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第三部 災厄の塔に棲む堕天使 3-1 塔を支配した堕天使を、殴りに行きます
ダークエルフと、かつての仲間
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改めて、俺はリックの顔を覗き込む。
褐色スキンヘッドの男性は、息も絶え絶えに俺を見た。
腕も足も、細身ながら逞しい。
だが身につけているレアアイテムは、どれも損傷がひどかった。
魔法で防弾コーティングされた布製バトルスーツは、食いちぎられたかのようにズタズタである。
トレードマークだったソードオフのショットガンも、根本から折れてしまっていた。
「無事かリック?」
「久しぶりだな、ランバート。ザマアねえや」
俺の声に反応して、リックが目を覚ます。彼はもう、片目が見えていない。
「オレなんて置いていけ。いい気味だろ、ランバート? お前をパーティから追い出したオレが、今じゃこんな――」
「トウコ、手伝え」
弱音を吐くリックに構わず、俺は治療を始めた。
トウコも悪態一つ漏らさずに、俺を手伝う。
「リック、敵は片付けた。もう大丈夫だ。帰るぞ」
「すまねえ。ホントに、すまねえ」
「トウコ、肩を貸せ」
これ以上放置していては、本当にリックの目が見えなくなってしまう。早く運ばないと。
「敵影はありません。連れていきましょう」
「よーし。おーい、ユキオ」
トウコが、召喚獣のバカでかいサモエド、【ユキオ】を喚び出す。
「コイツに乗れ」
「すまね……うぐ!」
タイミングなんて関係なく、トウコはサモエドの背にリックを乗せた。
「詳しい話は、ダンジョンを出てからだかんなー。ランバートが許しても、アタシは許すかわかねー」
「ああ。心得ているさ」
「今は休むんだぞ、リック」
トウコが、リックの尻を叩く。
「ところで、お前がリックをここまで運んでくれたのか。感謝する」
「ありがとうな。オイラ、ビョルンってんだ」
ビョルンというダークエルフの格好は、中性的なビジュアルだった。
「スカート? 男性ですよね?」
「そうさ。スカートにもズボンにもなるんだ」
得意げに、ダークエルフの少年はカーテシーを見せる。スカートの裾をつまんで、貴族風にあいさつする仕草だ。
「詳しい話は後だ。先にオッサンをギルドへ連れて帰ろう」
治療のために基地へ戻ったあとで、再度潜ることにした。
まずは、ヒューコへ連れて行かないと。
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
ヒューコは通称、【迷宮都市】とも呼ばれている。
ソーマタージ・オブ・シトロンが建てた【災厄の塔】によって、生計を立てているのだ。
ハンターギルドのマスターであるルエ・ゾンが塔を管理し、ハンターたちの育成に励んでいる。
この世界に湧いて出てきたモンスターの七割を一手に引き受けているだけに、ハンターの数も国の兵力も段違いである。
その分、争いも絶えないが。
ビョルンが俺たちを、治療センターへ誘導する。
「医者を連れてくる!」
先にセンターへ向かったビョルンが、医者を連れてきた。
「ご無事ですか、リック!」
治療センターから、続々と、ハンターたちが出てくる。リックの仲間だろうか。
巨大なサモエドの上から、リックは手を挙げる。しかし、声は出せない様子だ。
松葉杖を付きながら、ヒーラーらしき女性が俺たちに頭を下げる。
「どなたかは存じませんが、ありがとうございます」
「礼には及ばん。ただ、目をやられている。彼もガンスリンガーだろ? 目は大事だと思ってな。急いで帰ってきた」
リックを、治療センターへ預けた。
ストレッチャーに乗せられたリックが、手術室へ消えていく。手術中のランプが点灯した。
「後は、彼らに任せよう」
長居は無用だ。俺たちは、去ろうとする。
「あなたも休んではいかがです、ランバート?」
俺を気遣い、サピィが声をかけてきた。
「無用だ。俺にはこれがある」
アイテムボックスを漁り、俺はお菓子の袋を開ける。
甘みの強いエナジーバーを口へ運ぶ。
「回復ポーションをそのままで飲めないとか、ランバートは相変わらず舌がおこちゃまだな」
「お前にだけは言われたくないっ。トウコだって、ポーションを飲めないだろうがっ」
「今はサドラーの助けもあって、ポーションがおいしくなってるだろうが」
「ヒューコまでは、普及してないんだよ」
トウコにツッコまれ、俺も反論する。
「身体を休めとけよ、ランバート。強くなるのに、急ぐことはないぞ」
「わかってる。俺は強くなりたいとかじゃない」
はじめは強くなることに躍起になっていたが、今は落ち着いていた。
自分でどこまでできるのか、試したい欲が勝っている。
「トウコさんの言うとおりです。そんな付け焼き刃な治療法では、完全には回復しませんよ。フィーンド・ジュエルだって、万能ではないのですよ?」
「ダンジョンの異変を突き止めるのが、先だ。俺の治療なんて、後でいい」
俺は、お菓子とポーションを飲み干す。
治療センターを出ようとしたときだ。
「待って!」
さっきのプリーストが、俺たちを呼び止めた。
松葉杖を付きながら、こちらへ近づいてくる。
「傷がまだ、癒えないんだな?」
「ええ。コボルドの銃弾が足に入ってしまって」
急激に治癒魔法を施すと、弾が体内に残ると言われたという。
「本当にありがとうございました。彼は、リックは私たちを逃がすために、単身ダンジョンに残ったのです。リーダーとして」
どうやらリックは、彼女たちハンターグループをまとめていたらしい。
「リックはどうして、この塔にいたんだ?」
「テレポートされた先が、ここだったそうです」
俺は、トウコと目配せする。
たしか、トウコがジェンマ・ダミアーニとの戦闘を回避しようと、わざと宝箱のトラップを作動させたと言っていた。それに関係があったとは。
「飛んできた時点で疲労困憊だったこともあり、リックはこの塔でアイテムを掘ることに決めたそうです」
その後、彼女たちのリーダーとして再出発をしたという。
「いったい、何があったんだ?」
「スタンピードです」
何らかの理由で魔物たちが大発生するという、ダンジョン特有の現象だ。
「またですか」
僧侶が語った後、サピィがため息をつく。
俺たちも故郷のアイレーナで、何度か遭遇している。スタンピードの原因は、χという秘密結社のせいだったはずだ。
「χは倒したはずだ。どうしてまだスタンピードなんて?」
「それが、洞窟で奇妙な石のモニュメントを発見しまして」
俺たちは、互いに顔を見合わせる。
やはりだ。アイレーナと同じ状態が、災厄の塔でも起きているに違いない。
「どうしてだ? χは……あのモニュメントをダンジョンに設置していた組織は、ヒューコの手で倒されたって聞いたぞ」
「χって、ダークギルドのことですよね? 彼らは、災厄の塔からやってきた闇組織です」
「なんだと!?」
「実は、災厄の塔は数ヶ月前から、奇妙なことが起こっているのです」
なんでも以前から、塔の上空を黒雲が覆うようになったという。
それ以来、塔に逃げ込んだ犯罪者やハンター崩れたちが、徒党を組み始めたという。
「彼らは前から、野党まがいのことをして食いつないでいたのです。それが、急に組織化するようになって。ギルマスは、塔で何が起きているのかの調査を、私たちハンター全員に依頼したのです」
そこまで情報がありながら、俺たちには行き渡っていない。
ヒューコのギルドは、俺たちを信用していないのだろう。
「わかった。情報、感謝する」
続いて、ビョルンに問いかける。
彼は、ロビーで紙コップのコーヒーを飲んでいた。
「引き続きすまんが、情報をくれ」
「話は聞いたぜ。奇妙な石までなら、道案内できる」
ビョルンは、立ち上がる。
「よし。ルートを教えてくれ」
「いいぜ。ただし条件がある」
「なんだ? 金なら多少は出せる」
ビョルンは首を振った。「いらないっての」と。
「では、何が望みだ?」
「オイラも、連れて行ってくれ」
褐色スキンヘッドの男性は、息も絶え絶えに俺を見た。
腕も足も、細身ながら逞しい。
だが身につけているレアアイテムは、どれも損傷がひどかった。
魔法で防弾コーティングされた布製バトルスーツは、食いちぎられたかのようにズタズタである。
トレードマークだったソードオフのショットガンも、根本から折れてしまっていた。
「無事かリック?」
「久しぶりだな、ランバート。ザマアねえや」
俺の声に反応して、リックが目を覚ます。彼はもう、片目が見えていない。
「オレなんて置いていけ。いい気味だろ、ランバート? お前をパーティから追い出したオレが、今じゃこんな――」
「トウコ、手伝え」
弱音を吐くリックに構わず、俺は治療を始めた。
トウコも悪態一つ漏らさずに、俺を手伝う。
「リック、敵は片付けた。もう大丈夫だ。帰るぞ」
「すまねえ。ホントに、すまねえ」
「トウコ、肩を貸せ」
これ以上放置していては、本当にリックの目が見えなくなってしまう。早く運ばないと。
「敵影はありません。連れていきましょう」
「よーし。おーい、ユキオ」
トウコが、召喚獣のバカでかいサモエド、【ユキオ】を喚び出す。
「コイツに乗れ」
「すまね……うぐ!」
タイミングなんて関係なく、トウコはサモエドの背にリックを乗せた。
「詳しい話は、ダンジョンを出てからだかんなー。ランバートが許しても、アタシは許すかわかねー」
「ああ。心得ているさ」
「今は休むんだぞ、リック」
トウコが、リックの尻を叩く。
「ところで、お前がリックをここまで運んでくれたのか。感謝する」
「ありがとうな。オイラ、ビョルンってんだ」
ビョルンというダークエルフの格好は、中性的なビジュアルだった。
「スカート? 男性ですよね?」
「そうさ。スカートにもズボンにもなるんだ」
得意げに、ダークエルフの少年はカーテシーを見せる。スカートの裾をつまんで、貴族風にあいさつする仕草だ。
「詳しい話は後だ。先にオッサンをギルドへ連れて帰ろう」
治療のために基地へ戻ったあとで、再度潜ることにした。
まずは、ヒューコへ連れて行かないと。
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
ヒューコは通称、【迷宮都市】とも呼ばれている。
ソーマタージ・オブ・シトロンが建てた【災厄の塔】によって、生計を立てているのだ。
ハンターギルドのマスターであるルエ・ゾンが塔を管理し、ハンターたちの育成に励んでいる。
この世界に湧いて出てきたモンスターの七割を一手に引き受けているだけに、ハンターの数も国の兵力も段違いである。
その分、争いも絶えないが。
ビョルンが俺たちを、治療センターへ誘導する。
「医者を連れてくる!」
先にセンターへ向かったビョルンが、医者を連れてきた。
「ご無事ですか、リック!」
治療センターから、続々と、ハンターたちが出てくる。リックの仲間だろうか。
巨大なサモエドの上から、リックは手を挙げる。しかし、声は出せない様子だ。
松葉杖を付きながら、ヒーラーらしき女性が俺たちに頭を下げる。
「どなたかは存じませんが、ありがとうございます」
「礼には及ばん。ただ、目をやられている。彼もガンスリンガーだろ? 目は大事だと思ってな。急いで帰ってきた」
リックを、治療センターへ預けた。
ストレッチャーに乗せられたリックが、手術室へ消えていく。手術中のランプが点灯した。
「後は、彼らに任せよう」
長居は無用だ。俺たちは、去ろうとする。
「あなたも休んではいかがです、ランバート?」
俺を気遣い、サピィが声をかけてきた。
「無用だ。俺にはこれがある」
アイテムボックスを漁り、俺はお菓子の袋を開ける。
甘みの強いエナジーバーを口へ運ぶ。
「回復ポーションをそのままで飲めないとか、ランバートは相変わらず舌がおこちゃまだな」
「お前にだけは言われたくないっ。トウコだって、ポーションを飲めないだろうがっ」
「今はサドラーの助けもあって、ポーションがおいしくなってるだろうが」
「ヒューコまでは、普及してないんだよ」
トウコにツッコまれ、俺も反論する。
「身体を休めとけよ、ランバート。強くなるのに、急ぐことはないぞ」
「わかってる。俺は強くなりたいとかじゃない」
はじめは強くなることに躍起になっていたが、今は落ち着いていた。
自分でどこまでできるのか、試したい欲が勝っている。
「トウコさんの言うとおりです。そんな付け焼き刃な治療法では、完全には回復しませんよ。フィーンド・ジュエルだって、万能ではないのですよ?」
「ダンジョンの異変を突き止めるのが、先だ。俺の治療なんて、後でいい」
俺は、お菓子とポーションを飲み干す。
治療センターを出ようとしたときだ。
「待って!」
さっきのプリーストが、俺たちを呼び止めた。
松葉杖を付きながら、こちらへ近づいてくる。
「傷がまだ、癒えないんだな?」
「ええ。コボルドの銃弾が足に入ってしまって」
急激に治癒魔法を施すと、弾が体内に残ると言われたという。
「本当にありがとうございました。彼は、リックは私たちを逃がすために、単身ダンジョンに残ったのです。リーダーとして」
どうやらリックは、彼女たちハンターグループをまとめていたらしい。
「リックはどうして、この塔にいたんだ?」
「テレポートされた先が、ここだったそうです」
俺は、トウコと目配せする。
たしか、トウコがジェンマ・ダミアーニとの戦闘を回避しようと、わざと宝箱のトラップを作動させたと言っていた。それに関係があったとは。
「飛んできた時点で疲労困憊だったこともあり、リックはこの塔でアイテムを掘ることに決めたそうです」
その後、彼女たちのリーダーとして再出発をしたという。
「いったい、何があったんだ?」
「スタンピードです」
何らかの理由で魔物たちが大発生するという、ダンジョン特有の現象だ。
「またですか」
僧侶が語った後、サピィがため息をつく。
俺たちも故郷のアイレーナで、何度か遭遇している。スタンピードの原因は、χという秘密結社のせいだったはずだ。
「χは倒したはずだ。どうしてまだスタンピードなんて?」
「それが、洞窟で奇妙な石のモニュメントを発見しまして」
俺たちは、互いに顔を見合わせる。
やはりだ。アイレーナと同じ状態が、災厄の塔でも起きているに違いない。
「どうしてだ? χは……あのモニュメントをダンジョンに設置していた組織は、ヒューコの手で倒されたって聞いたぞ」
「χって、ダークギルドのことですよね? 彼らは、災厄の塔からやってきた闇組織です」
「なんだと!?」
「実は、災厄の塔は数ヶ月前から、奇妙なことが起こっているのです」
なんでも以前から、塔の上空を黒雲が覆うようになったという。
それ以来、塔に逃げ込んだ犯罪者やハンター崩れたちが、徒党を組み始めたという。
「彼らは前から、野党まがいのことをして食いつないでいたのです。それが、急に組織化するようになって。ギルマスは、塔で何が起きているのかの調査を、私たちハンター全員に依頼したのです」
そこまで情報がありながら、俺たちには行き渡っていない。
ヒューコのギルドは、俺たちを信用していないのだろう。
「わかった。情報、感謝する」
続いて、ビョルンに問いかける。
彼は、ロビーで紙コップのコーヒーを飲んでいた。
「引き続きすまんが、情報をくれ」
「話は聞いたぜ。奇妙な石までなら、道案内できる」
ビョルンは、立ち上がる。
「よし。ルートを教えてくれ」
「いいぜ。ただし条件がある」
「なんだ? 金なら多少は出せる」
ビョルンは首を振った。「いらないっての」と。
「では、何が望みだ?」
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