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第四章 ディレッタント、ヤンキーちゃんをプロデュース!?
第26話 ヤマダセーラⅡ世 移籍企画 第一弾
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倉田の屋敷には別館があり、そこをユースホステルとして解放しているそうだ。
庭に駐車してあったでかいバンは、利用者用の簡易バスらしい。
「富豪さんの家やったこのお屋敷を、商業利用させてもらってんねん」
かなり高額だったが、利用料はきちんと回収できているそうだ。
「運営は、お母様が?」
萌々果さんが聞くと、倉田の母親は首を横に振る。
「ちゃうよ。うちのオトン」
倉田の母方の親族は最初、先生と娘の結婚に反対だったらしい。
「ほいで駆け落ちや。苦労はしたけど、ようやく夫も目が出てきて。ほんで、このお屋敷をアシスタントの寮の代わりに買ったんよ」
今では、そこから自立していく外国人アシスタントも多いという。
「でも人が増えすぎて。そしたらオトンが、『退職して、暇すぎる』いうて、ユースホステルの管理人をやってくれるようになってん」
「お二人のご結婚を、内心では喜んでらっしゃるんですね」
「せやねん。ツンデレや。オトンは。男のツンデレなんて、需要ないのにな」
ガハハ! と、倉田の母親は笑う。
「いいご家庭ですね。ノブローくん」
「だよなぁ」
このお好み焼きも、めちゃうまい。
「だいたい昼食は伝統的に、お好み焼きを出すようにしてるんよ」
「どうしてでしょう?」
「キャベツがあかん宗教はないやん?」
宗教上の理由で、豚肉がダメな人は多い。その人には、別の肉で代用するか、海鮮好み焼きを作る。
「小麦粉があかん子の場合は、山芋とタマゴだけで繋いで作るねん」
ちゃんと、相手のことを考えているんだな。
「ユースホステル……いいですね。こういうのも」
萌々果さんのビジネスアンテナが、ピンと立った感じがした。
「それと、お好み焼き」
風習にならって、萌々果さんは鉄板から直にお好み焼きを食べていた。コテで小さく切って、口へ運ぶ。
「アイデアが、湧いた気がします」
「そうか」
「まだ形にはなっていません。後日にしましょう。今は、移籍第一弾の企画に専念するということで」
昼食をいただいて、この日はお開きとなる。
「考えていたことってのは?」
帰宅時、オレは萌々果さんに聞いてみた。
「ノブローくん。売り出す企画なんですが、『お好み焼きASMR』なんてのはどうでしょう?」
お好み焼きを作っている工程や、焼く音などを、録音して販売するのだ。
倉田演じる【ヤマダセーラⅡ世】が、事務所に移籍する第一弾としては、なかなかのアイデアではないだろうか。
「倉田さんには、関西弁を話してもらって」
「方言彼女ってやつか」
「はい。それで、距離感の近いナニワのちょいワル乙女に、お好み焼きを焼いてもらうという」
「いいな、それ。方言彼女ってのが気に入った」
こうして、倉田の出す商品の第一候補ができあがる。
後日、ヤマダセーラⅡ世の移籍が正式に決定した。
萌々果さんは黄塚グループを通してバーチャルアイドル事務所を正式に立ち上げ、運営することに。
移籍第一弾は、【OWO】の取材である。OWOにある昭和レトロな自販機を、特集するのだ。
全自動うどんの自販機に感動し、昭和の技術を堪能した。
『おおお。これはこれは』
おかしの自販機に、倉田がどよめく。ヤマダセーラを演じるのではなく、素の声を発した。
『……コホン。えーこちら、昭和末期に販売されていた、お菓子でございます』
一度咳払いをして、倉田はヤマダセーラの口調を取り戻す。
『これはねー。リアル父が大好物でして、欠かさなかったですねぇ。こちら、もう製造元が倒産して、販売停止になっていたと思っていたんですが。おお、復刻版ですね』
別の会社が事業を引き継いで、この菓子を復活させたという。
『まるでワタクシのパッパみたく、劇的復活を遂げたのでありましょう。これは、記念に買っておきましょう。二つ買っておきますかね』
倉田は、復刻版のお菓子を二個買った。リアルもバーチャルも、父親は漫画家先生なんだよな。だが、それを教えてしまうと、リアル割れしてしまう。
撮影を終えて、オレたちも自販機ごはんでランチを取る。
前は萌々果さんと二人で、ラーメンとうどんをシェアし合った。今回はカレーをいただく。レトルトは最新のものだが、昭和自販機で食うとまた別の趣がある。
「このお菓子は、今でも父の好物なんだ」
漫画家になった当時から、このお菓子ばかり食べていたそうだ。
「復活して、よかったな」
「ああ。お菓子も父も、どちらもファンに愛されていたんだな」
倉田に、お好み焼きASMRの話を切り出す。
「いい話だが、ちょっと考えさせてくれ」
だが、倉田の方から「待った」がかかる。
「どうした? イヤなのか?」
「イヤってわけじゃない。関西弁も、引っ越す前は話していたから、問題はあらへん」
関西弁で、倉田が語りだした。うん。イントネーションも完璧である。
だとしたら、何が問題なのか。
「どうしました? 倉田さん?」
「私は、男性と交際したことがない」
あちゃあ。イメージができないと。
「そこで、黄塚さんと八代。二人に見本を見せてほしいのだ」
いや、その発想はおかしい。
庭に駐車してあったでかいバンは、利用者用の簡易バスらしい。
「富豪さんの家やったこのお屋敷を、商業利用させてもらってんねん」
かなり高額だったが、利用料はきちんと回収できているそうだ。
「運営は、お母様が?」
萌々果さんが聞くと、倉田の母親は首を横に振る。
「ちゃうよ。うちのオトン」
倉田の母方の親族は最初、先生と娘の結婚に反対だったらしい。
「ほいで駆け落ちや。苦労はしたけど、ようやく夫も目が出てきて。ほんで、このお屋敷をアシスタントの寮の代わりに買ったんよ」
今では、そこから自立していく外国人アシスタントも多いという。
「でも人が増えすぎて。そしたらオトンが、『退職して、暇すぎる』いうて、ユースホステルの管理人をやってくれるようになってん」
「お二人のご結婚を、内心では喜んでらっしゃるんですね」
「せやねん。ツンデレや。オトンは。男のツンデレなんて、需要ないのにな」
ガハハ! と、倉田の母親は笑う。
「いいご家庭ですね。ノブローくん」
「だよなぁ」
このお好み焼きも、めちゃうまい。
「だいたい昼食は伝統的に、お好み焼きを出すようにしてるんよ」
「どうしてでしょう?」
「キャベツがあかん宗教はないやん?」
宗教上の理由で、豚肉がダメな人は多い。その人には、別の肉で代用するか、海鮮好み焼きを作る。
「小麦粉があかん子の場合は、山芋とタマゴだけで繋いで作るねん」
ちゃんと、相手のことを考えているんだな。
「ユースホステル……いいですね。こういうのも」
萌々果さんのビジネスアンテナが、ピンと立った感じがした。
「それと、お好み焼き」
風習にならって、萌々果さんは鉄板から直にお好み焼きを食べていた。コテで小さく切って、口へ運ぶ。
「アイデアが、湧いた気がします」
「そうか」
「まだ形にはなっていません。後日にしましょう。今は、移籍第一弾の企画に専念するということで」
昼食をいただいて、この日はお開きとなる。
「考えていたことってのは?」
帰宅時、オレは萌々果さんに聞いてみた。
「ノブローくん。売り出す企画なんですが、『お好み焼きASMR』なんてのはどうでしょう?」
お好み焼きを作っている工程や、焼く音などを、録音して販売するのだ。
倉田演じる【ヤマダセーラⅡ世】が、事務所に移籍する第一弾としては、なかなかのアイデアではないだろうか。
「倉田さんには、関西弁を話してもらって」
「方言彼女ってやつか」
「はい。それで、距離感の近いナニワのちょいワル乙女に、お好み焼きを焼いてもらうという」
「いいな、それ。方言彼女ってのが気に入った」
こうして、倉田の出す商品の第一候補ができあがる。
後日、ヤマダセーラⅡ世の移籍が正式に決定した。
萌々果さんは黄塚グループを通してバーチャルアイドル事務所を正式に立ち上げ、運営することに。
移籍第一弾は、【OWO】の取材である。OWOにある昭和レトロな自販機を、特集するのだ。
全自動うどんの自販機に感動し、昭和の技術を堪能した。
『おおお。これはこれは』
おかしの自販機に、倉田がどよめく。ヤマダセーラを演じるのではなく、素の声を発した。
『……コホン。えーこちら、昭和末期に販売されていた、お菓子でございます』
一度咳払いをして、倉田はヤマダセーラの口調を取り戻す。
『これはねー。リアル父が大好物でして、欠かさなかったですねぇ。こちら、もう製造元が倒産して、販売停止になっていたと思っていたんですが。おお、復刻版ですね』
別の会社が事業を引き継いで、この菓子を復活させたという。
『まるでワタクシのパッパみたく、劇的復活を遂げたのでありましょう。これは、記念に買っておきましょう。二つ買っておきますかね』
倉田は、復刻版のお菓子を二個買った。リアルもバーチャルも、父親は漫画家先生なんだよな。だが、それを教えてしまうと、リアル割れしてしまう。
撮影を終えて、オレたちも自販機ごはんでランチを取る。
前は萌々果さんと二人で、ラーメンとうどんをシェアし合った。今回はカレーをいただく。レトルトは最新のものだが、昭和自販機で食うとまた別の趣がある。
「このお菓子は、今でも父の好物なんだ」
漫画家になった当時から、このお菓子ばかり食べていたそうだ。
「復活して、よかったな」
「ああ。お菓子も父も、どちらもファンに愛されていたんだな」
倉田に、お好み焼きASMRの話を切り出す。
「いい話だが、ちょっと考えさせてくれ」
だが、倉田の方から「待った」がかかる。
「どうした? イヤなのか?」
「イヤってわけじゃない。関西弁も、引っ越す前は話していたから、問題はあらへん」
関西弁で、倉田が語りだした。うん。イントネーションも完璧である。
だとしたら、何が問題なのか。
「どうしました? 倉田さん?」
「私は、男性と交際したことがない」
あちゃあ。イメージができないと。
「そこで、黄塚さんと八代。二人に見本を見せてほしいのだ」
いや、その発想はおかしい。
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