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第六章 ビーチでお嬢様とドキドキ
第37話 お嬢様のイトコ
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「どうもー。いらっしゃい。ようこそ我が別荘へ」
萌々果さんのイトコである幸嗣さんが、オレたちを迎え入れる。
年齢は、三〇代後半くらいだろうか。アロハの下は、かなりの筋肉質である。
「どうも。八代 信郎です」
オレを含めた全員が、幸嗣さんにあいさつをした。
「ここは、幸嗣さんの別荘なんですね?」
「そうそう。好きに使ってくれ」
「バイクは、どうなさったのです?」
たしか、バイクを購入したのは、幸嗣さんのはずだ。
「依頼人は俺だけど、メインで乗るのはオヤジのほうなんだ」
趣味用のバイクが欲しかったが、ネットに詳しくないため、幸嗣さんを頼ったそうである。
「今日は、ここで寝泊まりするんだよな? 楽しんでいってよ」
「ありがとうございます」
オレたちは、カレー作りを本格的に始めた。
「アサギちゃん、玉ねぎ、大丈夫?」
「問題ない」
萌々果さんが加わって、莉子と倉田 浅葱と三人で野菜を切る。
運転から帰ってきたばかりの是枝には、休んでもらう。
だが手持ちぶさたなのか、是枝は皿の用意を開始する。
オレは火起こしを。
真庭さん夫妻は、料理を手伝わない。萌々果さんがアレコレしたがるので、今日はなにもしないそうだ。ホントに、林間学校みたいな感じだな。
「私は、お風呂の用意をいたします。幸嗣さん、あとは見ていてくださいね」
「おうよ」
「ではみなさんを、お願いします」
真庭さんが、その場を離れた。
「どうだ、火の調子はいけそうか?」
「火起こしは、何度か」
薪をくべて、わずかな空気穴を作って、火種に風を送る。
「おお、手慣れてるな。そういうための助っ人として、呼ばれたんだが」
幸嗣さんが、手のひらサイズの小さな鉄製の筒を取り出す。ファイアスターターだ。
「こいつは、いらないな」
「ありがとうございます。なんとかなりました」
「いいねぇ。萌々果ちゃんが惚れるのも、わかる」
「いえいえ。オレと萌々果さんは、そんなんでは」
「そんな感情を持っていない男を、プライベートの別荘になんか連れてこないと思うけどなー」
幸嗣さんが、オレをからかう。
「違いますって」
照れをごまかすため、オレは米を研ぐ作業に取り掛かった。
「アハハ。まあ、ムキになりなさんな。でも親戚としては、うれしいんよ。萌々果ちゃんに、こんなたくさんの味方ができてさ」
「そこまで、黄塚家ってよくない状況なんですか?」
「ああ、うん」と、幸嗣さんはうなずく。
「時代が変わったから、自分たちも変わらないといけないってのは、わかってるんだ。黄塚だって、バカじゃない。けど臨機応変に意識改革するには、黄塚はデカくなりすぎた」
昔の慣習に囚われて、つい現状維持を選択してしまう。萌々果さん一人が「変われ」と主張しても、響かないのかもしれない。
「俺と萌々果ちゃんの曽祖父が、どうして萌々果ちゃんのオヤジさんと伯母さんの結婚を許さなかったと思う?」
「変化を、嫌ったんですよね?」
「違うんだ。単に曽祖父は、孫を奪われると思ってさみしかったんだよ」
オレは、米を研ぐ手を止めた。
曽祖父が遺した財産の一部は、萌々果さんの両親にもちゃんと行き渡ったそうである。
「死ぬ直前まで、自分にそんな感情があったって、わからなかったみたいだけどね」
幸嗣さんが、当時を振り返りながら薪を足す。
「とにかくさ、黄塚は今、変革を求められている。古い貴族主義から脱皮する、準備に入ってるっぽい。今回のコンベンションでもさ、そういう話し合いになるんじゃないかって、俺は期待してるんだ」
話し終わった辺りで、飯ごうによる米の浸水を終える。
「しっかり、萌々果ちゃんを支えてくれよな。キミなら、大丈夫だ」
「はい」
「よっしゃ。じゃあ、米を炊きますか」
幸嗣さんが、その場を離れた。
オレは飯ごうとカレー鍋をセットして、野菜と肉をぶち込んだ。自衛隊風ポークカレーである。
焚き火で料理をしているためか、さっそく調理器具にススがへばりつく。
萌々果さんは「それが味になるから」と、このままいくことに。
萌々果さんが、ルーを投入した。業者が利用するスーパーで買ってきた、市販のルーだ。
市販のモノは、このままで味が完成している。チョコや月桂樹などの、隠し味は足さない。
「本当はスパイスから作って、コーヒー牛乳で味を整えるんです。けど、手間ひまがかかりすぎても、キャンプって感じはしませんので」
オレたちのために、あえて時間のかかる凝った料理にはしなかったそうだ。
「なにより、みんなで作るのなら、市販だってきっと美味しいですよ」
「そうだよな」
真庭さんが戻ってきたところで、いただきます。
「うんま!」
外で食うカレーは最高にうまいと言うが、林間学校で作ったものよりはるかにうまい。
「市販のルーで、ここまでできるのか」
「ポテンシャルが、すさまじいです」
萌々果さんも、満足げだ。
「いやあ。最高だな。米が足らんかもしれん。もうちょい炊いていいか?」
幸嗣さんが、子どものようにおかわりをする。自前の飯ごうを持ち出して、さらに米を炊き始めた。普段はもっと、おいしいものを食べていると思うのだが。
萌々果さんのイトコである幸嗣さんが、オレたちを迎え入れる。
年齢は、三〇代後半くらいだろうか。アロハの下は、かなりの筋肉質である。
「どうも。八代 信郎です」
オレを含めた全員が、幸嗣さんにあいさつをした。
「ここは、幸嗣さんの別荘なんですね?」
「そうそう。好きに使ってくれ」
「バイクは、どうなさったのです?」
たしか、バイクを購入したのは、幸嗣さんのはずだ。
「依頼人は俺だけど、メインで乗るのはオヤジのほうなんだ」
趣味用のバイクが欲しかったが、ネットに詳しくないため、幸嗣さんを頼ったそうである。
「今日は、ここで寝泊まりするんだよな? 楽しんでいってよ」
「ありがとうございます」
オレたちは、カレー作りを本格的に始めた。
「アサギちゃん、玉ねぎ、大丈夫?」
「問題ない」
萌々果さんが加わって、莉子と倉田 浅葱と三人で野菜を切る。
運転から帰ってきたばかりの是枝には、休んでもらう。
だが手持ちぶさたなのか、是枝は皿の用意を開始する。
オレは火起こしを。
真庭さん夫妻は、料理を手伝わない。萌々果さんがアレコレしたがるので、今日はなにもしないそうだ。ホントに、林間学校みたいな感じだな。
「私は、お風呂の用意をいたします。幸嗣さん、あとは見ていてくださいね」
「おうよ」
「ではみなさんを、お願いします」
真庭さんが、その場を離れた。
「どうだ、火の調子はいけそうか?」
「火起こしは、何度か」
薪をくべて、わずかな空気穴を作って、火種に風を送る。
「おお、手慣れてるな。そういうための助っ人として、呼ばれたんだが」
幸嗣さんが、手のひらサイズの小さな鉄製の筒を取り出す。ファイアスターターだ。
「こいつは、いらないな」
「ありがとうございます。なんとかなりました」
「いいねぇ。萌々果ちゃんが惚れるのも、わかる」
「いえいえ。オレと萌々果さんは、そんなんでは」
「そんな感情を持っていない男を、プライベートの別荘になんか連れてこないと思うけどなー」
幸嗣さんが、オレをからかう。
「違いますって」
照れをごまかすため、オレは米を研ぐ作業に取り掛かった。
「アハハ。まあ、ムキになりなさんな。でも親戚としては、うれしいんよ。萌々果ちゃんに、こんなたくさんの味方ができてさ」
「そこまで、黄塚家ってよくない状況なんですか?」
「ああ、うん」と、幸嗣さんはうなずく。
「時代が変わったから、自分たちも変わらないといけないってのは、わかってるんだ。黄塚だって、バカじゃない。けど臨機応変に意識改革するには、黄塚はデカくなりすぎた」
昔の慣習に囚われて、つい現状維持を選択してしまう。萌々果さん一人が「変われ」と主張しても、響かないのかもしれない。
「俺と萌々果ちゃんの曽祖父が、どうして萌々果ちゃんのオヤジさんと伯母さんの結婚を許さなかったと思う?」
「変化を、嫌ったんですよね?」
「違うんだ。単に曽祖父は、孫を奪われると思ってさみしかったんだよ」
オレは、米を研ぐ手を止めた。
曽祖父が遺した財産の一部は、萌々果さんの両親にもちゃんと行き渡ったそうである。
「死ぬ直前まで、自分にそんな感情があったって、わからなかったみたいだけどね」
幸嗣さんが、当時を振り返りながら薪を足す。
「とにかくさ、黄塚は今、変革を求められている。古い貴族主義から脱皮する、準備に入ってるっぽい。今回のコンベンションでもさ、そういう話し合いになるんじゃないかって、俺は期待してるんだ」
話し終わった辺りで、飯ごうによる米の浸水を終える。
「しっかり、萌々果ちゃんを支えてくれよな。キミなら、大丈夫だ」
「はい」
「よっしゃ。じゃあ、米を炊きますか」
幸嗣さんが、その場を離れた。
オレは飯ごうとカレー鍋をセットして、野菜と肉をぶち込んだ。自衛隊風ポークカレーである。
焚き火で料理をしているためか、さっそく調理器具にススがへばりつく。
萌々果さんは「それが味になるから」と、このままいくことに。
萌々果さんが、ルーを投入した。業者が利用するスーパーで買ってきた、市販のルーだ。
市販のモノは、このままで味が完成している。チョコや月桂樹などの、隠し味は足さない。
「本当はスパイスから作って、コーヒー牛乳で味を整えるんです。けど、手間ひまがかかりすぎても、キャンプって感じはしませんので」
オレたちのために、あえて時間のかかる凝った料理にはしなかったそうだ。
「なにより、みんなで作るのなら、市販だってきっと美味しいですよ」
「そうだよな」
真庭さんが戻ってきたところで、いただきます。
「うんま!」
外で食うカレーは最高にうまいと言うが、林間学校で作ったものよりはるかにうまい。
「市販のルーで、ここまでできるのか」
「ポテンシャルが、すさまじいです」
萌々果さんも、満足げだ。
「いやあ。最高だな。米が足らんかもしれん。もうちょい炊いていいか?」
幸嗣さんが、子どものようにおかわりをする。自前の飯ごうを持ち出して、さらに米を炊き始めた。普段はもっと、おいしいものを食べていると思うのだが。
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