カスハラ客を追い出してクビになったオレを、クラスのお嬢様が雇ってくれた。雇用条件は、彼女のオタ活を充実させること

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
10 / 46
第二章 ビジホで働けと言われて、オタ活しかしていないんだが?

第10話 是枝 夕貴

しおりを挟む
 是枝コレエダ 夕貴ユキが、オレを教室まで尋ねに来るとは。

 時刻は昼休み。学食まで、オレは是枝に誘導される。
 
「どうした、何事だ?」

 カレーライスを頼んで、オレは空いている席に着席した。

「何事って思ったのは、こっちですよ」

 是枝は、きつねうどんをオーダーしている。

八代ヤシロ先輩、バイトをやめさせられちゃったので。どうしているのかなって、ずっと心配していました」

 ああ、こいつとはバイト仲間だったもんな。

 コンビニで働くようになってから、始めてついた後輩が、是枝だった。
 接客は未だに微妙だが、それ以外はそつなくこなせる。

「コンビニは、どうした? まだ続けているのか?」

「辞めました。お店自体が、なくなってしまって」

「あそこ、不便だったもんな」

 コンビニなのに、立地条件が悪すぎて。

「それもありますが、店長の態度が悪すぎて」

 口コミによって、客足が遠のいたという。

「店員への処遇もひどい! って、ネットで書き込みもあったらしく」

「オレに味方がいたなんてな。いくら迷惑客でも、売り物潰して追っ払ったんだし」

「カスハラは、社会問題ですから」

 そんなこんなで、店自体がなくなったと。

「お前はどうしたんだ? バイクの整備代とか、どうやって稼いでるんだ?」

 あくまでも、オレはしらを切る。

 オレは以前、タンメン屋で是枝を見かけた。
 そのときは黄塚コウヅカ 萌々果モモカも一緒にいたので、隠れてしまったが。

 あのバイクには、見覚えがある。ナンバープレートまで、ちゃんと見ていないけど。

「ウーバーです」

 やっぱり。あのイカツいバイクは、是枝のもんだったかー。
 
 是枝は、趣味のバイクいじりのために、仕事をしている。
 自分が楽しむためにバイクに乗っているため、バイク屋で仕事はしない。自分の好みで、客のバイクをチューンしてしまうためだ。

「他にも、バイク便とかしていますよ。物流的な仕事なら、合っているなって」

「よかったじゃん。キャンプも行ってんのか?」

「はい。この間も、東の方へ温泉に。浴衣が可愛くて、予算オーバーだったんですが、つい買ってしまいました」

「……あのさ。なんでお前、オレと話すときだけ、どもらないんだ?」

 客相手だと、どもって話にならないのに。
 
「それはですね、接客を八代ヤシロ先輩から教わったからですよっ」

 自慢にならんぞ、それは。

「八代先輩とだったら、普通に話せるんですよ」

 オレ以外の客を相手にするときも、普通に接してくれよな。

「でもいいな。満喫してんな」

 ソロキャンプってのは、学生だと地味に思える。それを率先して、趣味にしているんだ。自分軸で生きているなぁ、って思えた。

「家族からは、からかわれていますよ。おばあちゃんか、って」
 
 こいつはこいつなりに、趣味を楽しんでいる。

「さしずめお前は、キャンプディレッタントだな。はたまた、バイクディレッタントか」

「ディレッタント?」

「オタクじゃねえが、趣味人ってこと」

「はあ」と、是枝はコクコクとうなずいた。

「キャンプに関しては、まだ素人以下ですね。道はなんとなく把握していますが、キャンプは失敗続きです。この間もうっかり防寒具を忘れて、あやうく凍死しかけました」

 その日はキャンプ泊をあきらめて、ビジネスホテルに泊まったとのこと。
 深夜料金だったので、割と金が飛んだたらしい。しかし、快適だったとか。

「黄塚グループって、泊まりやすいんですよね。女性専用のホテルなんかもあって、静かなんです。ホットレモンティーが、一杯だけ無料でいただけるんですよ」

「何杯も飲もうとすると、ドリンクバーセットの料金がいるんだよな」

「はい。そうです。どうして、知ってらっしゃるんで?」

「その黄塚グループが、バイト先なんだよ」

 はわわ、と、是枝が後ずさる。
 
「黄塚グループですか。あそこ、入社試験もシャレにならないくらい大変だって。また入った後も、研修とかでしんどいって聞きますが」

「本社の話だな。それは」

 是枝が話しているのは、超絶VIP富裕層を相手にする業務のことだ。

 一般客を相手にするなら、そこまで大変ではない。
 ベッドメイクなども大変だが、一度覚えたらそこまで面倒ではなかった。

「でも、いいなあ。八代先輩なら、絶対出世できますよ」
 
「いらんいらん。出世なんて」

 ヘタに出世して、忙しくなりたくない。労働意欲がないってわけではないが、バリバリ働くことには無関心である。忙しくなくてオタ活ライフを送ることが、オレの生きる目的だ。

「先輩って、そうでしたね。だから、投資にも手を出していて」

「うんうん」
 
「ところで、その黄塚グループのご令嬢が、転校してきたってお話ですが」

 やはり、話題に出るよなあ。
 
「おう、いるぞ。ウチのクラスだな」
 
「はわわ。眩しすぎて、ワタシでは近づけません」

「あんまり、ジロジロ見ないであげてくれな」

「そうですね。では、ワタシはここで」

 うどんを食べ終わって、是枝が席を立つ。

「先輩が元気そうで、よかったです」

「おうまたな」

 是枝は、食器を返しに行った。

 オレとすれ違ったことは、まったく意識していないようだが。
 だろうな。あいつは仕事とプレイベートはちゃんと分けるやつだし。

「こちら、よろしくて?」

「おうって、黄塚さん!?」

 さっきまで是枝が座っていた席に、オレと同じくカレーを頼んで、萌々果さんが座る。

「萌々果さん、やばくないか? いくらなんでも」

「席がここしかなくて。今の方が是枝さんですか?」

「そうだよ」

「ずいぶんと、距離が近いような気がしました。是枝さんとは、親密なご関係なんでしょうか?」

 なにを疑っているのか。

「はあ? 誤解すんな。あいつ、彼氏持ちだぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界なのに思ってたのとちがう?

イコ
恋愛
貞操逆転世界に憧れる主人公が転生を果たしたが、自分の理想と現実の違いに思っていたのと違うと感じる話。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...