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第一部 レアドロップしない男 1-1 殴りウィザードとして生きていきます
殴りウィザード用の防具新調
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「旅に出るならアーマーを新調する必要があるな」
魔法使いが、モンスターに接近戦を持ち込むのだ。丈夫なヨロイがほしい。
俺は、馴染みの店を訪れた。
「よう、コナツ。繁盛しているか?」
熱した鉄を打っているドワーフの男性に、俺は語りかけた。
「なんだよ、ランバート・ペイジじゃねえか!」
甲高い声で声をかけられたドワーフが、作業を止める。
「仕事中に悪いな」
「いいっての。コイツは包丁だ。すぐ済む。よし、できた」
作業を完了し、ドワーフのコナツは手をタオルで拭く。
コナツ・フドーという、俺のお得意さんだ。
見た目は少年だが、もう四五だという。俺より二〇以上も年上だ。
つい最近、奥さんが三人目を身ごもった。なので、クリムの旅にはついていっていない。ここに根を張るつもりのようだ。
「追放されて、しょぼくれてると思ったぜ!」
「まあ、その通りなんだけれどな。それより」
俺が事情と、近況を説明すると、コナツはヒザを叩く。
「ギャハハハーッ! ウィザードで近接たあ、テメエらしいや! バカげてやがる!」
「無謀だろうか?」
「いんや。オレの娘なんざ、クリムのパーティだと僧侶なのに殴り担当だ! 笑うが、おちょくりゃしねえよ!」
一五になる長女を思い出し、コナツがゲラゲラと笑う。
コナツの長女は、いわゆるモンク僧である。武器を必要としない。
「父ちゃんが作った武器は使いたくない。拳士は魔物と、拳で語り合うもの」だって言っていたっけ。
拾ってきた革製ヨロイと盾を、コナツに売り払った。
「オーガの亜種か。一人でやるとは、大したもんだぜ」
「加勢がいたからな。さっそくだが、これを見てくれるか?」
俺は、オーガ亜種が落としたアイテムを、コナツに見てもらう。
「おうよ。どれどれ?」
物珍しそうに、コナツは宝石をマジマジとみつめる。
「こいつぁ、ルビーだな。このまま金に変えてもいいが、これは武器なんかに使うものだな」
たとえば、と、コナツがショートソードを棚から出す。
「これなんかは、柄に魔法石をはめ込んでる。そうやって、魔法を帯びた攻撃が可能だ」
「なるほど。触媒か」
魔法を補助するときに使う素材を触媒という。石だけではなく、人形や木の切れ端、書物などの形をしている。
「普通は鉱山なんかで掘るんだが、モンスターが持っているとは。しかも、かなりデカい」
「珍しいから、拾ったんだろう?」
オーガは、光ったものを好むから。
「かもしれんな。それにしては上等すぎるが。オレもこんな魔力純度の高い宝石は見たことがねえ。ン? そういえば……」
コナツが指を鳴らす。
「心当たりがあるのか?」
「ああ。なんでも、倒した魔物の魔力を、宝石に変えちまうヤツがいるらしい。こんな風に」
その魔物が落とした宝石は、絶大な魔力を放つという。
「どんなヤツだ?」
「スライムロードだ」
ロード……魔王だってのか? スライムの魔王か。
「たしか称号は、フレキシブル・ドロップ・ルーラー。またの名を【落涙公】って言ったっけな?」
魔物の中には、出世して魔王に転じるものがいる。そういう魔物は、純粋な魔族から忌み嫌われるらしい。そのため、蔑称が与えられる。
その魔王は【落涙公】フォザーギル、通称「泣き虫公爵」とも言うらしい。
「じゃあ、そのスライムの魔王サマが、オレの近くに現れたと?」
「かもしれん。つっても魔王だぜ? こんなヘンピな街をうろついているわけがねえ。聞けば、もう死んだってウワサだ」
なんでも、魔物が魔王になるのを嫌う魔族に、滅ぼされたとか。
とはいえ、この宝石が本当に落涙公がドロップしたものなら、強い装備を作れるはずだ。
「武器にはめ込むと言ったな? こいつに仕込めるか?」
オーガが落としたブロードソードを、コナツに託す。
「任せろ」
剣の柄に、コナツは金属の装飾品を取り付けた。その中央に、魔力石を埋める。これで、魔法力がアップだ。
「感謝する。あと、金属ヨロイを見せてくれ」
剣の代金をコナツに払い、防具も見せてもらった。
「いいのか、ドワーフが作った製品で?」
装備屋は、人間産と亜人産に分かれている。
なにも、人種差別しているわけではない。人とドワーフでは、作られる用途も変わるのだ。
人間が作った武器は、正確さが物を言う。軽いものが多く、扱いやすさも売りだ。
ドワーフが作った武器は、金属さえ紙切れのように切り捨ててしまう。
代わりに重量がある。
ドワーフお得意の装備といえば、剣よりは斧の方が多い。ドワーフが使うなら、重量や自身の速さなど関係ないから。敵の人間が剣を振るより早く、ドワーフは斧で剣を断ち切ってしまう。
ヨロイでも、同等のことが言えた。ドワーフ産の方が、必然的に重くなる。
「お前なら信頼できる。丈夫なヨロイがあったら、売ってくれないか?」
どこの誰が作ったかわからないヨロイに、体を預けたくなかっただけだ。
「ランバート、どういう風の吹き回しだ? 伝説の【サムライ】にでもなるってか?」
東洋には、魔法と剣を同時に扱う【サムライ】という職種がいるらしい。あいにく、俺はそんなに器用ではなかった。剣術など、習いたくもない。
俺は親父とは違うんだ。
「筋力も、随分とアップしたじゃねえか。やっぱお前さんは……」
「父と一緒にするな」
俺は無骨な剣士職が嫌で、魔法使いになったのである。
魔法使いが、モンスターに接近戦を持ち込むのだ。丈夫なヨロイがほしい。
俺は、馴染みの店を訪れた。
「よう、コナツ。繁盛しているか?」
熱した鉄を打っているドワーフの男性に、俺は語りかけた。
「なんだよ、ランバート・ペイジじゃねえか!」
甲高い声で声をかけられたドワーフが、作業を止める。
「仕事中に悪いな」
「いいっての。コイツは包丁だ。すぐ済む。よし、できた」
作業を完了し、ドワーフのコナツは手をタオルで拭く。
コナツ・フドーという、俺のお得意さんだ。
見た目は少年だが、もう四五だという。俺より二〇以上も年上だ。
つい最近、奥さんが三人目を身ごもった。なので、クリムの旅にはついていっていない。ここに根を張るつもりのようだ。
「追放されて、しょぼくれてると思ったぜ!」
「まあ、その通りなんだけれどな。それより」
俺が事情と、近況を説明すると、コナツはヒザを叩く。
「ギャハハハーッ! ウィザードで近接たあ、テメエらしいや! バカげてやがる!」
「無謀だろうか?」
「いんや。オレの娘なんざ、クリムのパーティだと僧侶なのに殴り担当だ! 笑うが、おちょくりゃしねえよ!」
一五になる長女を思い出し、コナツがゲラゲラと笑う。
コナツの長女は、いわゆるモンク僧である。武器を必要としない。
「父ちゃんが作った武器は使いたくない。拳士は魔物と、拳で語り合うもの」だって言っていたっけ。
拾ってきた革製ヨロイと盾を、コナツに売り払った。
「オーガの亜種か。一人でやるとは、大したもんだぜ」
「加勢がいたからな。さっそくだが、これを見てくれるか?」
俺は、オーガ亜種が落としたアイテムを、コナツに見てもらう。
「おうよ。どれどれ?」
物珍しそうに、コナツは宝石をマジマジとみつめる。
「こいつぁ、ルビーだな。このまま金に変えてもいいが、これは武器なんかに使うものだな」
たとえば、と、コナツがショートソードを棚から出す。
「これなんかは、柄に魔法石をはめ込んでる。そうやって、魔法を帯びた攻撃が可能だ」
「なるほど。触媒か」
魔法を補助するときに使う素材を触媒という。石だけではなく、人形や木の切れ端、書物などの形をしている。
「普通は鉱山なんかで掘るんだが、モンスターが持っているとは。しかも、かなりデカい」
「珍しいから、拾ったんだろう?」
オーガは、光ったものを好むから。
「かもしれんな。それにしては上等すぎるが。オレもこんな魔力純度の高い宝石は見たことがねえ。ン? そういえば……」
コナツが指を鳴らす。
「心当たりがあるのか?」
「ああ。なんでも、倒した魔物の魔力を、宝石に変えちまうヤツがいるらしい。こんな風に」
その魔物が落とした宝石は、絶大な魔力を放つという。
「どんなヤツだ?」
「スライムロードだ」
ロード……魔王だってのか? スライムの魔王か。
「たしか称号は、フレキシブル・ドロップ・ルーラー。またの名を【落涙公】って言ったっけな?」
魔物の中には、出世して魔王に転じるものがいる。そういう魔物は、純粋な魔族から忌み嫌われるらしい。そのため、蔑称が与えられる。
その魔王は【落涙公】フォザーギル、通称「泣き虫公爵」とも言うらしい。
「じゃあ、そのスライムの魔王サマが、オレの近くに現れたと?」
「かもしれん。つっても魔王だぜ? こんなヘンピな街をうろついているわけがねえ。聞けば、もう死んだってウワサだ」
なんでも、魔物が魔王になるのを嫌う魔族に、滅ぼされたとか。
とはいえ、この宝石が本当に落涙公がドロップしたものなら、強い装備を作れるはずだ。
「武器にはめ込むと言ったな? こいつに仕込めるか?」
オーガが落としたブロードソードを、コナツに託す。
「任せろ」
剣の柄に、コナツは金属の装飾品を取り付けた。その中央に、魔力石を埋める。これで、魔法力がアップだ。
「感謝する。あと、金属ヨロイを見せてくれ」
剣の代金をコナツに払い、防具も見せてもらった。
「いいのか、ドワーフが作った製品で?」
装備屋は、人間産と亜人産に分かれている。
なにも、人種差別しているわけではない。人とドワーフでは、作られる用途も変わるのだ。
人間が作った武器は、正確さが物を言う。軽いものが多く、扱いやすさも売りだ。
ドワーフが作った武器は、金属さえ紙切れのように切り捨ててしまう。
代わりに重量がある。
ドワーフお得意の装備といえば、剣よりは斧の方が多い。ドワーフが使うなら、重量や自身の速さなど関係ないから。敵の人間が剣を振るより早く、ドワーフは斧で剣を断ち切ってしまう。
ヨロイでも、同等のことが言えた。ドワーフ産の方が、必然的に重くなる。
「お前なら信頼できる。丈夫なヨロイがあったら、売ってくれないか?」
どこの誰が作ったかわからないヨロイに、体を預けたくなかっただけだ。
「ランバート、どういう風の吹き回しだ? 伝説の【サムライ】にでもなるってか?」
東洋には、魔法と剣を同時に扱う【サムライ】という職種がいるらしい。あいにく、俺はそんなに器用ではなかった。剣術など、習いたくもない。
俺は親父とは違うんだ。
「筋力も、随分とアップしたじゃねえか。やっぱお前さんは……」
「父と一緒にするな」
俺は無骨な剣士職が嫌で、魔法使いになったのである。
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