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第三章 新天地の領主は、新たな転移者!?

第17話 開拓ヘタなバトルマニア

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「いいのか?」

 領地をいただけるなんて、かなり高待遇なのだが。

「ミスター・キョウマやプリンセスに開拓してもらった方が、我々にとってもメリットマシマシなのデース」

 ジャスティス・クレイモアことジャックは、遠慮はいらないという。妻のモヒート・レッドアイも、隣で首を縦に振った。

「でも、領土拡大のために呼ばれたんだろ? 仕事をほっぽりだしていいのかよ? 第一、精霊が黙ってない」

 オレたち冒険者には、一人につき一体の、監視用精霊がついてくる。仕事をサボったり以来に失敗すると、即座にギルドへ報告が行く仕組みだ。

「ミーたちに開拓なんて不可能デース。ミーたち夫婦は、バトルをしに来たのデース。産業なんで、わかりまセーン。ミーはモンスターを狩れれば、それでいいのデース」

 オーバーに、ジャックが肩をすくめた。

「北ナマゾ領域のモンスターは、我々が壊滅させますわ。残った土地は、ご自由にどうぞ」

「構わないが、地元の領主の許可は?」

「わたくしたちが、領主ですわ」

 モヒートによると、グレイ夫婦を召喚したのは、エルフの王だという。

 エルフたちも、夫婦の活動に期待はしていなかったらしい。ただ、圧倒的な強さで、モンスター狩りに貢献してくれるだろうと。

「ミーたちも、エルフたちの要望に応えようとしたのですが」

「実際に、北ナマゾエリアを見ていただいて、決めてくださるかしら?」

 夫妻は、列車を動かすという。

「せっかくですから、操作なさいますこと? なんだか、夢中なご様子ですから」

 我らが姫様は、車掌にへばりついて質問攻めをしていた。

「ナタリーナ! コイツを動かしてみるか?」

 メモを取る手を止めて、ナタリーナはこっちを向く。

「いいの?」

 オレはレッドアイ夫妻に、確認を取った。

「都市を開拓していただくのです。それくらいサービスさせていただきますわ」

 夫妻から許可を得て、ナタリーナは運転席へ。慎重にレバーを操作して、列車を発進させた。

 鈍行だが、列車はトンネルを抜けて北ナマゾを目指す。
 ナタリーナの目が、キラキラしていた。まるで、子どものようである。見た目は子どもだが。

「さあ、トンネルを抜け……なんだこれは?」

 長いトンネルを抜けた先には、荒れ地が広がっていた。

「あの焼け野原は?」

 炭化した木々が、あちこちに散乱している。

「果樹園でしたの。モンスターが湧き出て、果物ごと焦土になりましたの。せっかく魔物から貴重な素材をゲットしましたのに、植えたらあのとおり」

 もはや、どのような実がなっていたなんて、確認もできない。

 畑らしき場所も、雑草だらけである。

「へーいモンスターデース!」

 荒れ地に、鳥型モンスターが集まってきた。列車を狙っている。

「ブチかましてしまいなさい、ジャック」

「OK! ゴートゥーヘル!」

 ジャックが、銃を腰から引き抜いた。窓の外から、銃を撃つ。空を飛ぶ魔物の群れを、すべて一発で仕留めた。

「あんな小さい的に、ヘッドショットかよ」

 とんでもない凄腕だ。

 空を飛ぶモンスターが多いなら、飛び道具の方が有効だろうな。

大きい剣クレイモアと名乗っているのに、どうして拳銃使いなのかと思ったが。列車から攻撃するためでもあるのか」

「イエース。【ジャスティス・クレイモア】というネームは、ミーが長年愛用していたハンドルネームデース。けど、こちらでは銃が有効なのデース」

 このゲームをする以前は、大剣使いだったらしい。

 ナタリーナの操縦する列車が、駅に到着した。伯爵邸と書かれている。

「屋敷を駅舎にしたんだな?」

「逆ですわ。駅舎を、屋敷に作り替えましたの」

 元々あった屋敷を解体して、駅に移したらしい。排気による炭被害の対策は、できていた。

 かろうじて、鉄道周辺は整備されている。とはいえ、急ピッチでこなした感じがすごい。

「鉄道さえできてしまえば、あとはおまかせしまーす」

「まあ、どうぞお入りになって。お話はお屋敷の中で」
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