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第二章 ビジホで働けと言われて、オタ活しかしていないんだが?
第11話 底辺職を差別しない
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オレは黄塚 萌々果に、後輩の是枝 夕貴には恋人がいると教えた。
「そうなんですか? お相手は?」
「バイク屋の跡取りで、今は大学生二回生。四歳年上の、幼なじみだってよ。おしどり夫婦みたいだから、あいつの学年で知らないやつはいねえよ」
是枝が卒業したら、結婚も視野にいれるんだろうな。
それくらい、恋人仲がいい。
「しかも、二人の仲を取り持ったのは、オレだぜ?」
「本当ですか?」
「おう。お互い、キャンプ好きだったそうでな。バイクでツーリングなんてどうよ、って是枝に教えたんだよ」
会話がなくても、焚き火を見ているだけでも、キャンプは楽しいものだ。
「ノブローさん、いいところがありますね」
「あまりにも、見ていて不憫だったからな」
「最初は、驚きました。てっきり、お二人は交際なさっているものだと」
思わず、オレはカレーを吹きそうになった。
「とんでもない。オレに交際相手なんていねえよ」
オレは、カレーを食べ終える。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
萌々果さんも、食事を終了した。
「あんたも、そういうのを食べるんだな?」
「大好物なんです。カレーは」
「学食のカレーなんて、とは考えないんだ、って思ってさ」
「食べます。めちゃ食べます」と、萌々果さんはモリモリとスプーンを進める。
「初めて学食って利用しましたが、ここのカレーはおいしいですね。誰でも食べられるように、辛味調味料は別皿により分けてくださっていますよ」
「いたずら防止のために、据え置きの一味もスパイスも低刺激なものばかりなんだ」
バカがふざけて、パスタ用のタバスコを先生の料理にふりかけたせいだ。
萌々果さんといっしょに、食器を下げに行く。
「ごちそうさまでした。いつもありがとうございます」
「ああ、どうも」
従業員さんたちも、萌々果さんの言葉に会釈する。
おそらくこの従業員さんは、萌々果さんが社長令嬢だと知らない。知っていたとしても、いち学生として平等に接するだろう。
そんな気がした。
パック飲料の自販機で、オレはコーヒー牛乳を、萌々果さんはいちご牛乳を買う。
「いいな。なかなか、できるもんじゃないぜ」
「学生たちを、支えてくださっていますからね」
萌々果さんは、従業員と自分とを、区別しない。
「わたしはFIREを達成していますが、実行に移そうとは思いません。量は減らしますが、仕事はしようと考えています」
なにも萌々果さんは、働きたくないわけではないそうだ。遊ぶ時間がほしいから、なるべく働かないようにするつもりだが。
「社会との接点を持つためか?」
「普通に働いている人たちと、思考を乖離させないためです」
聞くと、高学歴・高収益の人間は、「誰にでもできる仕事を差別する」傾向にあるという。
そんな仕事はやがてAIやロボットが行う作業であり、「底辺から抜け出す努力していない」と。
「わたしはそもそも、どんな仕事も底辺だと思っていません。物流・飲食・介護など、いろんな人がいて社会が成り立っていると思っていますので」
「ああ。そうだよな」
オレも、宅配の人には世話になっている。
「幼稚園にいたころ、クラスの子がファストフード店でおばあちゃんが働いていると話していました」
ところが、その幼稚園はVIPばかり通っていた。
「どうしてお嬢様の祖母が、ハンバーガー屋さん『なんか』で働いているのか」と、男子児童がからかったらしい。
「その子は、自分のおばあちゃんは笑顔を届ける仕事をしているのだと、反論しました」
今でも、そのおばあちゃんは同じ店で働いているという。店長になっても、店に立っているとか。
「わたしと取引しようとしていた人物が、コンビニの店員に罵声を浴びせたことがあったでしょ?」
「ああ。是枝が被害にあったやつな」
「ああは、なりたくないので」
いちご牛乳で、萌々果さんはノドを潤す。
「その人の上司が、理由を問い詰めたそうです。『社会の底辺なんだから、蔑んで当然だ。何がいけないのか』と、最終的に逆ギレしたそうです」
「最低なやつだな」
「はい。わたしもそう思います」
結局、そのオッサンはコンプラ違反で解雇されたらしい。
「たしかに仕事の九割は、替えがきくような労働ばかりです」
街中には、「教えられたら、誰でもできる仕事」ばかりで溢れている。
物流・飲食・介護……。きつい仕事ばかりだ。
「AIに仕事を取られる」とか、「ラットレースから脱却しろ」だとかいう話題が、定期的に上がっている。
「しかし、労働者を否定してはなりません。敬意を持って接しないと。彼らは、望んでその仕事についているケースもありますから」
「そうなのか」
「わたしも、知り合いのおばあちゃんがハンバーガー屋さんでレジに立っていますよ。笑顔がお客さんに愛されているそうでして」
「うん」
「とても、マネできないなーと思いました。尊敬します」
萌々果さんは、自分にできないことをわきまえている。
だから、そういう視点を持てるんだろう。
「しかしアメリカでは、そういう仕事は『誰でもできる簡単な仕事』として、差別をされるそうです」
「なぜ?」
「超絶なまでに、能力主義社会ですからね」
アメリカでは、八〇%近くの人が、「努力次第で人は成功できる」と思い込んでいる。成功者は努力した証だと思っているので、公共による社会保障が薄い。「怠け者が、より怠けるだけだから」と。
しかし、ヨーロッパは案外ユルいそうだ。
フランスは七割以上が、「人間の成功は、環境・運次第」だと考えている。
そのため、「成功者は、富を恵まれない社会に還元すべきだ」と思っていて、社会保障・医療保障が手厚い。
「勤勉といわれているドイツでさえ、五〇%の人が『成功の秘訣は、努力がすべてではない』と思っているんですよ」
「意外だな」
「働き過ぎは、たしかによくありません。身体を壊しちゃいますからね。ですが、どの仕事にも、誇りがあるんです。このおいしいいちご牛乳も、どこかの誰かが作ってくださったんです。お金や成果だけ見ていると、そういうのを忘れてしまいます」
「ゴミ捨てしてくれる人もいるよな」
「でしょ?」
オレと萌々果さんは、同時に空きパックをゴミ箱に捨てた。
「底辺職なんて、存在しないんですよ」
「そうなんですか? お相手は?」
「バイク屋の跡取りで、今は大学生二回生。四歳年上の、幼なじみだってよ。おしどり夫婦みたいだから、あいつの学年で知らないやつはいねえよ」
是枝が卒業したら、結婚も視野にいれるんだろうな。
それくらい、恋人仲がいい。
「しかも、二人の仲を取り持ったのは、オレだぜ?」
「本当ですか?」
「おう。お互い、キャンプ好きだったそうでな。バイクでツーリングなんてどうよ、って是枝に教えたんだよ」
会話がなくても、焚き火を見ているだけでも、キャンプは楽しいものだ。
「ノブローさん、いいところがありますね」
「あまりにも、見ていて不憫だったからな」
「最初は、驚きました。てっきり、お二人は交際なさっているものだと」
思わず、オレはカレーを吹きそうになった。
「とんでもない。オレに交際相手なんていねえよ」
オレは、カレーを食べ終える。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
萌々果さんも、食事を終了した。
「あんたも、そういうのを食べるんだな?」
「大好物なんです。カレーは」
「学食のカレーなんて、とは考えないんだ、って思ってさ」
「食べます。めちゃ食べます」と、萌々果さんはモリモリとスプーンを進める。
「初めて学食って利用しましたが、ここのカレーはおいしいですね。誰でも食べられるように、辛味調味料は別皿により分けてくださっていますよ」
「いたずら防止のために、据え置きの一味もスパイスも低刺激なものばかりなんだ」
バカがふざけて、パスタ用のタバスコを先生の料理にふりかけたせいだ。
萌々果さんといっしょに、食器を下げに行く。
「ごちそうさまでした。いつもありがとうございます」
「ああ、どうも」
従業員さんたちも、萌々果さんの言葉に会釈する。
おそらくこの従業員さんは、萌々果さんが社長令嬢だと知らない。知っていたとしても、いち学生として平等に接するだろう。
そんな気がした。
パック飲料の自販機で、オレはコーヒー牛乳を、萌々果さんはいちご牛乳を買う。
「いいな。なかなか、できるもんじゃないぜ」
「学生たちを、支えてくださっていますからね」
萌々果さんは、従業員と自分とを、区別しない。
「わたしはFIREを達成していますが、実行に移そうとは思いません。量は減らしますが、仕事はしようと考えています」
なにも萌々果さんは、働きたくないわけではないそうだ。遊ぶ時間がほしいから、なるべく働かないようにするつもりだが。
「社会との接点を持つためか?」
「普通に働いている人たちと、思考を乖離させないためです」
聞くと、高学歴・高収益の人間は、「誰にでもできる仕事を差別する」傾向にあるという。
そんな仕事はやがてAIやロボットが行う作業であり、「底辺から抜け出す努力していない」と。
「わたしはそもそも、どんな仕事も底辺だと思っていません。物流・飲食・介護など、いろんな人がいて社会が成り立っていると思っていますので」
「ああ。そうだよな」
オレも、宅配の人には世話になっている。
「幼稚園にいたころ、クラスの子がファストフード店でおばあちゃんが働いていると話していました」
ところが、その幼稚園はVIPばかり通っていた。
「どうしてお嬢様の祖母が、ハンバーガー屋さん『なんか』で働いているのか」と、男子児童がからかったらしい。
「その子は、自分のおばあちゃんは笑顔を届ける仕事をしているのだと、反論しました」
今でも、そのおばあちゃんは同じ店で働いているという。店長になっても、店に立っているとか。
「わたしと取引しようとしていた人物が、コンビニの店員に罵声を浴びせたことがあったでしょ?」
「ああ。是枝が被害にあったやつな」
「ああは、なりたくないので」
いちご牛乳で、萌々果さんはノドを潤す。
「その人の上司が、理由を問い詰めたそうです。『社会の底辺なんだから、蔑んで当然だ。何がいけないのか』と、最終的に逆ギレしたそうです」
「最低なやつだな」
「はい。わたしもそう思います」
結局、そのオッサンはコンプラ違反で解雇されたらしい。
「たしかに仕事の九割は、替えがきくような労働ばかりです」
街中には、「教えられたら、誰でもできる仕事」ばかりで溢れている。
物流・飲食・介護……。きつい仕事ばかりだ。
「AIに仕事を取られる」とか、「ラットレースから脱却しろ」だとかいう話題が、定期的に上がっている。
「しかし、労働者を否定してはなりません。敬意を持って接しないと。彼らは、望んでその仕事についているケースもありますから」
「そうなのか」
「わたしも、知り合いのおばあちゃんがハンバーガー屋さんでレジに立っていますよ。笑顔がお客さんに愛されているそうでして」
「うん」
「とても、マネできないなーと思いました。尊敬します」
萌々果さんは、自分にできないことをわきまえている。
だから、そういう視点を持てるんだろう。
「しかしアメリカでは、そういう仕事は『誰でもできる簡単な仕事』として、差別をされるそうです」
「なぜ?」
「超絶なまでに、能力主義社会ですからね」
アメリカでは、八〇%近くの人が、「努力次第で人は成功できる」と思い込んでいる。成功者は努力した証だと思っているので、公共による社会保障が薄い。「怠け者が、より怠けるだけだから」と。
しかし、ヨーロッパは案外ユルいそうだ。
フランスは七割以上が、「人間の成功は、環境・運次第」だと考えている。
そのため、「成功者は、富を恵まれない社会に還元すべきだ」と思っていて、社会保障・医療保障が手厚い。
「勤勉といわれているドイツでさえ、五〇%の人が『成功の秘訣は、努力がすべてではない』と思っているんですよ」
「意外だな」
「働き過ぎは、たしかによくありません。身体を壊しちゃいますからね。ですが、どの仕事にも、誇りがあるんです。このおいしいいちご牛乳も、どこかの誰かが作ってくださったんです。お金や成果だけ見ていると、そういうのを忘れてしまいます」
「ゴミ捨てしてくれる人もいるよな」
「でしょ?」
オレと萌々果さんは、同時に空きパックをゴミ箱に捨てた。
「底辺職なんて、存在しないんですよ」
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