3 / 46
第一章 ビジホでバイトしていたら、クラスのお嬢様がオーナーだった。
第3話 ディレッタント
しおりを挟む黄塚 萌々果は、ディレッタントになりたがっていた。
「たしか、マニアとかオタではない、趣味範囲で楽しんでいる人だっけか?」
「八代さんの解釈で、合っていると思います」
ディレッタントの歴史は、案外古い。1700年代には、あったという。
「太宰治のエッセイにも、ディレッタントという言葉が出てきますよ」
「好事家って、かなり歴史のある文化なんだな」
といっても、もはやホラー系のテーブルトークRPGの職業としか、聞いたことがない。
「わたしは、オタクというには専門知識がなくて」
「ふむふむ」
どちらかというと、広く浅い知識で立ち回るというより、「財力で殴る」タイプのイメージだ。テーブルトークってやったことがないから、しらんけど。
金持ちなら、黄塚さんはとっくにディレッタントっぽいが。
「具体的に、どうなりたいんだ?」
「老後の資産は確保しつつ、遊ぶ感じですね」
主にゲームをしたり、アニメを見たり、絵画や文学に触れていたいそうだ。
「つまり、オタ活を充実させることだな?」
「はい!」
じゃあ、わかりやすい。
「今日は、何をすれば?」
黄塚さんが、ゲームのコントローラーを、こちらに差し出す。
「八代 信郎さん、一緒に遊んでくださいますか?」
「わかった。ひとまずプレイするか」
オレたちは、黄塚さんがやりたいと言っていたゲームを始める。
遊ぶゲームは、サードパーソン型のファンタジーアクションゲームだ。
この部屋には、モニターが三つある。その一つを、オレは使わせてもらった。
キャラメイクのやり方を、一通り教える。
「こうなるんですわね」
黄塚さんは、自分とは似ても似つかない、リザードレディお姉さんを作り上げる。
「体型はこんな感じで、ジョブは【ファイター】にしますわ。出自は【プリンセス】と。名前は、【モモネ】にでもしましょうか」
ロン毛をたなびかせる、リザード族の姫アマゾネスが完成した。見た目は美少女だが、目がトカゲ状で、舌の先は割れている。
「八代さんは、どうしますの?」
「魔法使いで、お姫様をサポートするよ」
マッチョお姫の召使いエルフという設定で、職種は魔法使いに。姫が脳筋だから、純魔にするかー。
「名前は、ノブローをもじって、【モブロー】で」
「八代さんはモブではありませんよ」
「モブでいいんだって。オレなんて」
「いえいえ。八代さんはやる人ですよ」
そんなやりとりが、数分続いた。
「では、冒険に参りましょう」
『やっちまおうかね!』
黄塚さんの言葉に呼応するかのように、モモネがしゃべる。
「まあ。キャラクターがしゃべりましたわ」
「他のモーションも、できるぞ」
「ホントですね! かわいいです!」
キャラがアクションを起こす度に、黄塚さんはハシャぐ。
「でも、安心はできないぜ」
最初のミッションは、【集落に現れたモンスターを撃退する】こと。
さっそくリザードマンの集落に、スライムの大群が押し寄せてきた。
見た目はキュートだが、ここまで密集しているとキモいな。
「武器は、ハルバートで参ります! それ!」
黄塚さんが、槍斧をぶん回す。
オレは後方から、モモネの攻撃力を上げる魔法をかけ続けた。
さらに、防御結界の魔法も仕掛ける。
スライムの体当たりが、結界に阻まれた。
そのスキに、モモネが魔物を追い払う。
魔物のボスが、集落に降り立つ。
「なにか来ましたね!」
「ボスだ! やっちまえ!」
大型のサイクロプスが、棍棒を叩き込む。
「ぬうん!」
モモネは避けず、棍棒を受け止めた。
「回避して! 受け止めるだけでも、ダメージが入っちまう!」
「でも避けたら、集落の子どもたちに当たってしまいます」
たしかに。集落からは大量に子どもたちが避難していく。
その子たちを守ることも、このミッションにおいて大事なことだ。
「子どもたちは、オレに任せて! アンタは、ボスの撃破に集中して」
オレは結界を、子どもたちの方へかけた。
「いいか? 回避だ! とにかく避けて避けて避けまくって!」
「はい! やってみます」
バツグンの反射神経で、黄塚さんは敵の攻撃を避け続ける。
枷が外れると、ここまで強いのかよ?
このゲーム、初めて触るって言っていたよな。
それで、こんなヤバイ動作ができるなんて。
ディレッタントとしての才能が、この人には備わっているのかもな。
モモネの攻撃を喰らい、サイクロプスが転倒する。
「スキあり!」
一気に、モモネが畳み掛けた。
「ヤバイ! 反撃が来るぞ!」
サイクロプスが、防御不可能なモーションを仕掛けてくる!
「あぶない!」
オレはムリヤリ体移動をして、モモネをどかせた。
サイクロプスが、オレを叩き潰す。
オレのゲームキャラは、死亡した。
すぐに復活はするけど、リカバリーまであと数分はかかる。
「よくも、ノブローくんを!」
黄塚さんが、怒りに燃えた。
さっきより激しい攻撃の連続で、サイクロプスを切り刻んでいく。
再度、サイクロプスが反撃を繰り出した。
今度は、黄塚さんも油断しない。
モモネを巧みに動かし、カウンターのカウンターまで披露した。
「やりました! ノブローくんの仇は取りましたよ」
おお。黄塚さんがまた、オレを下の名前で呼ぶ。
オレを下の名前で呼ぶ他人の女子なんて、莉子くらいしかいない。
なんか、変な気分だ。
「こちらも、ちょうどのタイミングで復活できました」
喜びがバレないように抑えた成果、オレも敬語になっちまう。
2
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる