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第三章 旅がしたいドラゴンの姫

第32話 女子会

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 王都には、キノコの香りが充満している。

 キノコを味わいながら、メルティはなにかを決意しているようだ。

「ドンギオ。わたし、もうちょっとお店の焼きそばを食べていますね」

「お姉さんは、いいのか?」

「はい。姉が言ってくれたんです。もっと色々と見てこいと」

 メルティは、雑踏の中に消えていった。



 気になって、オレは治療院に向かう。メルティの姉である、ギュレイがいるはずだ。

「ギュレイは?」

 ベッドに、ギュレイの姿はない。まさか、容態が悪化して。

「あのエルフさんなら、酒場に顔を出すと言っていましたよ」

「よかった。ありがとう」

 看護師にそう告げられた。

 オレは、王都の酒場に行く。

 ギュレイは、エムと食事をしていた。さしずめ、女子会の様相を呈している。

 トマトサラダとキノコクリームパスタを、ギュレイは片付けた。

「しっかり食べるんだ。キノコなんてもう見たくないかもしれないが、栄養価は高い」

 エムがキノコと肉を切り分け、ギュレイに皿を渡す。

「ふわい。もっちゃもっちゃ」

 体力を消耗していたのか、ギュレイはフォークが進んでいる様子である。

 しかし、なんだこの量は。食べても食べても、減っていないじゃないか。ロースビーフなんて、塊で残していた。

「とはいえ、さすがに頼みすぎたね。申し訳ない。こういうオーダーには、慣れていなくてね」

 かなりボリューミーな料理を、エムも用意している。女二人で食べる量じゃないよな。

 とはいえ、ギュレイはほとんど食べ切れていない。やはりエルフというべきか、胃袋が小さいのだろう。

「ドンギオ、早速で悪いが、食べ残しの処理を頼めるか?」

「任せろ」

 ほとんど手を付けていない肉を、オレは平らげる。

「身体はいいのか?」

「はい。おかげさまで。妹のポーションのおかげです」

 空になった小瓶を、ギュレイは大事そうに握りしめていた。

「メルティが、家を出た原因は?」

 オレが聞いても、ギュレイは首を振った。

「あいつは、世界中の飯を食うんだって、外へ飛び出したらしい。巫女の仕事が始まったら、二度と外に出してもらえないからって」

「あの子らしいです」

 ギュレイは、ハーブティのカップに口をつける。

「いや。オレにはどうもメルティが、そんな理由で家出するような女には見えないんだ」

 不思議そうな顔を、ギュレイが見せてきた。

「もっと、大切な用事があるから、出ていったんじゃないのか?」

「そう言われても、心当たりはありません」

 姉も知らない事情を、彼女は抱えているのか?

「探していたのは、メルティが家出したからっ、てだけか? 例えばメルティが、人を殺したとか」

「とんでもない。子どもたちにも慕われていました」

 ギュレイはさらに、首を振る。

 それにしても、メルティはどうして家出なんて。

 特に不自由は、していなさそうだったんだけどな。何が気に入らないのかは、本人に直接聞くか。

「跡取りってのが、重荷だったのかしら?」

「ん? 第一王女はあなただろう? なぜ妹君のアメンティ王女が跡取りなのだ?」

 エムからの問いかけを、ギュレイは肯定した。

「わたしは島の政を、妹のアメンティには巫女を任されているのです」

 巫女としての力は、メルティの方が上らしい。

「本当はわたしが、巫女になれればよかったのです。わたしは、地元の島が好きなので。けど、妹のほうが魔法の素質は高くて」

 親が勝手に、決めてしまったのだという。

「それじゃあ、一体何が――うおっ!?」

 城の方で、大きな物音が。爆発?

「ドンギオ!」

 オレが外へ出ようとしたら、メルティと鉢合わせした。

「なにがあった、メルティ!?」

「お城が、お城が燃えています!」

 城の方角を、メルティが指差す。

 王城を、黒い影が覆っていた。夜よりも黒く冷たいウロコを翼に張り付かせ、黒いドラゴンが宙に浮いている。さっきの爆発音は、ドラゴンの尾が強固な城の外壁を破壊する音だったのだ。

 あれが、ブラックドラゴンか。

 ドラゴンの頭上には、真っ黒い長髪をたずさえた女が。濃い紫のローブをまとった少女は、バルコニーにいる王を睨んでいた。

「あれは……」

 エムが、驚きの顔になる。

 黒髪の少女は、エムそっくりだったのだ。
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