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第三章 新天地の領主は、新たな転移者!?

第23話 線路増設

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 SLを通す路線の他に、トロッコ型列車用の新しい線路を引くことになった。こちらは軽貨物の運搬と、一般客の送迎に用いられる。馬車の負担が減るわけだ。

 線路周辺の魔物は、レッドアイ夫妻に迎撃してもらう。

 オレたちは、線路開発に勤しんだ。この付近にいたボスクラスの魔物もいなくなったことで、開発はまずますの感じ。

「あれだけ草ボーボーだった土地が、見違えるようになっていきマース!」

 開発途中のトロッコ駅を見て、ジャックが歓喜する。

「これで、北ナマゾにも人が戻ってきマース!」

「魔物ばかりの修羅の国が、だんだんと生き返っていくのがわかりますわ!」

 手を付けるのは、駅だけではない。北ナマゾで採れた果物を使って、ジャムや酒を作ることになった。

 果実酒やジャムの開発は、ハーバリストのペペルに頼む。

「こんな感じですかね、鹿の人?」

 オレとナタリーナで、ペペルの作ったジャムを味見した。ジャムを白パンにつけて、一口いただく。

「うまい。ハチミツがきいてる」

「たしかに。こいつはパンが進んじゃうやつだな」

 こちらでのパンはスープに付けて食べるのが主流だが、これは貴族でも一般家庭でも食ってもらえそうだ。

『道の駅 北ナマゾ』の建設も、順調である。オレたちが拠点にしている『鹿の駅』と繋がったことで、人材や物資の運搬が容易になった。SLの風圧にふっとばされないように、本線との距離は離してある。パッと目的地に行きたければ、力強いSLを。のんびり旅をしたいなら、トロッコによる鈍行に乗ってもらえばいい。

 南ナマゾに戻ることになった。ナタリーナはSL駅のベンチに腰掛け、スマホにメールを打っている。相手は、【ブキミししょー】だろう。

「ナタリーナは、お前はどっちの路線が好みだ?」

 オレは、ナタリーナのそばに座る。

「どっちにもよさがある。行きと帰りで違う路線を両方使う」

「ぜいたくな利用方法だな。お前らしいや」

「でも、なにか足りない。なにかがほしい。列車ならではのなにかが」

 スマホを握りしめ、ナタリーナは思案していた。

「だよな。SLにせよトロッコ列車にせよ、もうひとつ決め手がほしい」

「だから、今それを相談している」

 オレのスマホをよく見ると、大量のメッセージが。ナタリーナは【ブキミししょー】に、というかオレに、ベストなアドバイスを要求していた。

『私も考えているところです。欲しいものはありますか?』

 ナタリーナに隠れて、オレは意見を求める。コイツがほしいものを知らないと、助言しようがない。

『景色やロケーションは最高。でも、途中でお腹が空いてくる』

 腹か。たしかに、ナタリーナは食いしん坊だもんな。

『列車に果物を持ち込んで食べるのでは、ダメなんですか?』


『それでもいい。実際にやってみた。でも、なんか違う』

 悩んでいるナタリーナの前に、一組のドワーフカップルがSLから降りてきた。
 男性は白いタキシード、女性はウェディングドレスに身を包む。

「おお、鹿の人ですか。ここで、挙式をしてくださると聞いてきたのですが?」

「そうなの?」

 メッセージを送っているところに急な質問がきたせいか、ナタリーナは素になっている。

「地元でもよかったのだが、新しい式場ができたから、せっかくなのでそっちで式をあげようと妻と決めたのです」

「ああ、ミスター・ジャスティスのことか? 挙式の会場はこちらだ。どうぞ」

 オレにつられて、ようやくナタリーナも「どうぞ」と道案内を始めた。

「おお、お二人ともご親切に」

 新郎新婦が、屋敷の隣にある教会へと向かう。それにしても、二人で担いでいるあのデカい釜はなんだ?

 ジャスティスことジャックとモヒートらのレッドアイ夫妻は、副業で結婚式のコーディネーターをやっている。既婚者だから、現地人になにかしてやれないかと考えてのことらしい。

「妻よ。どうかこの釜で、俺のメシを炊いてほしい」

 ドワーフの新郎が、同じくドワーフ族の新婦に大きな釜をプレゼントした。
 手作り感満載だが、愛情がたっぷりこもっているのがわかる。

「はい。よろこんで」

 妻も、愛おしげにその釜を受け取った。あのデカい釜を一人で担ぐなんて、すげえな。

 その後、二人はメンディーニ王国へと帰っていった。

「ドワーフは結婚したら、釜を作るのが夫の仕事。亭主の作った釜でごはんを炊くのは、妻の仕事だって言われている」

 いい風習だな。男女平等をうたう人からすれば差別だと言われかねないが、共同作業という意味ではすばらしいと、オレは思う。 

 ここまで聞いて、オレは親と帰郷した過去を思い出した。

 新幹線に乗って食ったアレ、うまかったなあと。

「そうだ! 駅弁なんてどうだ?」

「えきべん?」

(第三章 完)
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