいただけるなんて」
「山盛りのポテトサラダと手羽の塩焼きを豪華とおっしゃっていただけるなら、本望ですわ」
本当なら、もっと立派な料理を出すつもりだったのだろう。しかし、魔王軍との戦況は芳しくない。今でも不眠不休で兵隊たちが戦っている。
「シスターも亡くなって、絶望の中にいたのですが、幸せな日々に包まれるなんて。マージョリーさま、あなたは天使です」
「天使だなんて、おおげさですわ。当然のことをしたまで。この子たちも、ただでお世話するわけではありませんので」
孤児院の子どもたちも、お風呂上がりにお召し物をもらっていた。彼・彼女らは、メイドや執事見習いとして、お屋敷のサポートをお願いしている。まずは清潔にと、服を着替えさせられた。今は街のために、炊き出しの仕込みをしている。
「それでも、感謝しています。マージョリーさま、ありがとうございます」
まだ、イーデンちゃんはかしこまっていた。
マージョリーたんは、フォークを置く。
「礼には及びませんわ。それより、さっきから『さま』づけ、どうにかなりませんの?」
「お屋敷に、厄介になるのです。無礼のなきよう心がけたつもりなのですが」
イーデンの言い訳を聞いて、なおさらマージョリーたんは不機嫌になる。
「その態度は、なおさら無礼ですわ。呼び捨てでも構いませんのよ」
「ムリムリムリです! マージョリーさまを敬称なしでお呼びするなんて」
「仲間はみんな、わたくしを呼び捨てですわ。階級差など関係なしで」
その方が、伝達や連絡が手短で済む。また、戦場に身分差なんて関係ない。強ければ、オールオッケーなのだ。
マージョリーたんは伯爵令嬢だが、リーダーであるゴドウィンは侯爵なので、当然ではあるのだが。
「わたしなんかを、仲間に入れてくださるんですか」
「はい。わたくしと共に戦闘へ参加する。これが、孤児たちの面倒をみる条件ですわ」
「わたしが、戦う」
「本来、民間人であるあなたに戦闘させるなど、非常識もいいところなのですが、背に腹は変えられませんわ」
魔王を相手にした戦いで、人間族は劣勢を強いられている。明らかに、戦力不足だった。
「怖いですか? わたくしが、見ていないと思って?」
「えっ」
マージョリーたんの射抜くような視線に、イーデンちゃんが硬直する。
「あなた、ゴブリン程度なら、肉弾戦でどうにかしていらしたわよ」
「いやあれは、とっさの行動でして!」
「ですが、戦えていましたわ。それにあなたは、ワイバーン相手にも逃げませんでした。その勇気称賛に値します。一緒に戦っていただけませんか?」
「……足を引っ張らぬよう、全力を尽くします」
マージョリーたんの説得がきいたのか、イーデンちゃんも覚悟を決めたようだ。
「ところでダテさま、あなたには色々とお聞きしたいことがございます。が、今は色々ありすぎて疲れています。後日、専門家の元へ連れていきますので、そのときにお話ください」
『はーい』
私は承諾し、ゼットさんも同意した。
今は、体を休めるときかもね。
寝室はイーデンちゃんが「どうしても」というので、別々に。まあ、あんな美人お嬢様が隣りにいたら、まともに眠れないよねー。
「ダテさんっ、寝る前に一つだけ。わたしにも、戦闘技術が備わるというわけですね?」
『そうだよ。意外かもしれないけど』
まあ、覚醒のタイミングは私がぶっ潰させてもらったけど。
とはいえ、ちゃんと対策はしている。
ワイバーンのドロップアイテムによって。
くううう! ひとまず、ミッションクリアーッ!
マージョリーたんを救えたことで、シナリオ改変が容易にできる!
はず! おそらく多分絶対!
でもあそこで、黒幕登場か。油断できないね。
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