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3-3 大人数で、殴りに行きます

ダークナイト ラムブレヒト

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 二層にいたのは、【黒騎士ダークナイト】だった。闇に落ちたハンターの一種で、呪われたアイテムも装備できる。その代わり、相応のペナルティは発動するが。

「あれが、ラムブレヒトか?」

 目からは、赤い光が通っている。フォート族のような全身金属の種族なのか、ヨロイから発せられている光なのかは、わからない。

 負傷者は多数だが、犠牲者は出ていなかった。

「化け物め!」

 複数の銃撃を、剣だけですべて弾き飛ばす。得物は、両手持ちのグレートソードである。刀身は黒い。

 西洋ヨロイという、実にクラシックな出で立ちだ。重火器が主流となった時代には、似つかわしくない。なのに、黒騎士は近代武装をものともしなかった。

「何があった?」

 物陰に隠れている兵士の一人に、状況を確認する。

「二階層のボスを調査していたんだ。そしたらいきなり出てきやがった。べらぼうに強い!」
「ヤロウ、オレたちを足止めして遊んでやがる!」

 すっかり怯えきった様子で、兵隊たちは語る。

 団長のエトムントだけが、唯一善戦しているようだ。しかし、仲間をかばいながらの攻防なので、真の実力を発揮できないでいる。

 血の気の多いルーオンでさえ、ラムブレヒトに突っ込んでいく無謀さは持ち合わせていない。金縛りにあったかのように、その場を動けなかった。

 コネーホも、同様である。杖をギュッと掴み、足を震わせるしかできない。

「隊員の回復を頼むぞ。あたしがヤツの足止めをするから」
「私とシーデーで、あなたたちを守るわ。安心して仕事して!」

 トウコとフェリシアから声をかけられ、「は、はい!」とコネーホは返事をした。負傷者に【エリアヒール】を撒く。

 防御するなら、フェリシアだ。
 が、黒騎士の素早さに対抗できるかは怪しい。

 トウコの判断は正しかった。
 
 コネーホの魔法熟練度も上がるだろう。

 戦闘や労働などのスキルには、ポイントの他に【熟練度】という要素がある。
 熟練度が増すと、スキル使用時のマナを軽減できるのだ。
 いくらスキルポイントが高くても、使い続けなければ肉体に浸透しない。
 覚えているだけで使用しなければ、技術は腐ってしまうのだ。

「……オレは、どうすれば?」
「あんたもコネーホを守ってあげるの!」

 震えるルーオンに、フェリシアが活を入れた。

「おう!」

 目が醒めたのか、ルーオンの震えが止まる。

 兵士の一人が、尻餅をつく。

「うわあああ!」

 彼に向けて、黒騎士が剣を突き刺そうとした。

「【ソードバリア】!」

 すかさず、サピィが障壁を張って、黒騎士の剣を防ぐ。

 再攻撃しようと剣を振るう。

「とりゃああ!」

 上がった腕に向けて、トウコが蹴りを二発食らわせる。

 黒騎士は、大きく仰け反った。しかし、剣を取り落とすまでには至らない。ギリギリのところで踏ん張り、反動でさらに追撃しようとする。

 トウコは避ける体制に入るが、あのままでは背中を斬られそうだ。それでも構わず、カウンターの上段回し蹴りをかまそうとしている。玉砕覚悟か。

「おらあああ!」

 オレは、刀を抜く。トウコに振り下ろされそうな一撃を受け流す。

「ナイス! チャストォ!」

 黒騎士の顔面へ、渾身のローリングソバットが突き刺さった。

「【デモリッション】!」
  サピィの【破壊光線デモリッション】が、黒騎士に炸裂する。

 しかし、黒騎士は剣から赤紫色の衝撃波を放った。サピィの破壊レーザーを、剣戟で壁へと流す。

「あれは、【ディメンション・セイバー】!?」

 サピィの破壊光線を退けるとは、かなりの高威力だ。ディメンション・セイバーは、無属性の遠距離攻撃である。どの魔物にも有効であるがゆえに、威力は低いはず。

 おまけにサピィは、単独で魔王クラスさえ倒すハンターだ。

 なのに、黒騎士はその攻撃を防いだのである。

「ぬうっ! これが例の……」

 とはいえ、剣からは煙が上がっている。あれは……。

「このままでは、分が悪いか」

 くぐもった声で、黒騎士が後ずさる。信じられないことに、壁と同化した。

「待て。ええい、撃て!」

 エトムント隊長が、号令をかける。

 壁に向けて、騎士団が一斉掃射した。

 しかし、いくら騎士が消えた壁を調べても、なにもない。壁に穴が空いただけだ。触っても殴っても、気配すら消えていた。

「逃げたか。それにしても、なぜ騎士は襲ってきたんだ?」
「あの部屋にある、魔力石を調べていたんだ」

 通路の脇にある小部屋に、墓石のような形の魔力石が突き刺さっている。

「これは、例の魔力石か」

 魔物を凶暴化し、増やす魔力石だ。これまで、数々のダンジョンでみかけたものと同一である。

「浄化しておきましょう。手遅れかもしれませんが」

 サピィが、魔力石に触れた。あっという間に、石から魔力が失われていく。やがて、石はボロっと崩れた。

「戦力分析をします。シーデー、戦況の記録を」
「承知」

 シーデーが、戦場を見渡す。

「何をしているんだ?」
魔導占術師マギ・マンサーのスキルで、戦況を再現します」

 サピィが腕から、スライム状の粘液を出した。
 ドロっとした液体が、床に落ちる。

 その粘液が、壁や床を這いながら進んでいった。カギカッコ状に折れたシールドも、確認するかのように撫でる。一通り回った後、サピィの腕へ戻っていった。

 シーデーが戦場の状態を記録し、サピィがモニターでどのような戦闘だったのかを復元するという。

「復元って?」
「壁をモニターにして、映し出します」

 敵をよく知らなければ、戦略の立てようがない。

 そうサピィは主張し、シーデーの肩に手を置く。

 シーデーが、目から光線を放つ。

 壁に、ダンジョンそっくりの映像が。

「これは、サピィが映像化しているんだな?」
「はい。マギマンサーのスキルで、戦闘風景を再現しています」

 サピィが戦場の状態を確認し、それをシーデーに伝える。

 目をプロジェクター代わりにして、シーデーは当時の状況を再現しているらしい。

 モニターに、魔力石があった玄室が映った。
 
 一人の男が、魔力石を床に突き刺している。
 
 かなり簡略化されているが、黒騎士ラムブレヒトと見て間違いない。

「玄室に、この男がいたのか?」
「そうだ。我々は、魔力石を発動させるわけにはいかなかった」

 これ以上、魔物でフロアを埋め尽くしたくなかったからだろう。

「で、返り討ちにあったと」
「これだけの騎士団を、あの男はたった一人で迎え撃った。しかも、我々は何もできず」

 銃で撃っても、剣で切りかかっても、まったく刃が立たなかったという。まるで児戯のように。

 騎士隊長エトムントだけが、まともに切り合えていた。しかし、ダメージを与えるには至らない。

 黒騎士ラムブレヒトが、隊長に向けて剣を横に薙ぐ。

 シールド部隊が、黒騎士の剣を防いだ。

 突き破られこそしなかったものの、盾は折れ曲がり、使い物にならなくなる。

「おっ、ビョルンの召喚獣が現れたぞ」

 ビョルンが、アルマジロの召喚獣を出す。ピンチになった兵隊の元へ、かけつけた。

 両手持ちの魔剣を、アルマジロは真正面から受け止めてしまう。凶悪な一撃を食らって、ビョルンの召喚獣は消滅した。

「ビョルンはよく無事だったな?」
「どうにか。だが、『まじろう』のカードが斬られちまった。瞬殺だったぜ」

 召喚獣が倒されると、術士の同様に魔力ダメージを食らう。相当に疲労が溜まっているはずだ。

「二度と召喚できないのか?」
「いや。しばらくしたら回復する。だが、当分オイラは防御面ではサポートできないからな」
「回復の泉に戻るか?」
「いや。二層の泉をブクマしよう。フロアボスは、それから対処ってことで」

 第二階層に拠点を設ければ、少しは戦闘も楽になるはずだ。

「それにしても、二層はまだなにかありそうだな。油断できんぞ」

 エトムントの号令で、騎士団たちが動き出す。

 しかし、ルーオンはその場に立ち尽くしていた。

「どうした?」
「何もできなかった」

 まだ、ルーオンは震えが収まっていない。
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