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第一章 バーバリアンは、お姫様!?

第6話 チュートリアル終了

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 激しい雨が続くナマゾ地区を、まる二日かけて進んだ。
 二日目となると、雨はすっかり上がる。川の流れも、穏やかになった。
 モンスターの巣に、たどり着く。古代遺跡……違う。これは、無人駅だ。

「どうやら、ボスがお目覚めのようだぜ」

 サーベルタイガーがムクリと起き上がり、こちらに牙を剥く。

「こいつが駅長のようだな」

 ネコ駅長にしては、殺意が高すぎるが。
 このモンスターは序盤のボスにして、最強の一角と恐れられている。

「最初から、全力でいかせてもらう。【分身の術】!」

 モンクのスキルを活かし、もう一体の分身を発動した。二手に分かれて、腹に一撃をかます。

「くう、固い!」

 魔物の上部にあるHPゲージが、減っていない。
 しかも、オレを敵として認識していないようだ。
 序盤のボスって、こんなに強かったか? オレはもう結構強いはずだが。
 このゲームは、いわゆる「死にゲー」……死んで覚えるタイプのゲームではない。難易度の調節も絶妙だったはず。まして、序盤で詰むようなバランス調整ではなかった。

「レベルスケーリングなんて採用していないはずだが」

 こちらの戦闘レベルに応じて敵も強くなるシステムを、「レベルスケーリング」という。倒した敵が落とすアイテムが強くなる反面、自分の強さを感じにくくなるデメリットもある。
 このゲームでは、そんなシステムではない。仕様が変わったのか?
 となると……まさか。

「オレはナタリーナのボスに、手出しできない?」

 それしか、考えられない。オレに対して、このボスは無敵のようだ。

「たしかこのゲームは、そもそも協力プレイができないんだったっけ?」

 案の定、黒いサーベルタイガーコンビが、出てきた。

「駅長が、もう一匹出てきたぞ」

 ボスには、黄色いタイガーと、黒いタイガーがいる。

「ツガイのようだな。片方は頼めるか?」

「問題ないのだ、キョウマは黒い方を」

 一匹はナタリーナに任せて、オレは黒い方を迎え撃った。

「さあ来い!」

「こっちが、オレの相手かよ!」

 サーベルタイガーの牙を、カウンターの棒術で叩き折る。
 こっちには、ダメージが通った。
 やはり最初から、ソロプレイ仕様なのか。
 でも、その方がいいかもしれん。ヘタに手伝ってパワーレベリングになっても、姫は面白くなかろう。人の戦績で経験値を得る「パワーレベリング」プレイなんて、姫は臨んでいないはずだ。
 これは、面倒なことになったぞ。とはいえ、指示厨冥利に尽きるってもんだ。
 オレは、アドバイスだけ飛ばそう。
 そんなことを考えながら、オレは分身の術でボスを全力撃滅した。

「あっちは、えらいことになっているな」

 ナタリーナを見ると、敵に囲まれていた。【トルネードスピン】も、間に合っていない。

「全然、レベリングできてないからなあ」

 プレイ中、ナタリーナは同じエリアをずーっと回っていた。弱い敵と戦いすぎて、経験値を満足に獲得できていない。
 目的地であるモンスターの巣に到着した途端、強いモンスターに囲まれてしまったらしい。

「こっちは終わったぞ!」

「まだ黒いのが残っているじゃん!」

「そっちは、お前が倒さないといけないようだ」

 オレは、事情を説明した。オレにはオレの、ナタリーナにはナタリーナのボスが配置されていると。

「めんどくせーなー」

 ナタリーナはブーたれる。

「ザコは、こっちで引き受ける! 【アイスシャード】!」

 低レベルの全体魔法で、周辺の敵に氷の矢を放つ。
 さすがにザコまでは、判定に含まれていないようだ。氷の矢は、確実に周りのザコを貫いている。

「足の早いやつは、飛ばせ!」

「うーせーなー。方法考えてるトコ!」

 うーん、やっぱりオレのアドバイスは聞かないようだ。

『あなたのスキルで、相手を飛び上がらせるスキルがあるはずですよ』

 戦闘中のタイミングで、スマホにコメントを打ち込む。
 通知に反応したナタリーナが、オレからのコメントを読む。

「ブキミししょーの教えだったら、間違いない!」

 ナタリーナが、剣から衝撃波を放つ。スキル【ソードフォース】で遠距離攻撃をして、近づかせない戦法か?

 違う。わざと避けさせるつもりなんだ。
 足元を狙って、ソードフォースを撃つ。
 サーベルタイガーが、跳躍した。
 動きが緩慢になったところを、さらにソードフォースで斬り伏せる。
 やはり、素早い敵はジャンプさせて動きを止めるに限るな。

「ナイスだ」

 オレではなく、ブキミししょーの言葉なら聞くのはシャクだが。

「よし。これで、拠点は決まった」

 ここには川もあり、水には困らない。山の上にある台地なので、水害も心配ないだろう。

 なにより、線路がある。廃棄されているが、修理すれば列車が走れるはず。

「明日から、修理に取り掛かる」

「わかった。ようやくスタート地点だな」

 やっとこれで、序盤は終了だ。
 ゲームで言えば、ここまでがチュートリアルである。つまり、操作方法に慣れるまでのウォーミングアップに過ぎない。

 ナタリーナの冒険は、チュートリアルすら終わっていなかったのである。
 
 
(第一章 完)
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