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第一章 壁役令嬢 ~ここはわたくしに任せて先へお行きなさい!~

第4話 盾スキル・【魔神剣】

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 なんだか、身体がムズがゆい。なにか、新しい力が備わったっぽいけど。

「ダテさま!?」

『わわわ、なにこれなにこれ!?』

 シールドに、光の筋が入る。Zの字に曲がりくねった、大きな剣へと変形した。刃はなく、青く光る魔力の刃が剣の周囲を覆っている。

「なんですの、これは!?」

『自分でもビックリだよ!』

 私、盾じゃないの!?
 しかもマージョリーたん、アニメ立ちの構えをしているし! 教えてないよね!?

「ダテさま、どういう原理ですの? 盾が、剣に変わるなんて」

『私も、レベルアップしたんだよ。おかげで、力が一つ、開放されたんだ』

 しかしこれで、攻撃手段が増えた。

「とはいえ、相手は逃げられてしまいました。どういたしますか?」

『決まってんじゃん。攻撃だああああ!』

 背中を向けているワイバーンに、私は剣を振る。マージョリーたんの身体を拝借して。

「えええええ?」

『投げてください。合図をお願います』

「では、参りますわよダテさま」

『もっとできるでしょ!?』

 そんなしなびた合図では、ブッ飛べない!

「……飛んでいきなさい、この豚あ!」

 ああ、いいですねえ!

『よっしゃあああああああ!』

 私は、勢いよく飛んでいく。

『くぅたぁばぁれえええええ!』

 光の刃が、飛んでいるワイバーンの翼を切断する。

『からのおおおおお!』

 私はブーメランのように、軌道を修正した。

 マージョリーたんは私の意図に気づいていたのか、ワイバーンの元へと跳躍している。盾を蹴り上げ、軌道を変えた。

 私は、ガーターベルトを穿いたお御足とドッキングする。

「お逝きなさい!」

 カカト落としの要領で、マージョリーたんがワイバーンの脳天へと盾付きの足を振り下ろす。

 盾から飛び出ている光の刃が、翼竜の身体を両断した。巨体が落下するより早く。

 マージョリーたんの足元に、ドロップアイテムが。

「ドロップアイテムですわ。【回復の杖:小】ですわね」

 所持しているだけで、ヒーラーでなくても対象の体力・魔力を回復できるアイテムだ。【治療の杖】なら体力を、【瞑想の杖】なら魔力のみを回復する。こちらは、両方を回復できるほぼチート的な道具だ。

 初期ではまず、手に入らない。私だって、ドロップしたことはなかった。

 これが、勝利の鍵だ。

「……っ!」

 強敵の気配を、ビリビリと感じた。

 マージョリーたんも、気づいたみたい。

『あれは!』

 真っ黒い風船のような球体が、空に浮かんでいた。

 風船が割れて、髪の長い男性が浮かぶ。術師とも、魔法剣士とも取れる出で立ちだ。髪も服も、マントも黒い。中二病全開の男だった。

「なんと。ツイン・ワイバーンを倒すとは」

 こんな序盤から、コイツが?
 いきなり、黒幕参上とか。シナリオライターめ、いよいよマージョリーたんを殺しに来たか?

「まあよい。あの少女は必ず手に入れる。貴様らは負けるのだ」

 魔法剣士風の男性は、姿を消す。

「ダテさま、今の男性は?」

『この世界の黒幕。でも今は倒せないみたい』

 アレは、魔法で作った立体映像だった。本体は別の場所にいるのだ。
 まあ、黒幕だもん。そう簡単に、姿を見せないよね。

「おケガはありませんか? わたくしはマージョリーと申します。マージョリー・ジンデル」

 マージョリーたんの名乗りを受けて、イーデンちゃんはボソッと「ジンデル……あの、壁役令嬢」とつぶやく。小さな孤児院にまで、伝説は語り継がれているとは。

「はい。わたしはイーデンです。この孤児院で働いています」

 壊れた孤児院を見て、マージョリーたんは手を差し伸べる。

 ようやく、パーティと合流した。

「マージョリー、無事だったか! その子は? 孤児じゃないのか?」

 リーダーの剣士が、マージョリーたんに声をかける。彼らも無事だったようだ。

「詳しいお話は後です、ゴドウィン! 急用ができました。戦果報告は後日になさって!」

 有無を言わさず、マージョリーたんはリーダーであるゴドウィンを追い払う。

「待てよ、戦局を見極めねえと」

「敵影はないみたいだけど」

 荒っぽい格好のドワーフと、メカクレ魔術師が、マージョリーたんに反論した。 

「見てくれば、わかりますでしょ!」

 戦場だった街を指差し、マージョリーたんは馬車に乗り込む。

「事後処理は、大事な用事です。おイヤなら、他の方に任せればいいでしょうに」

「わかったよ。悪かったな」

 ドワーフたちも、マージョリーたんの圧には黙るしかない。

「責めているわけではございません。あなたのところも、戦闘は苛烈でしたでしょう。お疲れ様でした」

「お、おう」

 リーダー剣士ゴドウィンも、引き下がった。

 マージョリーたんを迎えに、馬車が来る。護衛に騎士が一人、ついてきていた。

 孤児院から脱出した子どもたちとも、合流する。すごい数だ。この馬車には、乗り切らない。

「我々は専用の馬車で帰るとしても、子どもたちを歩かせるわけにも……あら」

 マージョリーたんの側に、転倒した荷馬車が。積荷はリンゴのようだ。
 初めて見るかのように、子どもたちはリンゴをまじまじと見つめている。
 はあ、と、マージョリーたんはため息をつく。

「店主、このリンゴはどちらまで?」

「王都です」

「ではすべていただきます。我々が運びますわ。ギャレン」

 召使いに頼んで、青果店の店主に銀貨を渡した。

「積み荷のリンゴはすべて買い取ったので、好きに召し上がりなさい」

 子どもたちに指示を出して、マージョリーたんは召使いに荷馬車を任せる。
 騎士の運転する馬車に、マージョリーたんが乗り込んだ。

「では、わたしは孤児院に戻ります。お気をつけて」

「何を言っているのです? あなたもうちにいらっしゃい。面倒を見ましょう」

 マージョリーたんが、イーデンちゃんに手を差し伸べる。さも、当然のように。
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