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第五章 幼なじみの絵師が、同僚に!?
第32話 お嬢様と、Vデビュー!?
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莉子のイラストが、できあがった。
ラフでもすさまじい存在感だったが、清書となるとより完成度が増している。令和風アイドルというフワッとしたイメージが、具体的に描写されていた。
「お見事です、莉子さん」
「萌々果ちゃんの指示がよかったんだよ」
イラストのできに、萌々果さんも満足げだ。
とはいえ、莉子は驕ったりしない。動かしづらいパーツがあるかなど、さらに細かいチェックなどを要求する。
最終的にモデリング担当のスタッフがきめ細かいチェックを入れて、数日でサンプルキャラクターはすべて完成した。
「いよいよ、VTuberデビューです」
「ゾッとする。これ、本当にこの語尾で話さないといけないか?」
台本をチェックして、少し恥じらいが出てくる。
「生放送ではないので、安心してください。それにノブローくん、お客さんは敵ではありません」
「そうだな。では、よろしく頼む」
「参りましょう」
収録が始まった。
『みなさん、こんにちは。はじめまして。【でんぱでんのーちゃん・カッコカリ】です。【でのちゃん】とお呼びくださいね』
『アシスタントの、【ジャムろん】だニャン』
オレが語尾を言うと、莉子がプッと笑う。声が入らないように、口を押さえている。
『今日は【ねころんJAM】のアバター使用方法の解説動画に起こしくださって、ありがとうございます』
『ありがとにゃん』
未経験ながら、萌々果さんもオレもできるだけキャラクターになりきって収録する。
『アバターですが、こちらは無料で貸し出せます』
『ただし、しょうゆ……商用利用はやめてにゃん』
オレは一旦、マイクから顔を離す。商用利用って、読みにくいな。
「あ、待った。噛んだ」
「このまま行きます。えっと。このやりとりは、カットでお願いします」
オレがトチっても、そのまま録画は続いた。
二人とも完全な素人しゃべりだが、大丈夫だろうか?
『最初はレンタルアバターを使って、V活動体験を可能にするにゃん。ゆくゆくはデビューしてみたいとおっしゃるユーザー様には、アバターを作成するにゃん。ただし有料にゃん。追加料金を払ってくれたら』
『また、一度引退なされて再デビューしたいという方もどうぞ。転生準備用の仮アバターを、ご用意していますよ』
萌々果さんは棒読みながらも、堂々と進めていく。あれだけ濃いキャラ設定をしておきながら、それっぽい素振りも見せない。台本を整理していくうちに、解説動画に盛った設定は不要と考えたからだ。
『未経験の人でも、安心だにゃん』
『プロ声優や、実際にVでご活躍されている方から、有料で指導を受けられますよ。おそらく我々より高いスキルで、収録や配信が可能になるかもですよ』
『プランなどは、HPを確認してくれにゃーん』
オレも語尾に気をつけているが、ネコキャラっぽい役作りなんてできない。そんな余裕がないのだ。
「プロに頼んだほうがよかったのでは」とも、オレは萌々果さんに提案した。
しかし、萌々果さんは自分たちでやろうという。プロに収録してもらうと、「結局これくらいのトークスキルが必要なのでは」とユーザーが身構える。
「誰でも使えるツール」を目指している、萌々果さんのビジョンに反するのだ。
なのでオレと萌々果さんは、Vの中の人である倉田の指導も受けていない。ユーザーと同じ条件で、ここまでできるのだと証明するためだ。利用者は、レクチャーなんて受けられない。オレたちがしっかり準備をして収録をしたら、「指導なしでもできる」と利用者が勘違いする。で、実際のプレイとのギャップに悩まされてしまう。
素人くさいほうが「こんなんでいいんだ」という自信と、「練習次第でもっとよくなる」との向上心が出てくるものだ。
新規事業の輪を広げるには、素人が多いほうがいい。ビジネスでは定説のことだ。
『それでは、みなさんの登録、お待ちしています』
『最後まで見てくれて、ありがとにゃーん』
地獄のような時間が、ようやく終わりを迎えた。
「お疲れさまでした」
萌々果さんが、台本を閉じる。
「はー」と、オレはため息をついた。エアコンをしているのに、汗がどっとシャツの背中に滲んでいる。
「終始、声が震えっぱなしだった」
こんな大変な作業を、倉田はやっていたんだな。
マイクの前に座るだけで、緊張が走った。
これをずっと維持し続けるってのは、相当なメンタルが必要だなと。
「もう一度、やりますか?」
「いや。オレは一度で十分だな」
こんな経験は、一回やればいい。緊張感が、尋常ではなさすぎる。ボイスチェンジャーを使っているのに、声バレしてしまうのではとずっと身構えていた。
「売れるといいな」
「いいですねぇ。莉子さんのイラストがいいから、きっと利用者が増えると思いますっ」
黄塚グループの知名度のおかげか、わずか数週間で【ねころんJAM】の登録者数が十万人を超えている。
新規参入してきたVの数も、一気に増えているらしい。
ただし利用者の大半が、オレのやったタキシードネコのアバターを使いたがっているという。
ラフでもすさまじい存在感だったが、清書となるとより完成度が増している。令和風アイドルというフワッとしたイメージが、具体的に描写されていた。
「お見事です、莉子さん」
「萌々果ちゃんの指示がよかったんだよ」
イラストのできに、萌々果さんも満足げだ。
とはいえ、莉子は驕ったりしない。動かしづらいパーツがあるかなど、さらに細かいチェックなどを要求する。
最終的にモデリング担当のスタッフがきめ細かいチェックを入れて、数日でサンプルキャラクターはすべて完成した。
「いよいよ、VTuberデビューです」
「ゾッとする。これ、本当にこの語尾で話さないといけないか?」
台本をチェックして、少し恥じらいが出てくる。
「生放送ではないので、安心してください。それにノブローくん、お客さんは敵ではありません」
「そうだな。では、よろしく頼む」
「参りましょう」
収録が始まった。
『みなさん、こんにちは。はじめまして。【でんぱでんのーちゃん・カッコカリ】です。【でのちゃん】とお呼びくださいね』
『アシスタントの、【ジャムろん】だニャン』
オレが語尾を言うと、莉子がプッと笑う。声が入らないように、口を押さえている。
『今日は【ねころんJAM】のアバター使用方法の解説動画に起こしくださって、ありがとうございます』
『ありがとにゃん』
未経験ながら、萌々果さんもオレもできるだけキャラクターになりきって収録する。
『アバターですが、こちらは無料で貸し出せます』
『ただし、しょうゆ……商用利用はやめてにゃん』
オレは一旦、マイクから顔を離す。商用利用って、読みにくいな。
「あ、待った。噛んだ」
「このまま行きます。えっと。このやりとりは、カットでお願いします」
オレがトチっても、そのまま録画は続いた。
二人とも完全な素人しゃべりだが、大丈夫だろうか?
『最初はレンタルアバターを使って、V活動体験を可能にするにゃん。ゆくゆくはデビューしてみたいとおっしゃるユーザー様には、アバターを作成するにゃん。ただし有料にゃん。追加料金を払ってくれたら』
『また、一度引退なされて再デビューしたいという方もどうぞ。転生準備用の仮アバターを、ご用意していますよ』
萌々果さんは棒読みながらも、堂々と進めていく。あれだけ濃いキャラ設定をしておきながら、それっぽい素振りも見せない。台本を整理していくうちに、解説動画に盛った設定は不要と考えたからだ。
『未経験の人でも、安心だにゃん』
『プロ声優や、実際にVでご活躍されている方から、有料で指導を受けられますよ。おそらく我々より高いスキルで、収録や配信が可能になるかもですよ』
『プランなどは、HPを確認してくれにゃーん』
オレも語尾に気をつけているが、ネコキャラっぽい役作りなんてできない。そんな余裕がないのだ。
「プロに頼んだほうがよかったのでは」とも、オレは萌々果さんに提案した。
しかし、萌々果さんは自分たちでやろうという。プロに収録してもらうと、「結局これくらいのトークスキルが必要なのでは」とユーザーが身構える。
「誰でも使えるツール」を目指している、萌々果さんのビジョンに反するのだ。
なのでオレと萌々果さんは、Vの中の人である倉田の指導も受けていない。ユーザーと同じ条件で、ここまでできるのだと証明するためだ。利用者は、レクチャーなんて受けられない。オレたちがしっかり準備をして収録をしたら、「指導なしでもできる」と利用者が勘違いする。で、実際のプレイとのギャップに悩まされてしまう。
素人くさいほうが「こんなんでいいんだ」という自信と、「練習次第でもっとよくなる」との向上心が出てくるものだ。
新規事業の輪を広げるには、素人が多いほうがいい。ビジネスでは定説のことだ。
『それでは、みなさんの登録、お待ちしています』
『最後まで見てくれて、ありがとにゃーん』
地獄のような時間が、ようやく終わりを迎えた。
「お疲れさまでした」
萌々果さんが、台本を閉じる。
「はー」と、オレはため息をついた。エアコンをしているのに、汗がどっとシャツの背中に滲んでいる。
「終始、声が震えっぱなしだった」
こんな大変な作業を、倉田はやっていたんだな。
マイクの前に座るだけで、緊張が走った。
これをずっと維持し続けるってのは、相当なメンタルが必要だなと。
「もう一度、やりますか?」
「いや。オレは一度で十分だな」
こんな経験は、一回やればいい。緊張感が、尋常ではなさすぎる。ボイスチェンジャーを使っているのに、声バレしてしまうのではとずっと身構えていた。
「売れるといいな」
「いいですねぇ。莉子さんのイラストがいいから、きっと利用者が増えると思いますっ」
黄塚グループの知名度のおかげか、わずか数週間で【ねころんJAM】の登録者数が十万人を超えている。
新規参入してきたVの数も、一気に増えているらしい。
ただし利用者の大半が、オレのやったタキシードネコのアバターを使いたがっているという。
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