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第二章 ビジホで働けと言われて、オタ活しかしていないんだが?
第8話 クラスメイトの家庭事情
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「よお、おはよ。信郎」
「よっす、賢」
教室に入るなり、斎藤 賢がオレに声をかけてくる。
「新しいバイト、どうよ」
「最高だな。超ホワイト」
「うわー。いいじゃん。うらやましい」
「ただ、スキルアップからは程遠いな」
ビジホ【OWO】で働き始めて、一週間が過ぎようとしていた。
仕事と言っても、一緒にゲームしたり、マンガを読んだり、映画を見たり。
そんなラクな仕事でいいのか、そもそも仕事と呼んでいいものか。
とにかくオレは、黄塚 萌々果といっしょに遊べばいいらしい。
もっとベッドメイクとか、覚えさせられるのかと思ったが。
レジ打ちくらいならできるし、雇ってくれてもいいのに。
「いいな。仕事がラクなら、俺もやってみてー」
「お前は別口で、バイトしてんじゃん。賢」
「あれは、親父の手伝い。しかも、いつ終了するかわからん」
賢の父親は、読書カフェを経営している。
書店でありながら、コーヒーやケーキを楽しめるのだ。
静寂を求められる場所だが、手作りチーズケーキは絶品らしい。
賢は接客も料理もできないので、売り物の整理とPOP作りが主な仕事である。
「書店員って、そんなにヤバイか?」
「言っておくけどな。電子書籍の脅威ってのは、想像している以上に大変だからな」
紙書籍のシェアは、年々電子に押され気味だという。昔は紙の本に需要はあったが、今ではそうでもないそうだ。
「でも、読書カフェっていいアイデアだと思うけどな」
「親父の書店をどうやって継続させるかって、おふくろが考えついたんだよ」
賢の住む商店街は、ほとんどがシャッター街になってしまった。
スペースを有効活用しようと、若い人たちが経営を始めたという。
それに感化されて、賢の家族も奮起したそうだ。隣の喫茶店を買い取って、カフェスペースを作ったのである。
それでも、子ども用の絵本を汚されないように、児童向けのスペースを設けるなど、工夫が耐えないらしい。
「ガキの声がうるせえって、使用をやめる人だっているんだ。難しいぜ。できればお子様は、ウチの隣にあるネコカフェに行ってもらいたいって、俺も内心では思っているんだよね」
「アハハ。ネットで書き込んだら、大炎上ものだな」
「ちげえねえ」
オレたちが話していると、莉子が「なんの話をしているの?」と尋ねてきた。
「賢の家が、大変だって話」
「ブックカフェでしょ? あそこ、大好きなのよね。いい本があるから、勉強に最適」
賢のブックカフェでは、ノートを開くことは禁止されている。
なので莉子の勉強ってのも、読書のことだ。
「あの辺は画材も置いてあるから、よく立ち寄るのよ。楽しすぎ。ウチの漫画研究部ごと、お世話になっているわ」
「莉子は昔から、利用しているよな」
「そうなの」
イラスト集を見ながらケーキを食っているときが、もっとも癒やされるときだという。
「あの商店街は、できればなくなってほしくないわね。あそこが潰れたら、一つ向こうのモールまで、電車を使わないとだし」
オレや萌々果さんと違って、莉子は「作る側」の人間だ。そのため、視点が普通のオタと違う。
「ネットじゃ、ダメなんだな?」
「タブレットとかは、ネットでもいいのよ。誰が使っても、特に変化はないし。でもお客からスケッチブックを頼まれると、手で描く必要があるから。アナログでも描けていないとね。となると、実物の画材を手に取って確かめないと」
がんばっているんだな。
「でも、なくなる心配はないと思うぜ。なんたって、あそこのプロジェクトの発起人は、黄塚さんの親らしいから」
「わあああ。それは、心強いわ。応援しちゃう」
しかし、黄塚 萌々果本人が席につくと、二人はサッと自分の席に戻ってしまう。
声を掛ける勇気は、さすがにないか。
たしかに、彼女の放つオーラは、次元が違いすぎる。
高嶺の花ってより、天空城に咲く花みたいだし。
で、OWOでの仕事が始まる。
フルタイム授業が始まったので、萌々果さんと会う機会はめっきり減ったが。
「っていう話を聞いたんだけど」
オレたちは、いつものファンタジーアクションゲームを楽しんでいる。
「それは、うちの父親が関係しています。父が出資して、若い人にチャンスを与えています。斎藤さんのおうちは、独自で展開なさっているみたいですが」
「買収したりとかは?」
「ありえないですね。商店の発展を、こちらが邪魔してはいけませんから」
町内会とも話し合って、商業展開しているそうだ。ただ、いくらこちらが合理的だと思っていても、経営方針に黄塚側の意見を押し付けない。納得行くまで、話し合いをするそうだ。
店主の高齢化による閉店など、どうしてもムリっぽいところだけを再開発するという。
「あそこの一番人気は、タンメン屋さんなんですよね」
「わかる! 最近は、いつも行列ができてて、常連でも食えねえ」
「テレビで紹介されてから、火が付いてしまって」
元々常連で十分に支えていた店で、店主もこじんまりと展開したかったそうだ。
しかしドラマの撮影現場になったことで、必要以上に繁盛してしまった。
そのため前店主が腰をやり、今は弟子が運営している。
弟子は若くて、まったく疲労が見えない。が、ワンオペでどこまでいけるか。
「あのドラマは、わたしも大好きでして。ぜひ食べてみたいですね」
萌々果さんの趣味って、マジで幅広いな。なんでも見ている印象がある。
「空いているタイミングを見計らって、行こうぜ。店主に迷惑がかからない程度の、時間帯で」
「はい。ぜひ参りましょう。というか……」
「どうした?」
「これって、デートのお約束ですねっ」
……ッスー。
「よっす、賢」
教室に入るなり、斎藤 賢がオレに声をかけてくる。
「新しいバイト、どうよ」
「最高だな。超ホワイト」
「うわー。いいじゃん。うらやましい」
「ただ、スキルアップからは程遠いな」
ビジホ【OWO】で働き始めて、一週間が過ぎようとしていた。
仕事と言っても、一緒にゲームしたり、マンガを読んだり、映画を見たり。
そんなラクな仕事でいいのか、そもそも仕事と呼んでいいものか。
とにかくオレは、黄塚 萌々果といっしょに遊べばいいらしい。
もっとベッドメイクとか、覚えさせられるのかと思ったが。
レジ打ちくらいならできるし、雇ってくれてもいいのに。
「いいな。仕事がラクなら、俺もやってみてー」
「お前は別口で、バイトしてんじゃん。賢」
「あれは、親父の手伝い。しかも、いつ終了するかわからん」
賢の父親は、読書カフェを経営している。
書店でありながら、コーヒーやケーキを楽しめるのだ。
静寂を求められる場所だが、手作りチーズケーキは絶品らしい。
賢は接客も料理もできないので、売り物の整理とPOP作りが主な仕事である。
「書店員って、そんなにヤバイか?」
「言っておくけどな。電子書籍の脅威ってのは、想像している以上に大変だからな」
紙書籍のシェアは、年々電子に押され気味だという。昔は紙の本に需要はあったが、今ではそうでもないそうだ。
「でも、読書カフェっていいアイデアだと思うけどな」
「親父の書店をどうやって継続させるかって、おふくろが考えついたんだよ」
賢の住む商店街は、ほとんどがシャッター街になってしまった。
スペースを有効活用しようと、若い人たちが経営を始めたという。
それに感化されて、賢の家族も奮起したそうだ。隣の喫茶店を買い取って、カフェスペースを作ったのである。
それでも、子ども用の絵本を汚されないように、児童向けのスペースを設けるなど、工夫が耐えないらしい。
「ガキの声がうるせえって、使用をやめる人だっているんだ。難しいぜ。できればお子様は、ウチの隣にあるネコカフェに行ってもらいたいって、俺も内心では思っているんだよね」
「アハハ。ネットで書き込んだら、大炎上ものだな」
「ちげえねえ」
オレたちが話していると、莉子が「なんの話をしているの?」と尋ねてきた。
「賢の家が、大変だって話」
「ブックカフェでしょ? あそこ、大好きなのよね。いい本があるから、勉強に最適」
賢のブックカフェでは、ノートを開くことは禁止されている。
なので莉子の勉強ってのも、読書のことだ。
「あの辺は画材も置いてあるから、よく立ち寄るのよ。楽しすぎ。ウチの漫画研究部ごと、お世話になっているわ」
「莉子は昔から、利用しているよな」
「そうなの」
イラスト集を見ながらケーキを食っているときが、もっとも癒やされるときだという。
「あの商店街は、できればなくなってほしくないわね。あそこが潰れたら、一つ向こうのモールまで、電車を使わないとだし」
オレや萌々果さんと違って、莉子は「作る側」の人間だ。そのため、視点が普通のオタと違う。
「ネットじゃ、ダメなんだな?」
「タブレットとかは、ネットでもいいのよ。誰が使っても、特に変化はないし。でもお客からスケッチブックを頼まれると、手で描く必要があるから。アナログでも描けていないとね。となると、実物の画材を手に取って確かめないと」
がんばっているんだな。
「でも、なくなる心配はないと思うぜ。なんたって、あそこのプロジェクトの発起人は、黄塚さんの親らしいから」
「わあああ。それは、心強いわ。応援しちゃう」
しかし、黄塚 萌々果本人が席につくと、二人はサッと自分の席に戻ってしまう。
声を掛ける勇気は、さすがにないか。
たしかに、彼女の放つオーラは、次元が違いすぎる。
高嶺の花ってより、天空城に咲く花みたいだし。
で、OWOでの仕事が始まる。
フルタイム授業が始まったので、萌々果さんと会う機会はめっきり減ったが。
「っていう話を聞いたんだけど」
オレたちは、いつものファンタジーアクションゲームを楽しんでいる。
「それは、うちの父親が関係しています。父が出資して、若い人にチャンスを与えています。斎藤さんのおうちは、独自で展開なさっているみたいですが」
「買収したりとかは?」
「ありえないですね。商店の発展を、こちらが邪魔してはいけませんから」
町内会とも話し合って、商業展開しているそうだ。ただ、いくらこちらが合理的だと思っていても、経営方針に黄塚側の意見を押し付けない。納得行くまで、話し合いをするそうだ。
店主の高齢化による閉店など、どうしてもムリっぽいところだけを再開発するという。
「あそこの一番人気は、タンメン屋さんなんですよね」
「わかる! 最近は、いつも行列ができてて、常連でも食えねえ」
「テレビで紹介されてから、火が付いてしまって」
元々常連で十分に支えていた店で、店主もこじんまりと展開したかったそうだ。
しかしドラマの撮影現場になったことで、必要以上に繁盛してしまった。
そのため前店主が腰をやり、今は弟子が運営している。
弟子は若くて、まったく疲労が見えない。が、ワンオペでどこまでいけるか。
「あのドラマは、わたしも大好きでして。ぜひ食べてみたいですね」
萌々果さんの趣味って、マジで幅広いな。なんでも見ている印象がある。
「空いているタイミングを見計らって、行こうぜ。店主に迷惑がかからない程度の、時間帯で」
「はい。ぜひ参りましょう。というか……」
「どうした?」
「これって、デートのお約束ですねっ」
……ッスー。
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